青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

フジロッ久(仮)というバンドのこと LIVE in下北沢シェルター


ときにフジロッ久(仮)というバンドをご存じでしょうか。全く知らない方はそのヘンテコなバンド名に食指が動かなかいかもしれない。少し御存知の方は「ゴリゴリのパンクバンドでしょ?」と切り捨ててしまうかもしれない。耳の早い方は、「はたらくおっさん」はいい曲だよね、くらいの認識かもしれない。しかーし、悪い事は言わないからライブハウスに足を運んでみるべきだ。いよいよバンドが革変の時期を迎えております。バンドのこういう瞬間に立ち会えるのは最高にスリリングで興奮するものです。フジロッ久(仮)はパンクバンドであり、ライブではビールや唾が飛び交う実にエネルギッシュな盛り上がりを見せる。モッシュ後のフロアは体温と冷房の温度差で湯気が立ち上がっている。ちょっと敷居が高いのは確かだ。しかし、革変を迎えたその音楽性は、例えばとんちれこーど周辺のグッドミュージックとも共鳴しているように聞こえる。つまりはパンクと東京インディーのミッシングリンク的存在だ。藤原亮のソングラインティングにおけるカルチャーのマッシュアップ感覚、メロディーのスウィートさ、フィッシュマンズのようなボヘミアン精神、そしてど真ん中に居座る小沢健二のソウル、乱暴な言い方をしてしまえば、あのceroの腹違いの兄弟のようではないか。育ち方は全然違うわけですが、根っこは一緒な気がするのだ。いや、そういう煽り方は必要ないかもしれない。とにかく、聞いてみて欲しい。フジロッ久(仮)が生み出した新曲群は、あの「はたらくおっさん」

に劣らぬアンセムのような輝きを放っている。メロディーと歌の飛距離が断然伸びているのだ。所謂これまでのフジロッ久調な「ニューユタカ」も歌の存在感がグッと増しているように感じたし、アーバンな雰囲気すら漂わせる「うまれる」には腰をぬかした。元々パンクバンドでありながら鍵盤が素敵な色を添えていたが、森川の鍵盤はどんどんロマンチックになっている!昨年から披露されていた「おいしいごはん」も、以前のもったりした印象から一転、歌をより響かせるアレンジに見事に深化を遂げていた。これまで支配していた銀杏BOYZの呪縛は消え去った。名曲ではあるが、完全なる銀杏影響下にあるナンバー「西尾久25時」「夜の焼ける音」がワンマンライブでありながら披露されなかった事からも伺えるだろう。そして、とにかく「シュプレヒコール」というナンバーが凄い。この日も「パンクロックラブドリームカムトゥルー」というディスコチックなビートで躍動するとんでもない名曲から「はたらくおっさん」と、フロアを歓喜と狂乱に包み込んだ後に披露された「シュプレヒコール」が間違いなくハイライトであった。最初に聞いた時の感想でも書いたのだが、「美しさ」についてのナンバーだ。小沢健二がパンクに目覚めたかのような、ソウルとリズムと「本当の事」を刻みつけるスウィートナンバーだ。藤原の言葉を借りるのであれば彼らはこの楽曲で「命の踊る音」を奏でる事を試みている。それこそが、彼の新しい抵抗のやり方。言ってしまえば、この日のワンマンライブイベント全体で1つのシュプレヒコールだった。入場特典で配られたインタビューでも答えている通り、このナンバーを持っているフジロッ久(仮)が演奏する「アナキーインざあらかわ」「勝手にスウィング」「フジロッ久(仮)の(仮)のテーマ(仮)」はまた特別に鳴り方をするだろう。これは効くぞ!この動きはもっともっと広まらなくてはいけない。


ちなみに、入場特典の藤原亮インタビュー超おもしろいです。ザッと2万字近くボリュームで藤原さん饒舌に理論的に語り尽しています。峯田和伸、A PAGE OF PUNK、西荻WATTS、小沢健二素人の乱、MC.sirafuと飛び交う固有名詞もいちいち刺激的だ。これを読めば、このレポ自体が完全に不要であります。とにかく、フジロッ久(仮)は「音楽」を始めようとしている。どうやら、そういう事らしい。秋頃には新曲をまとめた音源をリリース予定!震えて待とう。