
- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1999/06/30
- メディア: 文庫
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高校教師という設定から、中盤以降は青春偶像劇が展開されていく。部活、バレー大会、文化祭etc・・・それらを眩しく謳歌する生徒達の描写は、改めて”生の一回性”というものを主人公(そして読者)に突き付けると同時に、その懸命さは、”今”を刻みつけるステップの重要性を教えてくれる。
昨日という日があったらしい。明日という日があるらしい。だが、私には今がある。今をしっかり生きてこうと思っている。
今作は藤子・F・不二雄先生が3人の娘に贈った最後のプレゼントとしても有名だ。藤子作品と『スキップ』を繋ぐのはSF(すこし不思議)だけでない。藤子F作品では、未来からロボットがやってきても、オバケと同居しても、超人になっても、常に舞台は学校、空き地、家。彼らを悩ませるのは、友人の暴力や自慢話、親や先生の説教に、やりたくない勉強やスポーツなのだ。どんな状況に置かれようと、藤子F作品のキャラクター達は彼らの日常を全うしていく。ドラえもんはのび太の未来の運命を変えにやってきたが、大きな改革を彼にもたらさない。ほんの少しのスパイスで、ひたすら日常を反復させ続けるのだ。その”今”を生きる事が、未来に繋がり、過去を作る。これがF先生の根底に流れる想いだったのではないだろうか。
さて、『スキップ』ですが、学生時分以来の再読でした。かなりバタ臭くも感じる所も多くありましたが、時の流れに耐えうる名作と呼んで相応しい。書きたい事が溢れていて、ひたすら寄り道を繰り返す感じが妙に愛おしく、またそういった細部の書き込みが実にキラリと光る一作だ。北村薫と言えば、石黒正数『それでも町は廻っていく』と米澤穂信『氷菓』を経た今、無性に日常ミステリーの原点と言える『円紫さん』シリーズを読み進めたい気分なのだ。

- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/03
- メディア: 文庫
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