青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

HARCO『シンクロの世界』


HARCOというシンガーソングライターはミュージックフリーク達にやや舐められていやしないか。確かに、環境問題に取り組んで以降の氏の音楽は角が取れてしまったようで、個人的にも関心を失ってしまっているのが正直な所。しかし、その直前のミニアルバム『Ethology』『Night Hike』『Wish List』の3枚の輝きは今も色褪せない。そして、今は 2000年にリリースされたメジャー1stアルバム『シンクロの世界』を再評価していきたい気分だ。若干24歳のHARCO青年、才気走っている。ピアノからムーグシンセからマリンバターンテーブルからサンプラーまでを同列に鳴らす壮大なポップオーケストラである。HARCOはシンガーかつ歌心溢れる優れたドラマーでもある。そのリズム感覚は拍子を自在に操り、ベッドルームミュージックでありながらブレイクビーツも飛び出す。BECKの『Odelay』(1996)

Odelay

Odelay

のサンプリングミクスチャーセンスを消化した日本語ポップス、という風にも言えるかもしれない。複雑なコード進行と詰まりに詰まった言葉、更に電子音から環境音などと、あらゆる音色の洪水で、初めて聞いた時は「なんて聞きづらいのだ!」と挫折したりもしたわけですが、聞き慣れると、実に優れたライティングセンスで纏め上げられたポップソング集である事に気付く。この時期のHARCOはメロディーも甘すぎず、歌詞も毒っ気たっぷり。「僕は知ってるよ ちゃんと見てるよ 頑張ってる君の事」など逆立ちしたって言いそうにない底意地の悪さが見え隠れする。それでいて可愛げ溢れる庶民の生活感覚を持ち合わせた絶妙な筆致なのです。曲タイトルからして「DJ旅」「部屋でクイズ!」「バッティングセンター」「アンダースロー」「C線上のワーカホリック」といった具合の緩さ。「アンダースロー」の歌い出しなんてこうだ。

アンダースローの投球フォームに撃たれた
テレビを見た僕の箸が止まる
壁を相手取ってする投げ真似や
跳ね返れば上に行くボールの行方


珍しく残す夕食
「ビール持ってこい」て嘆く父親


アンダースロー

なんでしょうか、この歌詞は。何を伝えたいのかさっぱりわからないけども、確かな良さがある。

広場から見たスクリーンに都市のリングモーター
適度を超えちゃったらさばくで重力に会う
坂道の角度を変えたら誰も彼も「どうして?」
車輪を付けて道路を蹴って重力を知る


「シンクロの世界」

意味のなさの中に豊かな細部がある。そして、こういう感じも。

大好きな名前を教えてよ
言葉を教えてよ
華麗なものになって
この僕を動かしてよ


「バッティングセンター」

た、たまらなくないですか。こいつは悪い男ですよ。文学性を掲げながら、その独特な歌唱で言葉はサウンドに溶け込み音に奉仕している。とにかくキレキレだ。無敵だった頃のHARCO青年の渾身のファースト。中古屋で見つけたら即ゲットの1枚ではないでしょうか。