青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

岡田恵和『ひよっこ』1〜4週目

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岡田恵和の3度目の朝の連続テレビ小説ドラマ『ひよっこ』が本当に素晴らしい。涙腺を刺激され続ける毎日だ。これまでの岡田作品と同様、安っぽい悪人や嫌な奴は登場しない。イタズラに盛り上げるようなドラマメイクはない。真っ当な善人たちが懸命に正しい方向へと進んでいく。ただそれだけで観る人の心を動かすドラマは作れるのだ。もっと視聴率が高くてもいいと思うのだが、これから上がってくるのだろうか。たしかに話は遅々として進まない。そのスローな筋展開が、視聴者離れを引き起こしているのかもしれない。しかし、この『ひよっこ』という作品がたっぷりと時間をかけて描いてきたのは人々の営みであり、「1人の人間が”いる”もしくは”いた”」という事実を、くっきりと刻む為だ。完全なはまり役のモッズおじさん(峯田和伸)なんか勿論最高なのだけど、もしかしたらもう出てこないかもしれない高校の先生(津田寛治)も車掌さん(松尾諭)も本当に忘れ難い愛すべきキャラクターであった。序盤のハイライトとなったのは村おこしとしての聖火リレー。みね子(有村架純)は走りながら、行方不明になった父に向けて気持ちを送る。

気持ちは届きますか?
お父ちゃん…。
みね子は、ここにいます。

村を出て就職することが決まっている三男(泉澤祐希)が、叫ぶ。

ありがとう。奥茨城村…。
俺を忘れねえでくれ。

東京オリンピックで盛り上がる都会の喧騒から置き去れてしまうかのような片田舎の村にも、様々な顔と個性があるということ。それが、『ひよっこ』奥茨城編で描かれていたものだろう。これには"被災者"というのっぺらぼうな記号に固有性を灯し、我々の想像力を喚起させた『あまちゃん』(2013)への共鳴を感じる。宮本信子の起用やアイドル志望の親友など、この『ひよっこ』が先輩である『あまちゃん』という作品をかなり意識しているのは事実であろう。



人が"いる/いた"という事実を描くことに注力する『ひよっこ』においては、画面からフェードアウトしてしまった登場人物であっても色濃く物語に存在し続ける。とりわけ顕著なのは行方不明の”父ちゃん”(沢村一樹)だ。その不在は常に意識され、物語を牽引する。第2章の幕開けで描かれた、みね子が就職先の寮でカレーライスを食べるシーンを思い出したい。あの何気ないシーンが異様なまでに心を打つのは何故だろう。田舎から出てきた少女が東京に出てきて初めて食べるハイカラな食事に感動する、という筋だけでも充分に朝ドラとして成立する。しかし、あのシーンにはこれまで紡いできた物語の断片が幾層にも重なって振動している。新しい仲間との絆が結ばれる瞬間であるし、洋食屋との繋がりを残し失踪した父を想わせるし、これまで一緒に台所に立ちカレーを作ってきた兄弟たちの姿がよぎる。"カレーを食べる"という何でもない行為に幾重もの意味を託す。これぞ、ドラマ作家の仕事と言えるのではないだろうか。

廣木隆一×又吉直樹『火花』

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この国のテレビドラマに“火花以降”という新たな基準が設けられた、と断言したい。廣木隆一(『ヴァイブレ―タ―』『やわらかい生活』)を総監督として、白石和彌(『凶悪』『日本で一番悪い奴ら』)や沖田修一(『南国料理人』『横道世之介』)など映画界の気鋭らが集結。彼らがNetflixの豊潤な制作資金を元に作り上げたのは、ド派手なアクションに彩られたエンターテイメントでも、豪華絢爛な俳優陣による演技合戦でもない。中央線ラプソディ、とでも呼びたくなるような実に貧乏くさい小さな小さな物語だ。例えば、白石和彌が監督を務めた3話などは、終電を逃すまで飲み荒らした主人公2人が吉祥寺から上石神井までをのそのそと歩く、それだけの回だ。それらにこれほどの大きな資本と才能が注ぎこまれている。これは革命である。ここからこの国のテレビドラマは何かが変わっていく、そう信じたい。3話のみならず、このドラマでは、青春とは”夜を歩く”ことである、と言わんばかりに、ひたすらに若者たちが歩き、そして、走る。監督に課されたのは、その様子を雄弁にカメラに収めること。1話に登場する惜しみないクレーンやドローンでの撮影の躍動に刮目せよ。夜に揺らめく街灯、雨で濡れた地面に映る光。そういった映像感度の充実すべてが、この切ない青春物語に徹底的に奉仕していく。



全10話530分をかけて、とあるお笑い芸人の10年間を追っていく、という売り文句に敬遠してしまう人がいる事も想像に難くない。しかし、今作は確かにオフビートではありながらも、そんなレジュメからは想像もつかないヒリヒリとした質感に満ちている。これは誰しもが経験する”才能”を巡る青春残酷物語であるからだ。その意味で、今作は松本大洋が繰り返し描いてきた物語の系譜にあると言えるだろう。徳永が憧れ続ける師匠・神谷というバディのパワーバランスが徐々に逆転していく構造は、『鉄コン筋クリート』や『ピンポン』でのそれらのトレースのようである。であるから今作の後半はひどくもの悲しい。7話以降は、常に”泣き出す直前”といったようなフィーリングで胸を掻き毟り続け、それらはラスト2話で一気に爆発する。涙腺崩壊必至。それもこれも、フィクションの登場人物にこんなにも愛着を抱くのはいつ以来だろうという程に、徳永と神谷というキャラクターを愛してしまうからに他なるまい。『火花』という作品の画面には、巷に溢れる演技というものとは、大きくかけ離れた何かが映っている。それは1人の人間の”魂の咆哮”というようなものだ。そんなものを体現する為に、役者はどれほどの代償が払ったのだろう。今作における林遣都波岡一喜という役者の素晴らしさは筆舌に尽くしがたい。あまりに徳永として、神谷として、そこに”在る”のだ。であるから、彼らが目にする風景も、抱く感表も、全てがリアリティをもって響いてくる。主演2人のみならず、門脇麦好井まさお(井下好井)、村田秀亮(とろサーモン)、染谷将太菜葉菜、髙橋メアリージュン、徳永えりetc・・・といった脇を固めるメンバーもまた、誰しもが素晴らしい実存感を携えている。とりわけ、主人公の相方である山下役の好井まさおの好演は、演技初挑戦という事も含め、賞賛の嵐を浴びるにふさわしい。

火花

火花

さて、このドラマを前にして、『火花』という小説を全く読めていなかった、と正直に告白したい気持ちに駆られている。又吉直樹(ピース)は、あのか細い声からは想像もつかないほどの大きな”アイラブユー”をこの作品で叫んでいるのだ。売れない芸人が志半ばでその道を外れていく様を描いた青春残酷物語ではあるが、その視線はとても優しい。芸人を辞める決意をした徳永に師匠である神谷がこう語りかける。

この壮大な大会には勝ち負けがちゃんとある、だから面白いねん。でもな、徳永、淘汰された奴等の存在って、絶対に無駄じゃないねん。一回でも舞台に立った奴は、絶対に必要やってん。これからのすべての漫才に、俺達は関わってんねん。だから、何をやってても芸人に引退はないねん。

ここにあるのは圧倒的な”生”の肯定である。芸人や表現者のみならず、この世界で酒臭い、もしくは唐揚げ臭い息を吐き続ける全ての私達の”これまで”と”これから”を肯定してくれるような、あまりにも優しいまなざしがある。ドラマではそんなテーマに補助線を引くように、徳永の住むアパートに、お役御免となった古い家電をかき集め、修理するロクさん(渡辺哲)というオリジナルキャラクターがメタファーとして存在している。



前述の台詞が繰り出される居酒屋のシーンで物語を閉じてしまっても何ら問題はないわけだが、そうはならないのが今作だ。

美しい世界をいかに台なしにするかが肝心なんや
そうすれば、おのずと現実を超越した圧倒的に美しい世界があらわれる

という劇中での神谷の台詞を呼び水にするように、失踪していた神谷が突如Fカップの巨乳を携えて現れるという、全てを台無しにするようなバカバカしいエピローグが添えられている。しかし、それがことさら今作を美しく孤高のものとしている事は誰も否定できまい。なんて偉大なる蛇足。旅館の内風呂で豊満な胸を揺らす神谷と、それに付き合い裸になる徳永。カメラは部屋を飛び出し上空にじんわりと上昇する、2人の狂騒は熱海の夜景の1つとなる。貴方が展望台から覗く美しい無数の光の1つは、おっさんのFカップが作り出しているかもしれない。そんな想像だにしない無数の夜で、この世界は作られているのだ。その途方もない尊さを、このドラマは教えてくれる。



NHKでの地上波放送が終わったわけだが、「台詞が聞き取りずらい」などの理由で、視聴率はふるわなかったらしい。悔しい。そこに加えて、キャスト・スタッフを一新しての映画化の報。しかし、この素晴らしいドラマをなかったことには絶対にしたくはない。とにかく、ひたすらに「観てくれー」と叫ぶ続けることとしよう。

松本壮史×三浦直之『デリバリーお姉さんNEO』1話

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TVKテレビ神奈川)とGyaoにて放映が開始されたドラマ『デリバリーお姉さんNEO』は必見の作品である。なんたって制作陣が凄い。メインの監督がTHE DIRECTORS FARMの松本壮史(Enjoy Music Club)、脚本は三浦直之(ロロ)と大歳倫弘(ヨーロッパ企画)!!更に劇伴&テーマ曲は江本祐介(Enjoy Music Club)、オープニングアニメーションはサヌキナオヤ!レギュラーに板橋駿谷(ロロ)、1話ゲストには島田桃子(ロロ)と田中佑弥(中野成樹+フランケンズ)。今後もロロ周辺のメンバーが続々と登板予定らしい。なんてワクワクする布陣でしょうか。「いやいや、1人も知らないよ!」という方も勿論いるかもしれない。彼らはポップカルチャー界の新しい波である。停滞気味のテレビドラマに一石を投じてくれるに違いありません。もちろん、ローカル局とネット配信ではありますが、”新しさ”はいつだってアンダーグラウンドからやってくるのです。


“デリバリーお姉さん”というややいかがわしいタイトルでありますが、お色気はなし。お母様もぜひお子さんにすすめて上げてください(©エキセントリック少年ボーイ)。しかし、ひと昔前にこんなタイトルを中学生男子が聞きつけようものなら、それはもう大変だっただろう。眠い目をこすりながら夜をやり過ごし、家族が寝静まったリビングで音量をできる限り小さくしながらの鑑賞を試みる。なかなか始まらないウッフンな展開にイラつき、リモコン投げつけそうになりながらも、気がつけば得体の知れぬ感動に包まれてしまう。そんな素晴らしき誤配が巻き起こったに違いない。『デリバリーお姉さんNEO』はそれくらいの力がある作品だ。ちなみに私の場合は『THEわれめDEポン』であった。新聞のラテ欄から、めざとくその番組名を発見し、「これは絶対間違いない!」と興奮を抑えながら真夜中に息を潜め、こっそりとチャンネルを合わせたものです。すると、画面にはガダルカナル・タカが登場。世の中の下品な番組は全てガダルカナル・タカがMCをしていた時代なので、膨らんだ期待は確信に変わる。しかし、結果はご存知の通り。和田アキ子が麻雀を楽しむ姿を延々に見せられる羽目になり、本気でリモコンを投げつけました。麻雀=脱衣麻雀という思考回路であったので、一抹の希望を捨てきれず最後まで視聴してしまったのが、敗因でありましょう。そもそもタイトルから期待した通りの番組であるならば、地上波で放送できるわけないのだけども、そういった冷静な判断ができないのが中学生という時期である。あぁ、なんて美しい思い出。誰でもいつでもすぐに検索し、全容を把握できてしまう時代は、少し侘しい。


話が逸れすぎました。『デリバリーお姉さんNEO』は”便利屋稼業”を題材にした青春バディものなのです。便利屋という大枠の受け皿が広いので、あらゆるテーマや展開を受け止めてくれることでしょう。楽しみです。記念すべき第1話は松本壮史×三浦直之のコンビが担当。『ドラゴン青年団』(2012)、『こえ恋』(2016)など既にいくつかの深夜テレビドラマの脚本を手掛けている三浦直之ですが、今作はいよいよ本領発揮と言えます。ロロの「いつ高」シリーズに通ずるような他愛のない(しかし、充実した)お喋りが話をコロコロと転がしていく。板橋駿谷は当然として、主演の岩井堂聖子と木竜麻生のナチュラルな演技も好感。カメラワークや照明も凝っている。岩井堂聖子と島田桃子がベッドに寝そべるシーンには、『カルテット』3話における満島ひかり吉岡里帆の見つめ合いの構図のオマージュを発見して思わずニヤリ。
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猫探しの依頼のお礼として、ニシンのパイが登場しての「あたしこのパイ嫌いなのよね」なんて台詞が飛び出すジブリ作品へのリスペクトにも『カルテット』との共鳴を覚えるだろう。


徐々に「三浦直之、ここにあり!」と言わんばかりの、強烈ピュアネスな”LOVE”で画面が満たされていく。テレビでここまで強度のある言葉たちに触れられる機会はそうあるまい。

どんな言葉もあたしの気持ちに全然足りてなくて
好きって言葉じゃ何も言えてないくらい大好きだから

と、渡されることのないまま20年間書き続けられたラブレター。部屋は届かなかった愛の言葉で埋め尽くされている。

昨日ようやく書けたの
あたしの気持ちと丸ごとピッタリな言葉
あたしの想いの最高傑作

だが、その最高傑作が積もり積もったラブレターの海に紛れてしまった。部屋に積もったラブレターの封を1枚ずつ開け、読み上げ、最高傑作の1枚を探し出すのが、今回のデリバリーお姉さんの任務というわけだ。なんてロマンチック!ラブレターの対象である”ヒコ”*1という人物の輪郭が、手紙の音読によってゆっくりと浮かび上がっていく。ここらへんの描写の豊かさもまさに三浦直之の本領発揮。少しの間だけ敬語で話すね、の素晴らしさ。そして、当然と言えば当然なのだが、その最高傑作のラブレターは読み上げられることはない。想いというのは消えることなく、”今”、発される言葉に積み重なっていく。であるから、取り繕わない生の言葉を発しさえすれば、届く人にはしっかりと響く(ここで、序盤のマコの就活の履歴書の挿話が効いてくる)。しかし、書かれたラブレターもまた決して無駄にはならない。マコの拍子抜けのくしゃみが風を巻き起こし、部屋に積もっていたラブレターの屑をまき散らす。その紙吹雪は、告白を為さんとする2人の元に舞い踊る。これまでに発生したかつての”好き”の気持ちが、今まさに発されようとしている”好き”を祝福する。三浦メソッドの完璧な映像化である。ともさかりえの2ndシングル「くしゃみ」も想起した。歌い出しはこう→「風が吹けば/誰かがくしゃみする/彼女とあの人が/どうやら LOVE LOVE らしいって」


そして、今話の最も感動的なパンチラインには、こちらを選出したい。

好きって気持ちがあるとさ
周りの景色もキラキラするでしょ?
あたしが見てるキラキラは
あたしだけのものじゃないって思うの
そのキラキラは別の誰かが見てる景色も
少しは輝かせてくれるって思うの
あたしの世界が色づく時
世界も本当に色づくんだって
あたし信じてる

三浦直之は、”好き”という感情をわけ隔てなく肯定する。どんなにひどい結末を迎えた恋愛であろうと、発生してしまった”好き”は無条件に尊い、そう考えている。更にそれだけには留まらず、その”好き”が、またぜんぜん別の誰かのラブストーリーに繋がっていく、そんな美しい連なりを信じ抜いているのだ。



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*1:一緒ですねー

最近のこと(2017/04/19~)

またしても「最近のこと」を書きそびれてしまった。しかも、今月のブログ更新数は、開設以来最低である。それもこれもヤクルトスワローズが弱すぎるせいだ。負けるたびに精神に支障をきたし(プロ野球ファンなど辞めてしまえ)、何もやる気が起こらずにふて寝してしまうというわけです。何か書きそびれていたことはないかと、記憶を探ってみると、やはり記しておきたいのは笹塚の「天空のマルシンスパ」だ。素晴らしい施設とは聞いていたが、あんなにも良いとは。空いていて、なおかつ水風呂がそれなりに冷たい時(チラーなしで地下水汲み上げなので水温が気候に左右されるとか)に行けば、ここが都内No.1では。やはりセルフロウリュウとたっぷり水量の水風呂は魅力だ。3時間パックあるのも最高。90分とか2時間じゃない、ちょうどいいのは3時間なんだよなー。



先週の水曜日くらいから振り返りたい。わりと近所である下赤塚の商店街を散歩していたら、いい感じの古いビルに「赤塚探偵事務所」という看板を見つける。もしやと調べてみたら、やはり今夏放送予定のドラマ『ハロー張りネズミ』のロケセットだった。探偵事務所内をスタジオ撮影ではなく、本当に赤塚のビルにセット組んで撮影しているらしい。こうしている今も、瑛太深田恭子森田剛山口智子が下赤塚の街にいるのかと思うとドキドキします。駅前の「手もみラーメン 福しん」で撮影していたという噂も聞いた。「福しん」のスタミナ冷やし中華は最高だからな。AmazonからランジャタイのライブDVD『ランジャタイのキャハハのハ!』が届いたので、観る。

まず、タイトルが最高だ。ラジオでもOPに使用している『Dr.スランプ アラレちゃん』感がある。やっぱり漫才は生で観るに限る、と思いつつも、「ザリちゃん」「沼」あたりの漫才をいつでも観られるのは素晴らしいことです。あと、「仲間が欲しい」のキャッチャーのくだりがツボだ。一体誰が彼に正確無比なボールを投げているのだろう。同時リリースであったマッハスピード剛速球のコントDVDも欲しい。ランジャタイもマッハスピード剛速球も何がいいって、洗練され過ぎてないヴィジュアルではないだろうか。ボキャブラ天国あたりの90年代の芸人の雰囲気を感じる。



木曜日。疲れが溜まっていたので、自転車に乗ってちょっと離れた板橋「クアパレス藤」へ。住宅街によくあるビル型の銭湯なのですが、ここのサウナは文句なしに素晴らしいのです。仁丹もしくは檜のような心地よい香料が入った袋がサウナ内にぶら下がっていて、それが実に気分をリラックスさせてくれる。サウナ利用者には敷きマットと凍ったミネラルウォーターをつけてくれるのも心憎い。サウナ自体も良質で、110℃近い高温&高湿。入るなり汗がすぐさまダラダラと流れる。テレビはなく、有線放送だろうか小さな音で90年代のJ-POPが流れているのもいい。いつも何が聞けるか楽しみなのだけど、この日の収穫は小沢健二「大人になればと」とB’z「ねがい」でありました。「大人になれば」のイントロには思わず声が漏れてしまった。いっつも聞いてんだけども、これがサウナとなると又格別なのよ。「ねがい」もイントロで涙腺が緩む。『B'z The Best "Pleasure"』と『B'z The Best "Treasure"』という1998年に2枚同時リリースされたベスト盤、いとこに借りて、MDに落としてむちゃくちゃ聞いていたのを思い出した。たしか中学1年生だった。この頃はラルクもグレイもみんな複数枚同時リリースに凝っていたものだ。『ark』と『ray』もやっぱりいとこに借りた気がする。サウナ上がりは無性にラーメンが食べたくなるものです。この周辺に「愚直」というラーメン界で絶大な評価を得ているとんこつラーメン屋があるのだけども、看板がない上に営業時間や定休日に癖があって、開店しているのすら未だに観たことがない。今日こそは食べるぞ、と意気込むもやはり閉まっていた。月曜日と木曜日が定休日で、更に夜は20:00からの営業らしい。癖あるなー。気持ちを切り替えて上板橋に移動。「魂の中華そば」でつけ麺を食べた。ふざけた店名だが、ここも名店なのだ。凄く美味しかったのだけども、サウナの後に食べたいのはとんこつとか家系のようなガッツリなラーメンだったな。帰宅して、録画してあった『バナおぎやドリーのもろもろのハナシ』を観る。4月からレギュラー放送が始まった新番組だが、しみじみおもしろい。働き出してからラジオを聞く余裕がすっかりなくなってしまったので、テレビでこれが聞けるのはうれしい。あと、みんなとてもオシャレな衣装を着ていてかっこいいです。同じく新番組のアルコ&ピースの『勇者ああああ』も凄く好き。痩せた酒井ちゃんにやっと慣れてきました。



金曜日。仕事後に学生時代の友人らと池袋で韓国料理を食べる。みんな忙しくなってきて集まるのは今年初。なので今更ながら『カルテット』の話で盛り上がる。高橋一生松田龍平かで徹底討論をしたのだけども、世間の風潮に反して3対1で松田龍平が優勢であった。あたしも勿論別府君派だ。最近よく見かける俳優が山崎育三郎という名前で、安倍なつみの旦那ということを教えてもらった。ずっと劇団EXILEあたりの人だと思っていた。名前が育三郎と聞いて、急に好感を抱いてしまう。しかし、熱心なモーニング娘。ファンだったというのに、なっちが結婚していた事すら記憶が朧気であった。てっきりずっとプレステをしているものと思っていました。何のことやわからない若者たちは押尾学で検索しよう。帰宅して『リバース』2話を観る。全部観ているわけではないけども、プライムタイムのドラマでは今期はこれが1番好き。
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TBSドラマの叡智が集結しているような質感だ。湊かなえの原作は観る者を引き付けるドライブ感があるし、脚本を奥寺佐渡子(細井守作品&『学校の怪談』シリーズ!!)が担当していて、細部が実に瑞々しい。私も小池徹平のような学友が欲しい大学生活であった。更に、武田鉄矢が素晴らしくねちっこい演技を披露してくれている。本当にありがたい。やはりドラマはTBSだ。しかし、一方で火10『あなたのことはそれほど』はあまりハマれず。東出昌大の怪演が気になるが、どうにもお話の不愉快さが勝ってしまう。東出昌大と波瑠のホームドラマコメディを金子文紀が撮る火10だったら、どんなに素晴らしいものが出来上がっただろう、と思う。私は今、善良なホームドラマコメディに飢えている。



土曜日。特に予定がないので、いつも通り掃除と洗濯。お昼に近所のイタリアンでイベリコ豚のプレートを食べて、本屋で吉田秋生海街Diary』の新刊を買って帰り、家で読む。

じんわりといい。そろそろ閉幕だろうか。TSUTAYAで借りてあった『彼女が死んじゃった』と『ライスカレー』を全て観終えたので、ポストに返却。
彼女が死んじゃった。Vol.1 [DVD]

彼女が死んじゃった。Vol.1 [DVD]

『彼女が死んじゃった』は『すいか』と『池袋ウエストゲートパーク』以降という感じの2004年に放映されていた日テレのドラマ。一晩かぎりの関係を結んだ女性の自殺の真相を追うべく、彼女の携帯のメモリーに登録された人を訪ねていくというロードムービー。実に90年代的なテーマでさすがに気恥ずかしさを覚えてしまったのも正直なところだが、これがなかなか良かった。視聴率は惨敗だったようだが、カルト的人気を誇っているのも頷ける。『逃げ恥』の脚本家の野木亜紀子が大ファンというので、観てみました。若き長瀬智也もいいが、何といっても木村佳乃が素晴らしかった。しかし、どうして日テレのドラマはルックが垢抜けないのだろう。プロ野球の中継を眺めた後(小川のアウトローと雨天中止コールド)、一晩中Netflix湯浅政明ピンポン THE ANIMATION』を観た。
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改めて、抜群におもしろい。大傑作。原作より好きかもしれない。松本大洋の書く台詞というのは全てが全てスタイリッシュだ。10代の頃、あれらの台詞廻しにどれほど打ちのめされたことか。体育の卓球の時間、死ぬほど真似していた。「また連れてきてくれるか」「ここはいい」「少し泣く」「風間さんに言わせりゃ、そうでしょうね」「むろん、自分の為」など、やはり風間とアクマの台詞は凡庸性が高い。特にお気に入りのペコが自分の膝に問いかけるシーンがアニメではカットされていたのが残念だ。OP曲の爆弾ジョニー「唯1人」を聞きすぎて、好きになってしまった。青春パンクみたいだけども、よく聞くと大木兄弟感がある。この日はレコードストアデイということで、Enjoy Music Club『100%未来/そんな夜』の7インチがリリースされました。ライナーノーツを書かせて頂いたのですが、印刷された現物にジンワリ感動してしまいました。ボブa.k.aえんちゃんによる両面のジャケットも最高にキュートで、これは宝物です!



日曜日。気持ちいいほどに快晴でありましたので、自転車に乗って戸田球場までサイクリング。スワローズVSイーグルスの2軍の試合を観戦した。ケバブサンドを齧り付きながら野球を観る、最高。しかし、スワローズは1つもいいとこなく大敗。2016年ドラフト1位の寺島が球拾いをしていたが、やはり身体の出来上がり方が断トツだ。寺島と梅野、シーズン後半に1試合くらい投げて欲しいものです。野手は若手より武内、飯原、三輪が元気な感じで、廣岡・奥村・渡邊の奮起を願う。こっちは毎日2軍の試合結果もチェックしてんだ!戸田公園の入り口に『ドラえもん』の憧れの秘密道具「キャンピングカプセル」が刺さっていて、興奮。
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強風に吹かれ過ぎてヘトヘトになってしまった。お風呂に入って埃を落とし、スーパーで買った鰹の刺身やポテトサラダを、新発売のノンアルコールビール「零壱」で流し込む。零壱、むちゃくちゃ美味しいと思う。俺、これでいいや。オールフリーを超えた、ノンアルコールビールネクストレベルだ。『ボク、運命の人です』『フランケンシュタインの花嫁』、ピンと来ず。『フランケンシュタインの花嫁』は『悪夢ちゃん』の大森寿美男なので期待していたが、この感じで『泣くな、ハラちゃん』を超えられるのだろうか。 この日はcero野音ライブだったらしい。ここ最近申し込んでも毎回外れるので、もはや申し込むことすらしなくなっていた。凄くよかったそうな。悔しいので、最近好きな「ロープウェイ」をたくさん聞いた。人生は次のコーナーに。『欅って書けない?』をリアルタイムで観る為、眠かったが、遅くまで起きる。頑張った甲斐のある期待どおりの良回であった。オダナナと尾関よ。


月曜日。レンタルしたSHISHAMO『SHISHAMO4』を聞いた。

SHISHAMO 4

SHISHAMO 4

どれがシングルかわからないくらいいい曲が揃っている印象。特に2曲目の「すれちがいのデート」が好きでした。あとはまもなくリリースされるアルバムに備えFather John mistyとhyukohの旧譜をよく聞いている。そして、The Zombiesと欅坂46もずっと聞いている。『不協和音』に収録されている曲、どれも好き好き。てちねるの「微笑みが悲しい」は、乃木坂46「春のメロディー」やさくら学院「ベリシュビッツ」など大好きなナンバーを作曲しているフジノタカフミのペンで期待どおりの名曲。歌詞も冴えわたっている。けやき坂46の「僕たちは付き合っている」もどうかしているほど名曲だと思う。惜しみない曲展開に涙。
youtu.be
帰宅して、昨夜録画してあった小沢健二出演の『Love Music』を観た。涙目になって当時の話をする小沢とBOSEに、思わずこちらもちょっとウルっときた。これが、ロッキン社の雑誌とかじゃなく、テレビで流れているのが愉快痛快だ。小沢健二はオーバーグラウンドの人なんだと、今更ながら痛感。ceroの橋本翼のスウェット姿と「ホテルと嵐」のエピソードが最高。二階堂ふみ三谷幸喜を、いとうせいこうとかよしもとばなな(2人とも平仮名で読みづらい)にするわけにはいかなかったか。そして、これまでの人生で何故かずっと「流れ星ビバップ」を”リュウセイビバップ”と呼んでいたことに気づく。どうして誰も注意してくれなかったんだ。凄く好きな曲なのに。



火曜日。本屋で『うちのクラスの女子がヤバい』3巻と『珈琲桟敷の人々』を購入。

どちらも素晴らしかった。『うちのクラスの女子がヤバい』もっと続けて欲しかったなー。農家の息子さんが新玉ねぎを送ってきてくれたので、スライスしてポン酢とおかかで合えて食べた。新玉なので甘くて美味しい。昨夜の『キングちゃん』の「ドラマチックハートブレイク王」が最高でした。アルコ&ピースとハライチ岩井が出ているのも凄くうれしい気持ちになる。お風呂に入ってリアルタイムで『デリバリーお姉さんNEO』を観た!
hiko1985.hatenablog.com
おもしろかったー。こんなにもヒコという名前が連呼されるのを聞くのは初めてだ。島田桃子さん越しに三浦くんに告白されている気分。照れて画面を直視できませんでした。しかし、ヒコって改めて凄くキャッチ―な響きだ。外部に原稿を出す時の表記をヒコにするかhikoにするか最近悩んでいるのですが、正解がわからなくなったので、Bridgeも再結成したことだし、いっそHIKOMIXしようかと思います(ある世代以上にしか通じないひどいジョーク)。君のハートのナチュラル。



水曜日。仕事終わりにスーパーで格安のバラ肉ともやしを買ってきて貧乏鍋。スワローズとドラゴンズの乱打戦を見守る。勝ったものの全然スッキリしないではないか。録画で『水曜日のダウンタウン』2時間スペシャルを。バイきんぐの西村さんでひたすら笑ってしまった。ミラクルひかるに騙されてしまった女の子がほっこりするほどいい子で幸せな気持ちになった。まず、家族に自慢する、って最高だ。6月のマッキーのコンサートのチケットを無事ゲットした。慌てて、昨年末リリースされていたアルバム『Believer』を聞く。

Believer(通常盤)

Believer(通常盤)

ここ10年のマッキーに正直好きなアルバムはないのだが、今作はなかなかの佳曲揃いだと思う。過去のライブレポなどに目を通してみると、前回のツアーで「僕の彼女はウエイトレス」「雷が鳴る前に」「この傘をたためば」「DARLING」「君の自転車」など90年代のアルバム(『君が笑うとき君の胸が痛まないように』から『Cicada』まで)の楽曲を惜しみなく披露していたらしい。「THE END OF THE WORLD」を演奏した公演もあるそうな!!死ぬほど聞きたかった。全曲イントロで泣いてしまう自信がある。なんでも前回のツアーあたりから90年代のナンバーがかなり解禁されてきているらしい。



木曜日。ファミマのコッペパンが美味すぎて、コッペパンについての想いをブログに記してしまう。
hiko1985.hatenablog.com
本当は「最近のこと」の一節だったのだが、長くなり過ぎたので単独エントリーとあいなりました。コッペパン専門店、やっぱり行ってみたい。しかし、そう何個も食べられるものじゃないのがなー。この日は絶対にレスタに行く、と週の頭から決め込んでいました。たかだか1ヵ月ぶりなのに、”ととのい“用のデッキチェアが4個から7個に増えているわ、飲用水の蛇口が新規に設置されているわ、進化が止まらない。香りのバリエーションも豊富だし、自動ロウリュウは最高だし、水風呂はいつだってシャキっと冷えるし、都内盤石でござるタイムズスパ レスタ。19:00と21:00の2回のアウフグースを浴び、ととのい果てて、帰宅。

コッペパンの魔術的な魅力について

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あらゆるパンの中でコッペパンが1番好きだと思う。コッペパンそのものの味を思い浮かべようとしてもどこかボンヤリしているのだけども、マーガリン、ピーナッツバター、ジャムを塗っただけでも抜群に美味いし、コロッケや焼きそばを挟んで総菜パンにしても最高。タルタルフィッシュなんかもいいな。ソーセージを挟むホットドッグバンズも大枠ではコッペパンらしいのだけども、あれはなんだか急に遠い存在に感じる。遥かなるアメリカ。とにかく、何を挟んでも美味いし、本当に1番。そんな甘い言葉を囁いたとしても、「どのパンにもそういうこと言ってるんでしょ?」なんてことは絶対に言ってこないと思う、コッペパンは。純朴で純粋なのだ。たまに揚げパンのように、道を踏み外してこんがり黒ギャルになるやつもいるけれども、それでも味わいはやっぱり素朴だ。


その魅力の8割を担うとびきりにかわいい名前”コッペ”の由来は諸説あるらしい。Wikipediaに①第二次世界大戦後の配給パンがクーポンと引換だったことからクーポンパンが訛った、②フランス語の「クーペ(切られた)」から、と2つの説が記載されている。何となくだけども、味わいのあるクーポンパン説を支持したい。板橋の誇る名店「丸十」がコッペパンの始祖とされているが、その創設者である田辺玄平のパン食普及への歴史は、完全にあの阿部和重の傑作小説『シンセミア

シンセミア(上)

シンセミア(上)

シンセミア(下)

シンセミア(下)

における「パンの田宮」の元ネタであるからして、調べてみるのも一興だろう。


数年前からじわじわとブームが到来しているようで、専門店や専門書も続々登場している。しかし、近所のパン屋さんで買うくらいが最も望ましいコッペパンとの付き合い方だ。数あるパンの中からコッペパンを選びたい。コンビニで売っているコッペパンだっていい。例えば、古からのロングセラー商品である山崎製パンコッペパン。あのずっしりと野暮ったいフォルムがいい。ハイカロリー過ぎて、完全に10代の食べ物であるからして、気が大きくなった日(半年に1回くらい)しか食べられない。10年くらい前、ポスティングのバイト中に腹が減り過ぎて道端で食べたコッペパンが染み渡るほど美味しく感じたのを今でも忘れられない。つい先日新発売となってファミリーマートの「ファミマのコッペパン」なる商品も新興勢力として見逃せないだろう。禁断のつぶあん&マーガリンを食べたのだけども、これがまたむちゃくちゃ美味かった。マーガリンがしっかりとしょっぱくて、あんこの甘味と信じがたいハーモニーを醸し出している。身体に悪いものを口にしているぞ!と叫び出したくなるような背徳感の塊のような食べ物。そんな罪すらを許し、包み込んでしまうのがコッペパンの持つおおらかなのだな。