青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

立川吉笑『5年目の吉笑』

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上野広小路亭にて立川吉笑の独演会『5年目の吉笑』を観てきました。元お笑い芸人(イクイプメン)、立川談笑の一番弟子、入門からわずか1年半で二つ目に昇進というスピード出世、水道橋博士浅草キッド)、倉本美津留九龍ジョーヨーロッパ企画など多方面の文化人からの寵愛などなど、フックに満ちた若手落語家だ。ずっと観たかった噺家で、入門5年目を記念した独演会の開催を聞きつけ、雨の中、上野まで足を運んで観たわけですが、これがもう、本当に面白かった。こんなにも新しくて刺激的な表現を見逃していたのか!と悔しさを覚えるが、ラストに披露された「くじ悲喜」のこれまでに観た事のないようなおもしろさのあり方に、喜びが溢れ出ました。あんなにニコニコと高座を眺めたのは初めての体験だ。吉笑の落語には、その伝統的なフォーマットの中に、ダウンタウン以降の発想、更にラーメンズ以降のロジカル的思考という現代お笑い史の2つの大きな点が落とし込まれているの。なるほど、調べてみると、イクイプメンは「西のラーメンズバカリズム」と呼ばれるような頭脳派芸人であったよう。また、彼らをいち早く見出したのはダウンタウンのブレーンであった倉本美津留だ。ちなみにイクイプメンの当時の写真をネットで確認してみた所、実にセンスを打ち出したルックス(特に若き吉笑はラーメンズ銀杏BOYZがこんがらがったような感じで最高だ)で笑ってしまった。
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この日聞いた「大根屋騒動」にしても「くじ悲喜」にしても、ただ新しいだけではなく、人間の愚かしさを、可笑しく愛おしく切り取る古典落語の在り方からは離れていない。また、吉笑のオリジナル落語には「落語のマジカルさ」といったものがくっきりと浮かび上がっていると感じた。本人も言及していたが、噺家がひとたび発した言葉は、それがたとえどんな突拍子もない事でも、噺の中においては“ほんとうのこと”になる。落語のその万能感は、映像や身体性を伴う演劇やコントといった表現よりも高い。聞き手の想像力を信頼しながら、1つの噺の中に無数の法則を生み出し、交錯させていく。その手さばきは、創造者そのものだ。


立川吉笑は1984年生まれの30歳。個人的にも同性代だが、パッと連想したのはceroだ。ルーツと現行のシーンの最前線を繋ぎ合わせ、新しいものを生み出してしまうマッシュアップ感覚、その設計力によってとんでもない飛距離を出す”物語”と”イマジネーション”。立川吉笑は落語界におけるcero的存在に違いない。彼の落語は、そのシーンの間口を広げ、届ける距離をグッと伸ばしていく事だろう。