青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

Louis Cole『Album 2』


NRTという素晴らしいレーベルがあって、そこからリリースされるブラジルやアルゼンチンの若きミュージシャンの作品に触れる体験はまさに未知との遭遇という感じでとてもワクワクさせられている。昨年末のAntonio Loureiro、そして間もなくリリースされるAlexandre Andrésといったアーティストの国内盤はこれからも日本リスナーのミナス音楽への大きな窓口となるに違いなく、またCarlos Aguirreと青葉市子のブッキングなど刺激的なライブイベントも展開している。とにかく信頼の厚いレーベルなのです。そんなNRTから5月にリリースされたLA出身の若干26歳の男性ミュージシャンLouis Cole(ルイス・コール)のセカンドアルバム『Album 2』が素晴らしい。

アルバム 2

アルバム 2

Brian WilsonBECK、James Blake、Brad MehldauFlying Lotus、Thundercatといった名前がズラリと並ぶプレス資料によって生まれる期待を、軽々と超えてくる傑作だ。親がジャズミュージシャン、26歳という若さは膨大なライブラリーを並列に扱える所謂YouTube世代。いい加減そういった類の宣伝プロフィールは食傷気味ですが、このLouis Coleは本物じゃないでしょうか。要約すれば、ジャズやクラシックの教養を持ち、ベースミュージック界隈でも引く手あまたの技巧派ドラマーが、BECKのサンプリング感覚で、Brian Wilsonの夢の中で作り上げたローファイポップなわけです。

まず、冒頭の美しいストリングスによるインストゥルメントで心を鷲掴みにされてしまう。19世紀ヨーロッパにスリップしたかと思いきや、すぐさまチリチリと鳴る現代LAのビートやドラムンベースに呼び戻される。そして、その真ん中にドシンと『Pet Sounds』がいる。その音像の時空の行き来が境界を曖昧にしていく。そう言われてみれば、ベッドルームミュージックのようにファニーな温かみをたずさえながらも幽玄さを持ち合わせていたり、せっかくのテクニカルなドラムプレイも割れるほどの音質で録音されていたり(それがまたよいのです)、歌声もまた、James Blakeを引き合いに出される亡霊のような響きをみせたかと思えば、甘美なファルセットを聞かせたりする。そんな多くのアンビバレンスを行き来しながら、残る口当たりはひたすらにエレガントだ。なんてロマンチックな音楽なのだろう、と思う。しかし、やはり最大の魅力は、そのローファイなサウンドだ。ノイズまみれにブライアンの見た夢の続きを描き出す様は、The CaretakerやLiz Christineが同様の手法で記憶や空間を呼び覚ましているのを想わせる。ブライアンの半生を振り返っても、甘い夢、それを見るには、何かしらの歪さが必要なのは確かなのであります。