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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

松本壮史×三浦直之『デリバリーお姉さんNEO』3話

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みなさま、TVKにて放送中の『デリバリーお姉さんNEO』の3話は御覧になられましたでしょうか。いやはや、素晴らしい。”プールサイドでの告白” というモチーフが、岩井俊二『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』(1993)の記憶と重なり、そこから大根仁モテキ』(2010)へ、遡って『演技者。』(2002)*1へと結びつく。松本壮史という才能は”大根仁”を更新する新しい世代の登場と言えるのではないでしょうか。


この3話が『デリバリーお姉さんNEO』の最高傑作回じゃないならどうかしている、それほどにいい。「青春も赤面するほどの恥ずかしさ」と劇中で自己言及するように、甘酸っぱさ5000%!松本壮史と三浦直之(ロロ)のタッグが出し惜しみなしのフルスイングだ。脚本の三浦直之によれば、この3話のプロットはロロの「いつ高」シリーズという青春連作偶像劇プロジェクトのシナリオ案の1つであったらしい。であるからか、ゲストには「いつ高」の看板役者である亀島一徳(将門)と新名基浩(しゅうまい)が登板。板橋駿谷を含めた3人の並びのルックの”青春”としか呼びようのない美しさにまずもって涙。そして、亀島一徳はやはり素晴らしい。テレビサイズでもその魅力は何ら揺らがない。ロロの必殺技とも言える、亀島が少し声を張り上げ、モノローグのように語り出す演技メソッドがこの3話でも炸裂している。モノローグ(独白)のようなのに、気が付いたら誰かにバシっと届いてしまう、あの発話。それを受けるエリー役の岩井堂聖子もまたすっごい良くて、こんなに美人で演技も上手なのに、これまで大々的に発見されずにきたのか不思議でならない。
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思いがけず恋に落ちてしまった顔、の完璧な体現。あと、個人的に「だろうと思ってたよ」の言い方が良すぎて、撃沈。すっかり大ファンになってしまった。この3話は松本壮史が手掛けた乃木坂46個人PVの大傑作『アイラブユー』とリンクする部分もあり、思わず岩井堂聖子に桜井玲香を重ねてしまう。松本壮史が、坂道グループと小劇場系劇団とがタッグを組んだ、新しい『演技者。』を制作する日を夢見ます。とにもかくにも「観てくれー」である。TVKが映らない地域にお住みの方もご安心下さい、動画サイト「GyaO!」にて無料で視聴できますよ!!
gyao.yahoo.co.jp



さて、ここからはネタバレ。

高校3年の夏休みの終わり、失敗に終わった夜の学校のプールサイドでの告白
あの夏を再現したい

この導入だけで傑作を義務づけられたような迸る青春感。しかし、単なるノスタルジックな”青春ゾンビ”ものではない。この3話で切り取られているのは、嘘が"本当のこと"になってしまう美しい瞬間だ。眼鏡に黄色いトップスという”野比のび太”ルックで登場した鴨島(亀島一徳)の依頼を受けて、便利屋”デリバリーお姉さん”であるエリー(岩井堂聖子)は腕が鳴るぜと言わんばかりに、鴨島の15年前の告白相手”エリサ”を探し出すそうとするのだけども、店長北橋(板橋駿谷)に「あせりあそばするな」と一蹴されてしまう。なんと、彼女に課された依頼は、その”エリサ”を演じることだという。この青春との距離の取り方がいい。都市伝説ともファンタジーとも思われる”青春”という現象を再現するには、それくらいの嘘を塗り重ねていかねば、太刀打ちできまい。であるから、「あの夏の再現」は偽物で満ちている。鴨島の母校は廃校になってしまったので、別の校舎で。夏ではないので、水の張っていないボロボロのプールで。”思ったほどコスプレ感もないし とは言え現役感もない”制服姿で。夏の音色はCD音源で。花火の光はセロファン紙で。風は扇風機で。水面に反射する星の光は電飾で・・・そして、15年前とは違う相手に告白をする。しかし、鴨島がかつてエリサに抱いた恋心はホンモノで、それは15年の時を経ても1ミリも古びず、真空パックされている。

蝉の声がやたらうるさくて
ちょうど近くでやってた花火大会の音も混ざり合って
夏だけが詰まった音で
溢れかえってて
花火の光がエリサの顔を照らして
風がエリサの髪を揺らして
おれ、今でも、その一つ一つ、はっきり覚えてて
視覚、嗅覚、聴覚、味覚、触覚、全部で覚えてて

作られた偽物の青春の中で、燦然と輝く”本当の気持ち”は、偽物のエリサをホンモノに変容させてしまう。

エリー:鴨島ぁ!あたしが待ってんでしょ!?
鴨島:その名前の呼び方、エリサ思い出すわぁ
エリー:うん、だって私だもん

このエリーがエリサに完全に変容してしまうシーンこそ、3話における白眉。震え上がるほどに感動的だ。三浦直之の筆致は、あらゆる法則を無視して、届くべき人に気持ちを届けてしまう。それがたとえ、誤配だとしても。そして、エリーもまた鴨島に、かつて想いを寄せていた先輩の面影を重ね、恋心のようなものを抱いてしまう。目尻を掻くクセ、Suicaにチャージする姿を見られたくないこと、ブドウ味のアイスが好きなこと、眼鏡が似合うこと、舌足らずで活舌が悪いこと、靴紐を結ぶのが苦手なこと・・・そんな何気ない固有性のクセや特徴で、誰かと誰かは簡単に結びつく。”好き”という気持ちは無限に生まれていき、この世界を満たすのだ。



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*1:ジャニーズ事務所の俳優と小劇場系の劇団がタッグを組んで制作されたフジテレビの深夜ドラマ