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平賀さち枝とホームカミングス『白い光の朝に』

白い光の朝に

白い光の朝に

平賀さち枝とホームカミングス名義の「白い光の朝に」に加えて、Homecomings「Telly」、平賀さち枝青い車」というそれぞれの新曲、更に表題曲のやけのはらリミックスも加えた4曲入り。吉川英理子(ジョンのサン)によるジャケットイラストも素晴らしい。と、冷静に内容の説明をしてみたものの、何と言っても目玉は「白い光の朝に」である。

大々々々名曲だろう!間違いなく今年1番の美しいコラボレーション、とびきりに幸福な融合。ギターポップサウンドに、フォークソングと歌謡曲を彷彿とさせるメロディーが乗る。とりたてて発明というわけでもなく、これまでも何度も聞いた事があるようなこの試みに、大袈裟に驚いてみせたい。それほどに、平賀さち枝の言葉が音階を昇り降りしていく事で生まれるあの独特の浮遊感とHomecomingsの奏でるサウンドのキラメキとが、親和性をみせているのです。Homecomingsの演奏が本当に素晴らしい。耳に痛みを感じさせない柔らかく繊細な音色で楽曲の叙情性に彩りを添える。それでいて実にグルーヴィーだ。とびきりのメロディーラインはポップスとしての強度を保ちつつも、そのソングライティングには”平熱”の感性が持ち込まれており、J-POPのクリシェなら確実に盛り上がっていくであろうパートも、絶妙に上がり切らず、また下がり切らない。これがたまらなくいい。そんな平賀さち枝とホームカミングスが描く青春は、巷に溢れる大声で感情的に叫ばれるそれではなく、小さな声で囁かれるべき儚くも美しい”あの時間”だ。
そして、日本語で歌う畳野彩加(Homecomings)のボーカル。そもそもHomecomingsの特別性は彼女のボーカルにあると信じて止まなかったわけだけども、ダイレクトに言葉の意味が入ってくる状態で聞くその歌声に、改めて腰を抜かすほどに感動してしまった。平賀さち枝と比べると、その歌声はどこか音程も危うげで、初々しくつたないようにも聞こえる。しかし、なんだ、この輝きは。つまらない言葉で表現するなら「洗練されていない美しさ」もしくは「何にも囚われていない自由さ」とでも言おうか。とにもかくにも、時の流れを止めて、浮遊するかのような畳野彩加のボーカリゼーションにぜひ耳をすませて欲しい。最後に、平賀さち枝による歌詞だ。

その時 木々は揺れて 曇ったような心も少し
やわらいだような気がしたよ 指の先に蝶が飛ぶ
想いは今深くなる いつか素直な日の言葉を待つよ


ああ いつまでも 私のそばで その涙を見せてよ
風はたち 時が包む
ああ 君はまた 大人になって さびしさも増える
そんなこと考えているよ 白い光の朝に


愛しき言葉のメモ 過ぎ去った日に胸を焦がし
微笑んだ今日は美しく 道の先に 犬が走る
ドアを今 開く時 今も思い出せる夜空を抱えて


ああ いつまでも 私のそばで その涙を見せてよ
花は咲き 虹がかかる
ああ 君はまた 大人になって 喜びも増える
そんなこと祈ってるよ 白い光の朝に

迷い込んだ か弱き君の背中も
あの海までかけてゆく 瞳をこらして


ああ いつまでも 私のそばで その涙を見せてよ
風はたち 時が包む
ああ 君はまた 大人になって さびしさも増える
そんなこと考えているよ 白い光の朝に

なんて素晴らしいのだろう。フレーズの端々に小沢健二のソウルを感じるのを私だけではないはず。また市井に暮らす女性の中に宿る神秘性のようなものをあぶり出す宇多田ヒカルのような詩情も見受けられる。過ぎゆく日々の喜びや悲しみを大らかに胸に抱き、光に包まれながらドアを開け放つ。そんな瑞々しいポップソングがこの「白い光の朝に」だ。