青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

フジロッ久(仮)『おはようございます vol.1 -try a little new yutaka-』

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2014年4月に行われた渋谷WWWでのワンマンライブから13曲。森川あづさが鍵盤を担当する前編成での集大成ライブだ。6台のカメラで撮影されたという素材を元に編集された映像はDIのクオリティとは思えぬ迫力。更に、新体制でのライブも7曲収録。内2曲は9月に行われた最高の野外イベント『IZU YOUNG FES’14』からでございます!こちらは1カメで撮影されたラフな映像と音ですが、例えば「はたらくおっさん」でのバンドと観客のエネルギーが豊かな自然のロケーションでグルグル渦巻く光景にグッと来る事必至。新体制のパフォーマンスの勢い、ヴァイヴスも存分に感じる事のできる映像となっています。加えて『シュプレヒコール』『ドゥワチャライ久』(名作!!)の撮り下しMVに、YouTubeでもお馴染みの『はたらくおっさん』『あそぼう』のMVで4曲。計24曲145分のボリューム、しかしお値段2500円。ジャケットも超クール。文句なしのマストバイアイテムな!
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と、言い切ってしまいたいほどに、フジロッ久(仮)というバンドの存在は現代において重要なのである。あまり、こういう書き方はしたくないが、少なくとも関ジャ二∞に楽曲提供している現行の銀杏BOYZのウン十倍は重要だ。銀杏BOYZが『戦争反対ツアー』を敢行していたのが2008年だったか。あれから6年、”戦争”という響きは遠い地で起こる記号のようなものではなく、より身近な脅威として鳴っている。そして今、フジロッ久(仮)というパンクバンドと呼んでしまうにはあまりにロマンティックでスウィートなバンドは、”ニューユタカ”という概念を提唱し、音楽を通じて、もはや”戦争前夜”の憂うべき現状に抵抗している。そのエモーショナルかつ甘美な彼らの実践の過程は、ドキュメンタリーDVDとして後日発表予定だそうなのだが、今作に収められたライブ映像にも、はっきりと刻まれている。「ニューユタカの実践」は”あそぼう”という言葉に置き換えられている。その名をタイトルに冠した2014年発表の重要曲「あそぼう」を披露する前の藤原亮のMCはDVDのハイライトだ。峯田和伸チルドレンと呼ぶにふさわしい演芸の域に達した口上も見物だが、その言葉は峯田以上に知的かつまっすぐだ。無粋ながら抜粋させて欲しい。

働くおっさんです。働いているんだよ、みんな。状況があります、そういった。日本の、世界の、さまざまな状況が、現状が、ございます。良き事も悪い事もございます。金、時間、心境、距離、様々な現状がございます。あるんだよ?


でも、でも、でも、でも、でも、でも、でも!


たま~に、なんか電波をキャッチするみたいに、外国のラジオの電波をたま~にキャッチするみたいに。誰かが昔放った言葉、音、絵とかでもいいし、服かもしれない、食べ物かもしれないし。
それは道にある、道に落ちてる何か。例えば花を見つけるでも、本屋さんで見つけるのかもしれない。誰かの会話の中で見つけるのかもしれない、盗み聞きかもしれないし。


そういう真実らしいもの。真実らしいものの前では、現状は全然関係がない。でっかい心で、きれいな事です。優しい思いです それは。いつでもそんな感じで遊びたいと思ってます。小っちゃな事から”ユタカ”を試して、遊びたいと思ってます。

藤原の言う“ユタカ”は、彼が強い影響を受けた小沢健二の言う所の”本当のこと”に置き換えられるのかもしれない。もしくは、小西康陽ピチカートファイブのトリビュートアルバムに引用した、吉田健一の言葉「戦争に反対する唯一の手段は、 各自の生活を美しくして、それに執着することである」に同調する。片想いを筆頭とするとんちれこーどの面々の、”生活からの逃避としての音楽”ではなく”生活の延長線上にある音楽”も、大きなヒントを与えたのだろう。纏め上げて言い換えるなら”美しさ”だ。彼らはそれを表現する為に、メロディを、コードを、言葉を、演奏を磨き上げてきた。その成果が今作に収められた「シュプレヒコール」「うまれる」「punk lover's dreams come true!」「あそぼう」「ニューユタカ」といったナンバーの演奏の数々だ。とりわけ、パンクの「勝手にしやがれ」精神と小沢健二の名著『ドゥワチャライク』のフィーリングを融合させて、”みんなのうた”のような大らかさで鳴らした「ドゥワチャライ久」の素晴らしさときたら。

こわいことはこわい ドゥワチャライ久
今日もごはんがうまい ドゥワチャライ久


戯けるっきゃないんかい
まだどうにかなんとかしたい
どこもかしこもセンスのいい奴隷 それも知ってるよ で、どうすんの?
卑屈になってるまだまだ なんか触れたい 温って治したい
そんでNEVER MIND BOLLOKS
だって身体はこんなに素直さ!


三百六十五 ドゥワチャライ久
そうぞうして進め!ドゥワチャライ久


鳥 虫 獣 俺!
草 木 花 俺!
春 夏 秋 冬 俺!


勝ち馬降りろ
お守り捨てろ 
居場所が無い
余興じゃない


DO WHAT YOUR LIKE!
ビューティフルな今日が正月で誕生日だな


プロテストはプロテクト
インディペンデント それがヒント
自分は自分で守らないと 恋と愛と音楽と友情で!

こわいことはこわい 明日はまたくるよ
風呂入って寝るべ ドゥワチャライ久

世界中を股にかけた(?)メンバーが横並びになってドリフターズ的振り付けで歌うMV(stillichimiyaとの共鳴!)も最高ではないか。 “プロテストはプロテクト インディペンデント それがヒント 自分は自分で守らないと 恋と愛と音楽と友情で!”のパンチライン。最後に連呼される欧米での最上級放送禁止用語であり、パンクの常套句「マザーファッカー」さえも、何だか”いのち”に繋がる祈りのように聞こえますね。だって、父ちゃんが母ちゃんをファックして生まれたのが我々だ。日に日に私の中でこの「ドゥワチャライ久」の名曲度が上がっていて、こちらと「あそぼう」が収録された3曲入りシングルは今年度を代表する名盤だ、と考えを改めている。


彼らのもう1つの”美しさ”を全身で体現しているのが、高橋元希の存在でしょう。今や代表曲の趣すらある「バンドをやろうぜ」での実直かつエモーショナルなライミングもさる事ながら、演奏楽器を持たない(鈴やタンバリンや木魚はたまに持つ)彼のボーカルパートのない楽曲での全力のパフォーマンス。何と言うかもう、生きる事の喜びと困難さが同時に溢れ出ているかのようで、観ているだけで涙腺が緩むのだ。藤原亮と高橋元希が同時に存在するバンド。あえて煽るような書き方をするなら、それは小沢健二峯田和伸、とんちれこーどのソウルを根っこに持ったフロントマンがいて、更にHappy Mondaysのベズ、それもヒロトマーシーの言葉を持ったベズがいるという事なのだ。それって凄すぎやしないか。その凄さは確実に広まってきている。10月には”片想い”との念願の共演を果たし、12月には、小西康陽(!!)、ハンバートハンバートをゲストとして招くツアーファイナルライブが渋谷WWWで予定されているという。新たな鍵盤とパーカッションが加入した新体制のグルーブもバッチリ、新曲も量産中という事で、向かう所敵なし。まずは、こちらのDVDを観まくって、ネクストアクションを震えて待とう。