青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

大橋裕之『ゾッキA』

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1,404円と多少値は張るわけですが、大橋裕之の『ゾッキA』(5月中旬刊行予定の『ゾッキB』も!)は手にとるべき1冊だ。大橋裕之は漫画界のダニエル・ジョンストンである。その魂には狂気すれすれのピュアネスとポップネスが宿っている。どれほどのサイレントマイノリティが彼の漫画に心癒されてきたことか。ルックスに関していえば、映画に主演するほどのナイーブな美青年なわけですが、何故だか迸るルーザー感。ブルーにこんがらがった我々の心の機微を完璧に(そして、ユーモラスに)掬いとってくれます。この世界においてはほんの少しの”不器用さ”さえ持ち合わせていれば、簡単にアウトサイダーとして扱われてしまう。大橋作品の主人公たちはみな一様にそんな人々だ。しかし、彼らの冴えない日常が描かれていく中で、ときに、そのミニマルさとは不釣り合いな大きな肯定が為されてしまう。そのおかしさには優しさが潜んでいやしないか?おかしいことはおもしろいことだろう?その”おかしさ”は存在していいのだ。それぞれにどこか変わった人々がそのおかしさを正すことなく、何となくの小さなハッピーエンドを迎えてしまう。最初から存在さえしない人の死に涙を流す「伴くん」、『たまこマーケット』の元ネタとしか思えない全うに良い話な「父」、”LOVE”が"愛"と訳された瞬間を捉えてしまった「プロレス」、誤配された手紙があまりに正しく届いてしまう「37歳」といった作品群を読んでいると、私は本当に胸がいっぱいになってしまうのだ。この感触は案外、神様・大島弓子の漫画を読む時のそれと近しいのではないか、とさえ思う。そして、本書の最大の目玉は間違いなく「オサムをこんなうさんくさい道場に通わせたくありません」である。ほとばしるアナーキーさの中で、ありえない交感が果たされてします!こんな漫画そうそうない。あまりにラフな線で書かれたアウトサイダーアートであり、バイブル。それが大橋作品である。 


その活動の初期において、一部の地域で絶大な人気を誇った自費出版本『謎漫画作品集』『週刊オオハシ』などに収められていた初期作品から単行本化されていない傑作をまとめたのが『ゾッキA』と『ゾッキB』だ。前述の自費出版本は今や入手困難であろうから、その圧倒的な才能のはじまりに触れる格好の機会であるわけです。初期作品にはえてして、その表現者のコアみたなものが溢れんばかりにと詰まっているものだ。それらが日の目を見ることで、大橋裕之のその天才性はより世間において自明のこととなるでしょう。いや、ならねばなりません!

織田奈那(欅坂46)個人PV 松本壮史『コールミー』

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欅坂46の織田奈那。彼女の愛称である”オダナナ”はあだ名ではなく、フルネームである。オダナナ、オダナナ、オダナナ。思わず名前を3回唱えたくなるほどに素晴らしい響き、収まり。Enjoy Music Clubの誇る映像ファンタジスタ松本壮史は、彼女のネーミングに宿るそのチャームに目をつけ、「名前を呼んで」という素晴らしい短編ドラマを作り上げてしまった。欅坂46の4thシングル『不協和音』の初回限定D盤に収録された個人PVの一作なのだが、贔屓目抜きにしても、ぶっちぎりでNo.1の出来栄えではないでしょうか。ちなみに、松本壮史は乃木坂46の個人PVにおいても、桜井玲香と共に『アイラブユー』という傑作を提出済みだ。


この『コールミー』には、少女が踊り出さずにはいられない理由みたいなものが完璧に映像に焼き付いている。恋する乙女の心情を、指の先の先まで表出させてしまう島田桃子(ロロ)による振付の見事さ。織田奈那が口ずさむ劇中歌は江本祐介(Enjoy Music Club)のペンだ。この楽曲がまた素晴らしい。

席順あいうえお 名前を呼んで
あと何回かな
春が来ちゃう その前に
いつものように 名前を呼んで

想いを寄せる先生に、出欠確認で名前を呼んでもらう。そんな小さなドラマに秘められた女生徒の恋心が、切なく爆発するナイアガラなアイドル歌謡だ。かつての歌謡界を席巻した大瀧詠一松本隆松田聖子の幸せな関係が、2017年において、欅坂46とEnjoy Music Clubとの間で結ばれた。全てのポップミュージックファンに聞いて頂きたいものだ。更に、江本祐介は役者としても今作に出演を果たしているのだけども、意外や意外(と言っては失礼だが)、好演を見せている。

先生:織田?今・・踊ってた?
織田:踊って・・ました
先生:・・・いいねぇ

この「いいねぇ」が良いのだ。こういう台詞が書けること、ああいう発話ができること、それを”センス”と呼びたい。松本壮史の書く脚本は何気ないようでいて、その全てが心憎い。ときに、今作に名前だけ登場する「学校に来ない山田」とは、あの『アイラブユー』に登場した告白マニアの山田なのだろうか。



オダナナと言えば、欅坂46においてはバラエティ担当のムードメイカー。松本壮史は、そんな彼女のコミカルさの中から秘めたる叙情性をたっぷりと引き出してしまう。彼女のパーソナリティのようなものをきちんと把握した上で脚本が書かれているのであろう、と確信できるような作り手の”愛”がここにはある。事実、松本演出と織田の相性は抜群だ。

織田ぁ、廊下走るの危ないぞ(先生の真似で)
危ないぞじゃなくて
ちゃんと怒んなきゃダメだよ!
ぶっちゃげセンセイ、みんなにナメられてるからね
坊ちゃんってあだ名はずかしくないの?
あぁ、もうすっごいむかつく
はぁ?てか、そこがいいんじゃんね!
はぁ、なんちって

この一人芝居、相当難易度が高い。少しでも間違えれば、相当おサムいことになってしまうだろう。しかし、織田の演技は「それしかない」という見事なレベルで、この脚本に応えている。少しだけハスキーがかった声質もいいし、何と言っても素晴らしいのがその表情だろう。想いが零れ出す直前のような顔。どうやったら、こんな顔を引き出せるのか。1つの要素として、”風”が挙げられやしないか。この短編において終始吹き荒れている風は、今作の隠れた主役である。風は絶えず織田の髪を揺らし、顔に圧をかける。その事が、憂いと色気を帯びた表情を引き出しているように思う。そして、織田の秘めた恋心はポップソングとして風に乗り、思いがけずその人の耳に届いてしまう。更に、この風は少女を、”名前を呼んで”という受け身状態から、彼へと駆け寄る能動的なダッシュを後押しするのである。風立ちぬ、乙女よいざ生きめやも、である。欅坂46ファン以外の方にもぜひとも目撃して頂きたい1作だ。
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最近のこと(2017/04/08~)

数週分ほど「最近のこと」シリーズを書きそびれてしまった。プロ野球が開幕したもののヤクルトスワローズが弱かったり、大相撲の三月場所での稀勢の里優勝に興奮したり、銭湯サウナに傾倒してみたり、どついたるねんのメジャーデビューが決まったり、『ウディ・アレンの6つの危ない物語』がおもしろかったり、ゆるふわギャングのファーストアルバムがリリースされたり、色々あった気がする。ダイアンの漫才ライブDVD『DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション』にも助けられた。

ダイアン 1st DVD/DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~

ダイアン 1st DVD/DVDのダイちゃん~ベストネタセレクション~

特典映像のロケ企画もずっと観ていられるおもしろさで、早くダイアンも全国区のテレビに躍り出て欲しい。朝ドラ『ひよっこ』は岡田恵和なので、一応継続中。有村架純はかわいいが、増田直美のメタっぽいナレーションはあんまり好みではない。ときに、増田明美も松野明美もマラソンランナーなのややこしいな。倉本聰による昼ドラ『やすらぎの郷』は刺激的で必見である。平行して『北の国から』をイチから全部観直してみようと計画している。しかし、まだ『ライスカレー』が途中のままだ。 そうそう、木皿泉×Perfumeの『パンセ』もおもしろかった。3人とも声がよくて、木皿泉の浮世離れした台詞がハマっていた。現在、Perfumeの熱心なリスナーではないのだけども、大学時代サウンドは青春のサウンドトラックと言っていいほどである。部室で流すことが可能な最大公約数の音楽であったので、本当によく聞いていた。「SEVENTH HEAVEN」の収録された『ポリリズム』と『Baby cruising Love/マカロニ』というポップミュージック史に残る二大名曲の両A面シングルの2枚が私の中のベストパフューム。「Baby cruising Love」とかは今聞いても泣いてしまうのだ。
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実家の片づけをしているのだけども、机から懐かしいものが続と々出てくる。日記帳だとか手紙だとか、小学生の頃に自作した漫画、交換し合ったミックステープ(正確にはMDなのだけども)、寄せ書き・・・あと笑ってしまったのは、『キン肉マン』の超人を大量に模写したノート。どうりで、今でもラーメンマンだけは何も見ないで書けるわけです。切手をコレクションしたアルバムが奥の方から出てくる。
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ドラえもん』でスネ夫が切手コレクションを趣味にしているのに憧れて、祖母にねだって譲ってもらったのだった。一瞬だけ凝った趣味であって、完全に忘れていた。教科書とか参考書も全部残してあった。ひすたら書くことで暗記した英単語や日本史の年号やら人生やら土器や絵画の名前で埋め尽くされた真っ黒なノートなどもある。見事に全部忘れてしまったな。「僕が今、好きなモノ」というようなものを羅列したページというのがたいていのどのノートにも1ページあって、「小沢健二藤子・F・不二雄ラーメンズ、珈琲、おぎやはぎサニーデイ・サービス乙葉くるりゲーテバナナマンetc・・・」とかダーッと書いてある。いや、なんだ、ゲーテって。なんで、誰に見せるでもないノートで見栄を張っているのだ。更に、中高時代の部活動で制作した文集が出てきた。私が所属していた部は古典部や文芸部というわけでもないのに、学園祭の時期に文集を制作していたのだ。当然、すべて手書き。上下巻に分かれており、上巻は年度の部活動の概要をまとめたもの、下巻は各々の部員が好き勝手に書いている。毎年恒例の用語解説集のコーナーを執筆するのが花形である。いかに部活動と関係ない用語をスムースに織り込めるかのセンスが問われた。下巻をめくってみると、「僕の選ぶガンダム名シーンベスト5」だとか「浜崎あゆみのベストリリック10」だとか「最強のヴィジュアル系バンドピエロについて」だとか「松浦亜弥『ファーストKISS』全曲解説」だとか心震える企画が立ち並ぶ中、私も「オススメの音楽」なる凡庸なタイトルのページを執筆していた。ひどく退屈な内容ではあったが、このブログの原点を発見したような気持ちで、ギュッと冊子を抱きしめた。



土曜日。金曜の夜からNetflixジャド・アパトー『LOVE』のシーズン2を一気に見通したので大変眠い。
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シーズン1同様の良さ。シーズン2もあけすけに心の機微が描かれていて、揺さぶられました。シーズン3の制作も決定しているようです。槇原敬之のコンサートツアーのチケットに申し込もうとするも、繋がらないままに売り切れてしまった。コメントで教えて頂いたのですが、今回のツアーでは「Penguin」がセットリストに入っているらしいのですよね。1番好きな曲。なんとしても聞きたいではないか。昼頃に、西武池袋線椎名町駅へ。駅前の立ち食いうどん屋「南天」で名物の肉うどんを食べる。
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学生時代はこのあたりをよくウロウロしていたので、ひさしぶりに食べる青春の味であった。椎名町は古い商店街がまだ賑やかで、味のある個店がたくさんある。椎名町にやって来たのは、評判の高い銭湯「妙法湯」が目的。しかし、土曜日は3時半からでまだかなり時間があったので諦め、練馬駅近くの銭湯に適当に入ってみる。これが大外れ。洗い場が1個も空いていないくらいに混んでいて、そのほぼ全員が近所の顔見知りのようで、とにかく五月蠅い。ミサイルと戦争の話にはしゃぐ老人たちの息は血生臭い。汗を流さず水風呂など当たり前、サウナ内で唾を吐いたり、水風呂にタオルを投げ入れたり、と考えるうる最悪のマナーで、ほとほとあきれ返ってしまった。立腹で銭湯を出る。こんなことなら、桜台の「久松湯」にすればよかった。湯上りで実家に向かい、引っ越しの手伝いをして、鍋を食って、周防正行シコふんじゃった。』を観るなどして、生家との別れを惜しんだ。深く思い返すとセンチメンタルになってしまいそうなので、能天気にやり過ごした。帰宅して、『四畳半神話体系』を見漁る。
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改めて、すべてが完璧な作品だ。胸がいっぱいになってしまった。OP曲であるASIAN KUNG-FU GENERATIONの「迷子犬と雨のビート」も彼らのキャリアの中でも1番好きなナンバーかもしれない。



日曜日。目を覚ますと雨降りで、二度寝をしてしまう。疲れが溜まっているので、家でのんびり過ごすことにした。起き抜けにシソンヌのライブDVD『cinq』を観た。

シソンヌライブ [cinq] [DVD]

シソンヌライブ [cinq] [DVD]

本多劇場で上演している『six』の当日券に並ぼうかと思っていたのだが、5000円で立ち見は辛いので断念。最高傑作との呼び声が高いので、DVDで観るのが楽しみだ。個人的には5作目までで言えば、最高傑作は『deux』だと思う。僅差で『trois』か。お昼はふき味噌ペペロンチーノパスタを作って食べた。スワローズの三連敗を見届け、ストレスがマックスに達したので、自転車でサウナへ。上之根橋商店会という小さな商店街にある「バブリバ八光」という銭湯を訪れてみたのですが、清潔、快適で大変素晴らしかった。ナイスなコンディションのサウナなのだけども、空いていて貸し切り。テレビで笑点を観ながら、蒸される。水風呂は19℃くらい。あと少しだけ冷たかったら、言うことなしの施設だ。サウナ利用者はドリンク1本無料ということだったので、オロナミンCを頂く。湯上りに近所のシネコンで『夜は短し歩けよ乙女』を観た。期待をパンパンに膨らませていたせいで、どこか消化不良。ギャグが冴えていなかったようにも思う。まことにどうでもいい話ですが、私は黒髪の乙女より明石さんのがタイプだ。『四畳半神話体系』を観過ぎたあまり、どうしても猫ラーメンが食べたくなり、スーパーで見かけた京都・白川のラーメン屋の袋ラーメンを買って、作って食べました。具材がなく素ラーメンでしたが、無類の味であった。京都で大学生活を送りたかった。Hi,how are you?やHomecomingsやベランダの面々は、あのような夢のようなキャンパスライフを送っていたのだろうか。



月曜日。朝から頭がスッキリしない。まったく月曜日の私はまったく使いものにならない。しかし、やっと年度末処理から解放されたので、少し気分はいい。桜もやっとゆっくり眺めることができたし。花見らしい花見なんて何年もしていない。そもそも本式の花見なんてしたことあったけかな、と思ったけども、学生の頃は確かにシートを敷き、花を見て、飲み食いするというのを春にしていた気がする。私の社交性のピークは20代前半だったようだ。最近歩く距離が増えたからか、ふくらはぎが張って痛い。色々調べてみたところ、歩き方が悪いのだ、という結論に至った。足指を上手に使えていない。これができていないと変な筋肉の付き方をしてしまうらしい。浮指状態が続くと、足裏の血流が悪くなり、肩凝り、腰痛、むくみ、冷え症、自律神経失調症に至る、とまで書いてある。そんなバカな。そんな大事なことを何で今まで誰も教えてくれなかったのだろうか。それとも私がちゃんと聞いていなかっただけで、体育や保健の授業では”歩行時の正しい指の使い方”などが講義されていたのだろうか。だとしたらおおいな損失である。不良でも何でもないのに授業をまともに聞いていなかった若かりし自分が恨めしい。しかし、仮に上記の説に信憑性があるのなら、私は足指を上手に使うだけで、完璧に健康な体を手に入れられるということだ。暗い印象の顔や表情も、グッと爽やかになることだろう。野々村真みたいに。楽しみである。「消えたハンサム」という特集をいつの日か編むべく、表紙候補の1人である鳥羽潤について調べていたら、『ぼくは勉強ができない』の映画において時田秀美役を演じていたことを知った。いや、そういえば、やっていた気がするけども、私はあの小説を10代の頃に読んで、深く絶望したものでした。長嶋有がタイトルでオマージュを捧げた『ぼくは落ち着きがない』という図書部を舞台とした青春小説には、震えるほど感動した。 

ぼくは落ち着きがない (光文社文庫)

ぼくは落ち着きがない (光文社文庫)

帰宅して、昨夜の『乃木坂工事中』と『欅って書けない?』を観る。どちらも良回だった。とりわけ、「どこに潜入してみたい?」という問いに対する、ペーちゃんの「パン・・・」という回答には飛び上がってしまいました。パン屋さんに潜入したかったのかなぁ、かわいいなぁ。『欅って書けない?』が面白くなってきたのはメンバーの成長ももちろんだけども、ハライチ澤部さんが本来の力を発揮し出したのも大きいと思う。開始1年くらいは大量の女の子を前に緊張していたのだろうか。お風呂で長嶋有の『安全な妄想』を読み、「フハッ」と声を出して笑った。
安全な妄想 (河出文庫)

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火曜日。数年前に購入してほったらしにしてあったAlex Chilton『ELECTRICITY BY CANDLELIGHT』

ELECTRICITY BY CANDLELIGHT

ELECTRICITY BY CANDLELIGHT

を最近ひたすら聞いている。なんかこう、今の気分にジャストフィットなのである。泣くほどいい。この日は神宮球場でのヤクルトVSドラゴンズのチケットを抑えていたのだけども、雨天中止。寒い日だったので、助かったという気持ちだ。春の神宮球場はとても寒い。それにヤクルト打線も冷え冷えだ。ポテンシャルはあるのに、どこまでも勝負弱い、お坊ちゃま精神。嫌いになれねぇ。スーパーで春キャベツを1玉買い、豚肉と蒸して食べた。キムチも買ったので、明日はキムチキャベツ炒めを作ろう。録画してあった復活『キングちゃん』を観る。先週のスペシャルもおもしろかったし、本当にうれしい。商品説明コーナーも無事なくなり、純然たるお笑い番組に。グッとくるぜ。Huluで『NOGIBONGO 8』を観る。いきなり3期生フューチャー回。血の入れ替えに徹するのか。乃木坂46の3期生は凄くかわいいのだけども、同じような境遇である欅坂46のアンダー的存在”ひらがなけやき”メンバーのどこかイケてない感じの方がなぜだか好きなのだな。誰よりも高く跳べ!Netflix幾原邦彦が監督を務めた『劇場版美少女戦士セーラームーンR』(1993)を観て、少し泣いた。
美少女戦士セーラームーンR [DVD]

美少女戦士セーラームーンR [DVD]

60分という尺も含めて、完璧としか言いようがない。マーキュリー派かジュピター派か悩む。幼き頃は火野レイちゃん派でした。



水曜日。暖かい。通勤時にコートも必要なくなった。本屋で川島小鳥の編んだ台南ガイドブック『愛の台南』を購入。

愛の台南

愛の台南

こういうところがいいのだろうな、というのがきちんと言語化されていて、益々行きたくなってしまった。今年はこれを元に、台南に旅行に行きたいな。スワローズVSドラゴンズの最下位決定戦がひどい試合でうんざり。本当に弱いぞ、スワローズ。イライラし過ぎてお腹を壊した。多分、本当はスーパーで買った100g125円という破格の豚バラ肉のせいだろう。最近見つけたそのスーパーは汚い場末感満載なのだが、本当に安い。もやしは10円台。そこで買える100円のサラダカニカマがお気に入り。マヨネーズと七味で食べます。JET SETで購入したhi,how are you?のヒストリーVHSを観る。すごくよかった。センチメンタルな気持ちになるではないか。原田くんのギターの音は本当にいい。世界中にインディーミュージックファンに聞いてほしい、ハイハワは。ザ・なつやすみバンドとインドネシアネオアコバンドのスプリットカセットも届いていた。こういうアイテムに異様に愛着を持ってしまうのはまったくをもってオタク気質である。はてなダイアリーのカリスマ『根こそぎリンダ』というブログを運営していた奥山村人が小説家を目指すといい出し、早数年。その言葉は現実となり、佐野徹夜としてデビュー作『君は月夜に光り輝く』を献上した。しかも、既に数万部も売れているらしい。凄過ぎる。『根こそぎリンダ』の大ファンであったので、購入して読みました。ブログでは舞城王太郎滝本竜彦を完全に咀嚼し切った、流れるような文体が特徴だったのだけども、そういった文章の巧さみたいなものは抑制されていて、「~だった」を繰り返す、どこか味気ない文体で押し切っている。何かしら意図があるのかもしれないが、真意は掴めなかった。しかし、ダイアローグシーンなどではその才能の片鱗を見せつけている。テレビ電話やロミオとジュリエットなどを使った視線の混濁化も巧い。あと、アーモンドクラッシュポッキーが出てくるところとか好きでした。



木曜日。欅坂46今泉佑唯が体調不良で当面の活動休止の報。ショックだ。実はずーみんのこと、むちゃくちゃ好きなのだ。ずーみんが好きと公言するの、ちょっと恥ずかしいのは何でなんだろう。ちなみに握手会での人気は欅坂の中でトップである。しかし、いつもあんなに弾けんばかりの笑顔だったのに。人間、わらかないものである。復帰を待ち続けるので、ゆっくり療養して欲しい。少し残業して帰って鍋作って食べる。ひたすらこのルーティンである。鍋を食べながら、貧打スワローズの試合を見守っていると、最後に鵜久森が代打サヨナラ。開幕カードでの代打サヨナラ満塁ホームランも痺れたが、これもうれしい。6連敗という泥沼からの脱出である。昨夜の『水曜日のダウンタウン』でのバイきんぐが面白すぎて、腹が捩れた。お風呂でハードカバーの重たい本を読み耽る。Thundercat『Drunk』をひたすら聞いていた。

Drunk

Drunk

今年の新譜アルバムでずっと聞き続けているのはこれだけかもしれない。

倉本聰『やすらぎの郷』

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やすらぎの郷』がおもしろい。12時30分から放送の昼ドラである。テレビ朝日がシルバー向け昼帯ドラマ枠を新設し、その記念すべき一作目として、倉本聰(『北の国から』『前略おふくろ様』『ライスカレー』など)が脚本を手がけている。御年82歳の倉本聰が2クールに渡る連続ドラマに挑んでいるという事実にまず震え上がってしまうのだが、出演者がそれに輪をかけて凄い。石坂浩二八千草薫、浅岡ルリ子、野際陽子有馬稲子五月みどり加賀まりこ藤竜也ミッキー・カーチス山本圭風吹ジュンetc・・・現行のドラマ作品であれば、この中の1人でも出演していれば御の字というようなベテランスターが勢揃いしている。これはもうテレビドラマファンとしては何を犠牲にしたって目撃せねばならぬ案件なわけだが、実際のところ異様におもしろい。


まさに異様なのだ。かつてテレビ業界に貢献したものだけが入居できる至れり尽くせりの老人介護施設「やすらぎの郷 La Strada」が存在する。石坂浩二の口から興奮気味にそのユートピア性が語られるほどに、スタッフから詳細な設備説明が為されるほどに、その実存が揺らぎ、何やら不安な気持ちになってくる。他にも「たとえ功労者であろうと、かつてテレビ局の専属として働いた経験がある者には入居の資格がない」というような必要以上に細かい設定は何なのだろう。作家の私怨のようなものが滲み出ていやしないか。”ラ・ストラーダ”に隠されたLASTの音も不穏だ。この感じ、何かに似ている。しばらく思案して辿り着いたのが、藤子不二雄Ⓐ(倉本聰と同じ1934年生まれだ)のブラックユーモア短編のフィーリングだった。

笑ゥせぇるすまん (1) (中公文庫―コミック版)

笑ゥせぇるすまん (1) (中公文庫―コミック版)

石坂浩二近藤正臣と馴染みの居酒屋の2階でユートピアやすらぎの郷”の概要について語り合う質感など、まさにそれである。藤子不二雄Ⓐのブラックユーモアということであれば、最後には喪黒福造が現れ「ドーン!!!!」と大どんでん返しがありそうなものだが、さて本作においてはどうなるのだろう。


そして、お昼に放送しているとは思えぬほどの迸る死臭。物語のスタートからして、認知症の果てに亡くなった妻の墓の前での回想から始まる(ここでの風吹ジュンの若作りミニスカート衣装もどうかしている)。やっと主人公が物語の舞台である”やすらぎの郷”に辿り着いたかと思うと、入居者の葬儀後という事で、喪服姿で出迎える豪華絢爛の大女優達。ホワイトバックに映える艶っぽい黒の不気味さよ!そして、2週目現在、物語の争点となっているのは幽霊騒動である。死がそこかしこに転がっている。いや、執筆者、出演者の年齢を考えれば、当然のように”死”はテーマとしても漏れ出しようものだろう。しかし、このドラマにおいて死臭を放っているのは、高齢スター達ではない。彼らは実に活き活きと、往年のパブリックイメージを踏襲した演技を見せている。まるで死者のような不気味さを放っているのは草刈民代常盤貴子名高達男をはじめとする老人以外のキャストである。あの演技メソッドは何なのだ。妙な丁寧さの中でも隠し切れぬ無機質さ。彼らに生きる者としての精力を感じない。若手を代表する名女優の松岡茉優ですら、何やら不自然な笑顔を湛え、”ハッピーちゃん”という気の狂ったようなニックネームを授けられている。死に場所を求めてやってきた老人達が青春を謳歌するかのように快活と、それ以外の人々はロボットのように。この反転現象。「もう死んでいるのはお前ら(=現行のテレビ業界)なのだ」という痛烈な皮肉なのか、はたまた。


さて、現在の放送までをして、この『やすらぎの郷』の主成分は回顧主義から来る愚痴と皮肉。そして、”老人のギャルゲー”と揶揄されるようなスケベ心である。そんなもの誰が観たいのだ、という話だが、これがおもしろいのだから不思議だ。倉本聰の刃の切れ味は、老いてますます鋭い。石坂浩二浅丘ルリ子の、もしくは加賀まりことのハグの画力を、君を見たか。しかし、82歳の作家のまさに命を削るような長期執筆が、愚痴や皮肉などで留まるとは思えないわけで。このドラマが最終的にどんな場所に連れていってくれるのか、期待と関心は尽きない。

湯浅政明『夜は短し歩けよ乙女』

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『四畳半神話体系』における主人公は、自身のヒロインへの恋心になかなか気づかず、”もちぐま”という形で絶えず目の前にぶら下がっていた恋愛への好機になかなか手を伸ばさない。対して『夜は短し恋せよ乙女』の主人公は、明確にヒロインこと”黒髪の乙女”を恋のターゲットに定めており、ナカメ作戦(なるべく彼女の目にとまる)なる戦略を実行すべく絶えず走り回っている。『四畳半神話体系』が永遠に四畳半から抜け出せなくなってしまうというようなループを描く”静”の作品だとすると、今作はタイトルにあるように”歩くこと”で夜を永遠に拡張していく”動”の作品であると言えるだろう。作品のキーとなる『ラ・タ・タ・タム』という絵本は駆動する機関車のお話であり、その絵本を見つける古本市というのもまた、固定されずに移動を続ける形態を有している。移動する自宅である李白の三階建て電車、韋駄天コタツ、ゲリラ演劇と、今作におけるその”動性”は枚挙に暇がない。原作小説では四季にまたがっていた物語を、すべて一夜の出来事であった、という時間の流れを完全に無視したアクロバティックな改変を施しているのだが、それが素晴らしい。整合性を捨て去ってまで作った1本の道が、この作品の魅せるせわしない”移動”の残像をよりくっきりと映し出し、あらゆる事象を1つに結びつけ、数多の孤独を慰める。絶えず動き続けるこの作品のエモーションはアニメーションの快楽性や、エネルギッシュな若き心の様相と見事にマッチしているし、まさに期待どおりの青春活劇と言えるのだろう。


しかし、ほぼ同一のスタッフ陣によって制作された『四畳半神話体系』という前提を意識してしまうと、どうにも物足りないというのが本音だ。映画とテレビシリーズを並列に語ってみせるのはナンセンスだが、登場キャラクターでさえ二作の間を横断しているわけで、やはり比較は避けられまい。しかし、『夜は短し歩けよ乙女』に小津はいない。『四畳半神話体系』という作品においては、何はなくとも小津、と言えるほどに魅力的なキャラクターだ。これは痛手である。それはスタッフも承知のようで、古本市の神様というキャラクターを無理やり小津的なものに改変している(原作では美しい容姿の少年なのである)。そして、同じスタッフを集めたからといって同じことをやってもしょうがないだろう、というようなプロフェッショナル精神がもたらしたであろう”ズレ”が、作品をどこまでも野暮ったくしているように感じる。湯浅政明お得意のインナーワールドでの演出もキレがない。何より、あの凡庸なミュージカルシーンの数々をどう面白がればいいのだ(女装した学園祭事務局長との恋が当て馬に使われるという改変も、このご時世においてあまりに冴えない)。


実にありきたりな批判になってしまうのだが、『夜は短し歩けよ乙女』の星野源と『四畳半神話体系』の浅沼晋太郎では声優としての力量にあまりに差がありすぎやしないか。いわゆる森見調ともいうような、あの矢継ぎ早に繰り出される噛み応えのある古めかしく硬い文体を、『四畳半神話体系』において浅沼慎太郎は完璧なリズムと見事な発声で再現してみせ、それは作品のサウンドトラックであるかのように機能していた。対して星野源のそれは凡庸なコメディのようにしか機能していない。森見作品との相性と集客力というのを考えた時に、主演声優に星野源という選択が最良である事に何の異論もないのだが、それらを差し引いても星野源の声はやはりブスではないだろうか。いや、星野源を槍玉に挙げるのは間違えているかもしれない。そもそも、私は『夜は短し歩けよ乙女』という作品がそれほど好きではなかったのだ。作家の特色を水増しして薄めることで大衆性を獲得した作品、という印象が強い。実際に森見作品において断トツの100万部超えのセールスである。松本人志が『シネマ坊主』で書いていたように、北野武ファンで『HANA-BI』が1番好きな人は少ないし、サザンオールスターズの熱烈なファンに「TSUNAMI」を1番好きな曲に挙げる人はいないし、森見登美彦ファンで『夜は短し歩けよ乙女』をベストに選ぶ人は少ないのではないだろうか、と勝手に思っていたりする。何がそこまでそんなに好きではないかというと、端的に言ってしまえば、葛藤描写が少なく、最初から最後までファンタジックに浮足だっている点に尽きる。しかし、これはあくまでひねくれ者の戯言であって、『四畳半神話体系』が好きな人は間違いなく気に入る、というのが通説のようなので、ぜひ惑わされず、劇場に足を運んでみて欲しい。



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