
Netflixの新しい恋愛リアリティショーである『ラヴ上等』がおもしろい。抜群におもしろい。ヤクザや暴走族といった出自、もしくは家庭環境などに壮絶なバッグボーンを背負った元ヤンキーたちが、山奥の学校“羅武上等学園”で14日間の共同生活を送る。序盤から画面を満たしていく特攻服、和彫り、メンチの切り合いや釈迦寝などのヤンキー仕草。ガラパゴス化した日本独自の文化の強いルックの数々に、「世界に通用しそうなコンテンツが発明されてしまった・・・」と恐れおののく。企画・プロデュースを務めたMEGUMIは冴え渡っている。オープニング曲に使用されているのはglobeによる1998年のヒットナンバー「Love again」だ。煌びやかなのだけど、切実な楽曲が番組の雰囲気にバッチリとハマっている。「Love again」というと、思い出されるのが、平成を代表するTBSバラエティ『学校へ行こう!』の人気企画「B RAP HIGH SCHOOL」における軟式グローブの“アホだなぁ”(原曲の”I’m fallin’ love“のもじり)のフレーズだろう。火曜日の夜にV6の『学校へ行こう!』を観て、チャンネルはそのままに、ほぼ同じ制作陣によるTOKIOの『ガチンコ!』に流れていく・・・20世紀末のあの頃の時間を思い出してしまう。実際のところ、『ラヴ上等』という番組のフォームやフィーリングは、『学校へ行こう!』や『ガチンコ!』にかなり近しい。特に「ガチンコファイトクラブ」に関しては明確なリファレンス元だろう。「ガチンコファイトクラブ」のヤンキーたちの狂騒と、『学校へ行こう!』の人気企画「東京ラブストーリー」(『あいのり』と共に日本の恋愛リアリティショーの元祖と言っていいだろう)を掛け合わせてみたことで、これまで観たことがない歪さと強度を持った番組が誕生してしまった。ルックバック、新しい輝きはいつも過去からやって来る。
元ヤンキーであるメンバーたちの恋愛模様はスピーディーかつストレートで特に駆け引きなどはないし、メンバーが口々に語る「まじ深い・・・」というようなエピソードも実のところ大した会話は展開されていない。では何があるのかというと、飾りのない感情の爆発で、それがときに偽りなき美しい“魂”の発露となり、観る者の胸を震わす。彼らの魂の根源には、孤独ゆえの“愛されること”への異常なまでの飢餓感がある。それは小室哲哉の往年の楽曲にも通ずる。社会不適合者としてか外されてきた彼らは一様にどこか傷ついている。その欠落が、 “渇き”という形で画面に表出しているところが今作の肝だろう。
メンバーたちは常にボトルに入れた飲み物を携帯し、口に水分を流しこむ。異常なまでに飲むのだ。「なにかしらの所作を挟んであげることで、カメラになれていないメンバーの自然な状態を収める、という演出の意図とも考えられるだろう。であれば、番組の引きになりそうな調理や食事のシーンは挟みこめばいいのだけども、そちらはあまり映らないのに対して、とにかく飲み物を口に含むシーンが画面を占めているのだ。この水分補給には、明らかにメンバーたちの“渇き”が演出されていると言えるだろう。そして、彼らの恋愛模様を大きく動かすのは“サウナ”というシステム。一日の最後に、選ばれた女性メンバーが気になる男性メンバーを指名し、共にサウナに入る。汗を流し、水風呂に浸かる。つまり、“渇き”を極限状態にして、水で潤すということだ。そうすることで、メンバーたちはいとも簡単に親密さを高めていく。サウナの中でたいした会話が為されているようには思えないのだけども、入った後には驚くほどに好意の矢印は強化されていく。デート先で露天風呂に混浴するシーンもあるのだが、ここでもやはり恋心が大きく動く。ここで演出されているのは、渇いた彼らが“水”で満たされていく、ということである。
さらに、新メンバーが登場するシーンを思い返してみよう。ホスト“てんてん”の登場シーンでは、女性メンバーがシャンパンタワーに参加することで、グラスを水分でひたひたに満たしていく。そして、すでに語り草となっているショーダンサーAMOの登場EP“水はやベぇだろ”だ。ステージ演出の一環でAMOが客席に撒いた”水”がかかったことにBabyがブチきれてしまう。カップに入ったレモンサワーをAMOの顔にぶち撒け返し、つぶやく、水はやべぇだろ。それまでかわいらしい女の子として存在していたBabyの突然の凶暴化に、スタジオにいた永野の
という秀逸なコメントも忘れ難い。それはさておき、ここでも“水”が重要なモチーフとして機能している。彼らの孤独な渇きを癒す“水”は神聖なものであって、他人から暴発的に浴びせられるものではない。だから、Babyはあそこまで怒りを露わにしたのだ。そして、現在のところの最新EP“乱入くれた方がいいよ”においては、屋形船が登場し、常に海(水)が画面を支配している。あの塚原とBabyの素晴らしき押し相撲や、”おと“の二世への一途な想いの発露(いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう!!)は、船の甲板にて行われ、背後には水がユラユラと揺らめいている。彼らの”渇き“を潤すかのように・・・ここまで書いていて、「そんな演出をしているわけないだろ」と自分自身でも少し思う。しかし、そういった意図していないかもしれない演出が介在してしまう画面の作り込みが『ラヴ上等』には確かにあって、そこに強く惹かれている。
最後に、まだか完結していないので、演出予想してよろしいでしょうか。“羅武上等学園”という学校の設定ですので、「1.暴力 禁止 2.器物破損 禁止・・・」というように校則が掲げられていて、それが何度もカメラに映し撮られている。そこでクライマックスに流れるのが、globe「Can’t Stop Fallin Love」だ。マーク・パンサーがラップする。
道徳もない 規則もない
誰も止めることもできないsaga
君にできること 僕にできること
君が欲しいもの 僕が守るもの
正義も勝てないこの世で1つくらい
Livin’on and Keep on the EDGE
きつく きつく 抱きしめたころ
そろそろ季節もきつくなる
自分たちは縛り付け、痛めつけてきた社会の道徳も規則もブチ破り、SAGA“性”に導かれ、恋に落ちずにはいられない。最終エピソードの配信開始は、季節もきつくなるクリスマス前の12月23日。震えて待つ。わたしの推しはもちろん、おとちゃんです。
