
最近の『ばけばけ』が凄いとこになっている。怪談を軸としながらも、超一級のラブストーリーが、繊細に繰り広げられている。トキとヘブンそれぞれの気持ちは、決して本人の口からは語られていない。しかし、画面の中には確かに“想い”が立ち上がっており、それらが交感し、すれ違い、沸騰している。この2人の想いの在りよう、言葉にされないけれども確かに存在しているという質感は、幽霊や妖怪といった“目には見えないもの”、のようである。
そして、12週目の「カイダン、ネガイマス。」における異様なまでの官能性ときたら。トキとヘブンの間で“怪談を語る”ということが、性交のメタファーのように機能している。怪談を語るには明るくてはいけない。明かりが入らないよう窓を閉め切り、真っ暗な部屋に蝋燭を灯し、2人きりで、しめやかに執り行われる。そして、怪談を語り終え、蝋燭の火を息で吹き消すトキのアクションは、あたたかもヘブンへの“接吻”のようである。ヘブンは興奮を抑えきれず、「オネガイ」「モウイッペン」「モットキキタイ」「ハヤク!ハヤク!」とせがみ、トキが「またですかぁ」と照れて、「何べんでも、何十篇でもその要求に応える。仕事を休んででもトキの怪談を聞きたいヘブン。
ヘブン:デハ、(職場の)チュウガッコウ、ヤスム
トキ:えっ?No!No! No!No!
ヘブン:ジョウダン、デモ、ソノキモチアル、スグカエリマス
トキ:大急ぎで・・・待っちょります
まるで溢れる欲望を抑えきれない新婚夫婦の会話のようだ。ヘブンと怪談でわかり合えたトキの高揚。まわりのものは、どうしたって色恋沙汰を勘ぐる。ヘブンもまた、はじめてトキから怪談を聞かれた翌朝に感慨に耽る。
なんてすがすがしい朝だろう
全ての景色が違って見える
これはもう童貞を喪失したかのようなありさまである。“ヘブンに怪談を聞かせていること”をトキが錦織に伝える時の会話も、「もうやっちょります」「毎晩えらーく遅くまで・・・」と、どこか卑猥な匂いを漂わせている。ここらへんはあくまでコメディであって、2人の“怪談”にはもっと強烈な官能性が潜んでいる。
トキがヘブンに最初に聞かせる怪談は「鳥取の布団」という、 “寒かろう、寒かろう”と身体を寄せ合いながら凍え死んだ兄弟の“布団”が喋り出すお話だった。その次に語ったのは、子が生まれては川に捨てる親と子の関係を描いた「子捨ての話」という怪談。どちらの話にも、“死”の後ろに性の営みが蠢いている。
それ以上に“怪談を語る”ということに官能性が宿るのは、怪談が口伝で広がり、あらゆる人々を“通り抜けてきた”からだろう。「鳥取の布団」をトキに教えたのは元・夫の銀二朗であった。怪談を聞かせること/聞くことは、魂を分け合うことなのだ。であるから、ヘブンはトキに自分の言葉で語るように求める。
ホン、ミル、イケマセン
タダ、アナタノハナシ、アナタノカンガエ、アナタノコトバ
デナケレバイケマセン
怪談を語ることによって、トキの思考がヘブンの身体を通り抜けていく。ここに異様な官能性が宿る。前述の「鳥取の布団」をヘブンは、
カナシイ、トテモカナシイ
デモ、アニ、オトウト、ズットイッショ、ヨカッタ
と解釈する。トキもまた同じように「子捨ての話」をこのように解釈している。
何遍捨てられても、この子、同じ親の元生まれた
この子の親思う気持ち、強い
それを知ったこの子の親、この子、大切に育てると思います
相手の気持ち知ることで......なんか、ええことになったらええなあ、思います
哀しいお話に別角度から光を当てることで、話の意味を反転させてみせ、それぞれが抱える心の傷をも癒していく。そして、ヘブンは言う。
スキデス
アナタノハナシ、アナタノカンガエ、アナタノコトバ、スキデス
表面上は“トキの怪談”の話をしているのだけども、これはまるでトキの魂ごとを愛するかのような告白だ。こんな純然たるラブストーリーがあろうか!
君が怪談を語れば語るほど滞在記は完成に近づき
先生はここからいなくなるということになる
錦織が言うように、2人を強く結びつける怪談は、それが語られるほどに、2人の別れが近づいていくのだという。語りたい/けど語りたくない、この背反する気持ちを繊細に表現した髙石あかりの名演。こんな切ないラブストーリーがあろうか!!次週からは恋のライバルたちが再登場し、物語はラブストーリーの純度を高めていく様子。ますます目が離せないのです。