フジロッ久(仮) 『超ライブ』
超ライブ!フジロッ久(仮)がとうとう放った決定打、僕らを生かし動かす”愛”、その革命についての一大ポップアルバムの事でございます。凄いのだ。例えばインディー界のトップランカーであるceroにも引けをとらないような洗練されたソングライティング、それを台無しにするようなふざけたユーモアとかっこつけ。とびきりにみっともなくて、かつラブリーだ。かっこわるいことはなんてかっこいいんだろう。「ニューユタカ」や「あそぼう」を実践する理想郷としての「パーク」、そんな場所で「おかしなふたり」が出会ったならば、どちらともなく「あいらぶゆー」と叫び出し、やがては「結婚しようぜ」と約束を交わす事だろう。愛すべき生まれて育ってく法則。そんな緩やかな物語をもったこの名盤について少しお話させて頂きたい。
超ライブ。タイトルからして思い切りがいいと言いますか、その影響を1ミリも隠そうとしないわけで、『超ライブ』には”ラブリーウェイ”もしくは”ウキウキ通り”を大人のスキップで駆け抜けながら「君と僕とは恋に落ちなくちゃ!」と鼻水を擦りながら叫ぶようなパッションに満ちている。当然浮かぶ疑問、20年前に一世を風靡したあの音楽をそのままトレースしたとして、果たしたそれは現在のこの街に有効なのだろうか?おそらく、有効ではない。あの時代と今ではこの国の状況は丸っきり違う。いや、変わったと言うよりも、もはや目を背けるわけにはいかない所まで来てしまったのだ。A PAGE OF PUNKを始めとするゴリゴリのパンクミュージックを出自に持つフジロッ久(仮)だ。とことん逆らってもらわなくては困る。つまり何が言いたいかというと、彼らが『超ライブ』において試みているのは、
- アーティスト: 小沢健二,スチャダラパー,服部隆之
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 1994/08/31
- メディア: CD
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プロテストはプロテクト
インディペンデント それがヒント
自分は自分で守らなくちゃ 恋と音楽と友情で!
君と僕とが恋に落ちるのは、現実逃避でも何でもない。この無茶苦茶な現状に立ち向かう為に絶対に必要な法則だ。
こんな時代に
あなたと私 遠慮はいらない
フジロッ久(仮)「ワナワナ」
それは恋でなくてもいい。友人と語り合うでもいいだろうし、誰かとおいしいご飯をお腹一杯食べるでもいいだろう。勿論デモやシュプレヒコールだって有効なはず。とにかく重要なのは、それを誰かとわかち合う事、である。
喜びを他の誰かとわかち合う
それだけが この世の中を熱くする
小沢健二「痛快ウキウキ通り」
風船が飛んでった
追っかけて行きたいな
誰もが誰かのことを想う
フジロッ久(仮)「パーク」
どんな時代であろうと、ポップミュージックが与えなくてはならないのは、”生きる事を諦めない強さ”であって、その意味で小沢健二という人は圧倒的に正しかった。そのフィーリングを受け継ごうとするミュージシャンはこれまで数多いたわけだが、最もでっかい覚悟を持って現代に鳴らそうとしているのがフジロッ久(仮)なのだ。
youtu.be
超ライブ。このアルバムを語る上でもう1人重要な人物がいる。つんく♂である。よくある設問だけども、『超ライブ』をCD棚に収めるとしたら、その両隣には小沢健二『LIFE』とモーニング娘。『4th「いきまっしょい!」』が置かれている事でしょう。
乾杯BABY!
紙コップでYEAH! いいじゃない
OH YES気持ちが大事
飾りはBABY!
あるものでYEAH! IN THE NIGHT
OH YESアイディア勝負
「あるものでいいんじゃない?」「アイデア勝負」といったDIY精神に満ちたライン、実にフジ久的。もしくは、「さ~ほら愛そうぜ 最高級で愛そうぜ」と始まる超名曲「ザ☆ピ~ス!」なども実に『超ライブ』なのだ。
選挙の日って ウチじゃなぜか
投票行って 外食するんだ
奇蹟見たい すてきな未来 意外なくらい すごい恋愛
LET'S GO
好きな人が 優しかった(PEACE!)
うれしい出来事が(Yeah!)
増えました(PEACE! PEACE!)
大事な人が わかってくれた(PEACE!)
感動的な出来事と(Yeah!)
なりました THAT'SALL RIGHT!
どうだろうか。とてもイージーに、そしてファンキーに、何やら”真実らしいもの”を伝えまくっている。恋愛革命でピース。つんく♂のこうした態度は今、フジロック(仮)というパンクバンドに受け継がれている。彼らの最近のお気に入りの口上はこう。
愛と平和のモノマネ中です
どうかお見知りおきを。小沢健二とつんく♂、そうなってくると、『超ライブ』と一緒に対面置きしておきたいのが、住所不定無職が2013年にひっそりと放った超名盤『GOLD FUTURE BASIC』だろう。こちらについては以下のエントリーを参照願いたい。
hiko1985.hatenablog.com
と、まぁ以上の戯言では、この『超ライブ』というアルバムの魅力を半分も伝えられていないのかもしれない。例えば、全編に貫かれるリズムの躍動については?ザ・なつやすみバンドの中川理沙にパンクチューン「逆らえ!」を歌わせるという英断については?ceroのサポートメンバーであるMC.sirafuやあだち麗三郎を召喚した管楽器の圧倒的なヴァイブスは?ええーい、めんどくさい!命が踊る音、これで充分。バンドが奏でる全てのグルーヴは、そのフレーズに向けて奉仕している。語彙不足も甚だしいが、フジロッ久(仮)の演奏は凄いのだ。プレイヤビリティの話ではない。生活する事、生きる事が、演奏するメンバーの身体に落とし込まれていて、鳴らされる音はまるで日常そのもの。この点においてゲストプレイヤー陣をはじめとする”とんちレコード”ひいては片想いの1stアルバム『片想インダハウス』
hiko1985.hatenablog.com
がフジロッ久(仮)に与えた影響は非常に大きいのだろう。そして、フジロッ久(仮)の演奏にはそいつを絶対に守るのだ、というアゲインストがある。まさしく『LIFE』レベル・ミュージック。
最後に、言葉を費やさねばならないのは、藤原亮と高橋元希という類まれなる2人のフロントマンについてだろう。帯とライナー(名文!!)を引き受ける小西康陽を一発でノックアウトさせた「バンドをやろうぜ」(ミニアルバム『シュプレヒコール』に収録)などに顕著なドストレートなパッションを言霊としてのその才能は、「結婚しようぜ」をはじめ今作においても炸裂。高橋元希から溢れ出す、生へのひたむきさは、どうしてこうも胸を打つのだろう(シニカルでアイロニカルな私にさえ)。そして、藤原亮。このとびきりに歌の上手いボーカルの存在が、バンドを特別なものにしている。これまでのパンクバンド然としたぶっきらぼうな歌唱からシフトチェンジし、とても丁寧に録音されたそのボーカルは、言葉とメロディーを弾ませる。そして、とても大きな声の出せる人だ。小さな声、というのも決して阻害されるべきでは大切なものなのだけども、大きい声を出せる人は、大きい声で歌うべきだ。その歌が正しくて美しいものであれば、言う事なしだろう。最後に、ティーンエイジャーもしくは20代のみなさん、もしかしたらあなた達は、かっこいいままの小沢健二にも、銀杏BOYZにも間に合わなかったのかもしれない。でも大丈夫、フジロッ久(仮)はあなた達のバンドだ。その事を共に祝福しようではありませんか。
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