ヒュー・ロフティング『ドリトル先生アフリカゆき』
石黒正数『それでも町は廻っている』の源流としても誉れ高い小原慎司の初期の傑作『菫画報』を読んでいたら、読書好きの主人公オススメの3冊として、『ドリトル先生』『名探偵カッレくん』『人間失格』が挙げられており、そのラインナップにすっかり心射抜かれてしまった。とりわけ揺さぶられたのが、「ドリトル先生」というその響き。私は読書好きの少年時代を過ごしたわけではないのだが、そんな中でも夢中になって読んだ、という記憶が色濃いのがヒュー・ロフティング『ドリトル先生アフリカゆき』とアストリッド・リンドグレーン『長くつ下のピッピ』
- 作者: ヒュー・ロフティング,井伏鱒二
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
- 購入: 6人 クリック: 78回
- この商品を含むブログ (48件) を見る
- 作者: アストリッド・リンドグレーン,桜井誠,大塚勇三
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2000/06/16
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 33回
- この商品を含むブログ (50件) を見る
歳を重ね、改めて再読してみても古びれる事なく抜群に面白い。動物と会話ができるお医者さんが主人公なのだが、この設定が巧い。これが、当たり前のように動物が喋るファンタジーな世界だとしたら面白味は半減してしまうだろう。ドリトル先生は、その観察眼と熱心な研究姿勢で動物語を取得し、会話を行う。この日常的反復作業による能力修得というリアリティーラインによって、その後の奇想天外な冒険の数々が「もしかしたら、ありえるかもしれない」という輝きを放ち出す。お喋りで博識なオウムのポリネシア、食いしん坊でひょうきんな豚のガブガブだとか、愚痴っぽいアヒルのダブダブ、プライド高くかまってちゃんな犬のジップ、賢く経理を任されるフクロウのトートと、その見事なキャラクター造詣は、擬人化された動物達の古典と呼んでしまいたいほどである。そして、何と言っても心躍る冒険奇談が魅力的。襲いかかるライオンや原住民、大嵐に海賊船、といった困難の数々に立ち向かうのが、(まったく、私の太ったおじさんに対する異様なオブセッションは一体何なのだろう)肥満体形の髭の紳士というのもいいではないか。しかし、この丸っとしたフォルムは重要なのだ。ドリトル先生に、そして、彼が体験する冒険のパターンに、異様な親しみを覚えてしまうのは、それらが実に藤子・F・不二雄的な発想に支えられているからに他ならない。勿論、『ドリトル先生アフリカゆき』の刊行は1922年であるから藤子・F・不二雄がロフティング的なのであり、この『ドリトル先生シリーズ』シリーズは『ドラえもん』の大長編シリーズの源流と言ってしまっていいだろう。そうなってくると、藤子・F・不二雄を起源にもつ小原慎司と石黒正数という作家とロフティングの関係性も実に腑に落ちてくる。大人がノスタルジーに浸るもよし、子どもに読み与えるもよし、一家に1冊なマスト本と言えるでしょう。