青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

藤井健太郎『芸人キャノンボール2025』


芸人キャノンボールが9年ぶりにU-NEXTで復活。地上波から配信に舞台を移したからと言って、内容が大きく過激になったわけではない。カンパニー松尾の『テレクラ・キャノンボール』をベースにした基本ルールは変わらず。メンバーは多少変更になっているが、有吉弘行・田村淳・千原ジュニアおぎやはぎ劇団ひとりなどの核となるところは変わらず。変化と言えば、彼らが乗り込む車が大きく変わった。地上波版では、ベルファイヤ、セレナ、ステップワゴン、オデッセイなどの国産ファミリーカーが並んでいたが、今回はマイバッハ、センチュリー、キャンピングカー(とアルファード)で、とにかく画が派手になった。芸人キャノンボール約10年ぶりの復活において、プロデューサー・演出の藤井健太郎がベットしたのは“車”ということだ。しかし、それは車の走る画にということでなく、車内でのタレントのトークに賭けている。ステージごとのお題だけを眺めると、「とにかく相撲が強い女性」「とにかく騎馬戦が強い水着の女性」「とにかく歌が上手い人」というようにこれまでと変わりばえがなく、ルール作りに長けるゲームメイカー藤井健太郎らしくないな、と感じたのだけど、このお題はあくまでマクガフィン(話を進めるための代替可能な動機付け)みたいなもので、本当に撮りたいのは狭い空間で繰り広げられる芸人たちの親密なお喋りなのではないだろうか。どの出演芸人も今やゴールデンウィーク番組を任せられるMC級のタレントばかり。もちろん仕切りをやらせても超一流なのだけど、彼らの底力というのは、このなんでもない駄弁りのおもしろさにあるのだ、というのを存分に堪能させてくる。そして、車内映像の切り替わりのリズムとトーンが抜群だ。トークの途中でもヌルりと別の車内の映像に切り替わっていく。そこに違和感を覚えるどころか、別の空間で話されていた関係のないトーク達が積み重なっていくことで生まれるこの独特のグルーヴこそが、芸人キャノンボールの根幹だと感じる。


“summer,2025”というテロップが絶妙なタイミングで、何度もリフレインすることで、この競争(であり狂騒)は、過ぎ去っていってしまった季節なのだと、センチメンタルな気分にさせられる。それは過ぎ去った青春のようだし、もしくはもう起こりないかもしれないバラエティ番組のエネルギーを指すのかもしれない。いや、そもそもこの大騒ぎも、ありない“幻”みたいなものだ。2ndステージのビーチでの乳首ポロリというその後も話題をかっさらい続けるシーンでもって流れるのが、サザンオールスターズ太陽は罪な奴」というのが実に示唆的だ。この楽曲は爽やかなサマーチューンとして認識されているが、スレイベルのシャンシャンシャンという響きとモータウンビートだけを聞けば、どう考えてもウィンターのクリスマスソングであって、寒い冬に部屋の中で一人“ありもしなかった”夏の喧騒を夢想しているような楽曲に思える*1


キャノンボールは車を使ってのロードムービーであって、ここには進んでいくこと、すなわち“老いていくこと”が撮られている。「芸人キャノンボール2025です、皆さんよろしくお願いします」という進行を務める森香澄のスタート宣言に続く芸人たちの第一声は、有吉弘行

いいねぇ、ヒザ見ちゃうねヒザを見ちゃう

であって、周りから「おじさん!」「じじい!」とツッコミが入る。やはり、有吉弘行というタレントは番組のトーンみたいなものを形成してしまう力があって、その後も「10年前はもうちょっと涼しかったかねぇ」と気候の話をして、「ジジイ話!」「ジジイの膨らまし方すな!」とツッコまれたり、駄洒落を連発し、危険なレースは「俺子供小さいから絶対無理だよ」と拒否し、ナンパ力が衰えてしまった田村淳に対して、

随分年取ったな淳さんも

と指摘し、「俺たちはこれまでかなりの距離を走ってきたんだ」というフィーリングを演出していく。そして、年老いた芸人たちは、このキャノンボールを通じて、車・相撲・おっぱいといった男の子がワクワクするものを書き集めた“幻”を吸い込み、少年性/男性性に回帰しようと試みている。


そして、秀逸なのが最終ステージ「とにかく速い車」のゼロヨンレースだ。歳を重ねる中で川島チームのように、道に迷い込んだり、ときには前に進めなくなったり、周りのスピードに置いていかれそうになりながらも、

最後にはアクセルペダルをベタ踏みして、ものすごい速度で駆け抜けていく。まるでポール・トーマス・アンダーソン『ワン・バトル・アフター・アナザー』だ。芸能界での“闘いに次ぐ闘い”、を生き残ってきたお笑い芸人たち。彼が少年性に回帰して戯れるのでなく、進むこと・老いていくことをバカ騒ぎで肯定していく、その映像快楽に、思わず胸が熱くなってしまった。


有吉チームがわざわざドンキホーテに寄って買う“味わいシーシャ”、マリーマリーのえびちゃん、温くなったシュークリームへの「じじいの金玉やんけ!」、こじはるが電話越しに歌う「渡良瀬橋」、細チェ、「職質されるセンチュリー、「でも不良でしょ」、「ノブちゃーん/ハーイ/何が好き?/わたしは抹茶アイス/降りろババア」、吉村の吉本への謀反、FUJIWARAの友情など、語りたいポイントは無数にあるのだけども、まとまらないので割愛します。とにかく、これまでのシリーズと比較しても、群を抜いた傑作であって、必見ということです。

*1:泳げなかったブライアン・ウィルソンビーチボーイズでサーフィンソングを量産していたのと同じというか