青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

うしろシティ『アメリカンショートヘア』

うしろシティの第3回単独公演を収めたライブDVD『アメリカンショートヘア』を観た。この1本で、女子人気先行型芸人という印象は完全に覆るだろう。スタジオ収録のコント集『街のコント屋さん』さらば青春の光とのユニットコントも収録されているコント集『cafeと喫茶店』の2枚のDVDから格段に進化している。「不条理に振り回される」という型はありきたりではあるのだが、設定の作り込みや心理描写が巧妙な為、説得力を保ちつつ笑いを誘発させている。また、単独公演のネタでは、ただ振り回されるだけでなく、もう一方がそれに迎合したり、拮抗したり、と広がりが楽しめる。


『アメリカンショートヘア』に収録されているネタ群のシチュエーションを挙げてみても、「入れ替わり」「漫画の持ちこみ」「ヒーロー」「ヒッチハイク」「不動産」「待ち合わせ」「見送り」「部活」「上京」・・・と、これまでにコントの定番のものばかりなのだけども、どれも絶妙に王道からズラしてある。「うしろシティ節」というのが確立されている。「このシチュエーションで、まだそんな発想と展開があったか」という素直な驚き、喜びがある。そして、捻じれていながらも、どこまでもポップだ。こ勿論、2人のルックスの良さもあるだろう。カラフルでかわいい金子と生瀬勝久佐藤健を垂らしたかのようなモノクロな阿諏訪、お笑い芸人のルックスとしては絶妙だ。このルックスのアドバンテージは、大林宣彦的な入れ替わりを題材にした「CHANGE」において「入れ替わってしまっても意外と大丈夫なものだね」という新しい展開に説得力を持たせるが、一方で「先生さよなら」などの所謂ルーザーを題材としたネタにおいては凄味に欠いてしまう。しかし、このDVDのベストネタの1つと言える「人探し」においては、ルックスの良さを帳消しにするような演技力と観客に想像の余白を残す台詞作りでもって、見事に「やべー奴」を体現し切っている。しつこいようですが、うしろシティは進化している。バナナマンの影響を公言しているからには、ルーザー達を掬い上げる感傷と肯定のあの感覚は欠かす事はできないだろう。ルックスの良さという諸刃の剣を磨いて、若手コント師のトップを疾走して頂きたい所存であります。


余談だけども、完全なるバナナマン設楽メソッドな不良が登場するコント「芽生え」において、「NIRVANAの3rdはクソだけど、12曲目の為だけに買う価値がある」みたいな台詞があって、はて、12曲目って何だったっけ、と調べたら「All Apologies」だった。

なるほど。と言うように、うしろシティの阿諏訪は音楽などのカルチャーに造詣が深いようで、この公演のOPとEDはまつきあゆむの「シュレーディンガーの子供たち」と「クライングソーサー」でした。8月の公演では倉内太を起用。さらに、前野健太を敬愛しているとか。今後、どのようなミュージシャンの楽曲が使用されるかも楽しみだ。