青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

五反田団といわきから来た高校生『初恋のジェノベーゼは爪の味』


前田司郎が福島県立いわき総合高等学校卒業公演の脚本・演出を手掛けるは今回が4回目だそうだ。前年の『チャンポルギーニとハワイ旅行』に完全に魅了されてしまったので今年も早々に予約。このシリーズの肝は「高校生が高校生を演じている」という幸福、これに尽きる。嘘であるはずの演劇が、どうしても”本当のこと”としてこちらに響いてくる。限定された季節のキラメキがワッと押し寄せてくるのだ。


前作同様に、福島の街に謎の怪獣が現れる。前作はチャンポルギーニ、今回のはポルプトン。突如現れ、全てを終わらせてしまうかもしれないそれは、思春期の抱える悩み、苛立ち、絶望が具現化したものであって、打ち勝たねばならぬ存在ではあるのだけど、みなどこかでそれによる破壊を不謹慎にも待ち侘びていたりもする。これは青春映画における定石でありまして、例えば、相米慎二の『台風クラブ』における”台風”がそれだ。確かに、五反田団といわきから来た高校生の作品群は『台風クラブ』の緩やかな変奏のようである。放課後、校舎に取り残された学生数人の繰り広げる群像劇というモチーフは何故こうも胸を揺さぶってくるのだろう。しかし、舞台はいわき、東北。怪獣が暴れる近くには原発がある。というよりこの怪獣が、原発そのもののメタファーであって、本来は思春期の葛藤であるはずのそれが、大人たちが勝手に作り上げたアクチャルな事象に飲み込まれてしまっている。しかし、彼らはその事象を日常として受け止め、挙句には鼻歌まじりに怪物退治に出向く。もちろんその結末など劇中では描かれないのだけど、OK、未来は君たちに託した、という感じだ。君たちの日常はかくも楽しく可笑しい。


そう、おもしろおかしいのだ。あのやかましくも美しい、高校生達の同時多発会話に耳をすませていると、声を出して笑わずにはいられない。しかし、前田司郎の演出力はどうなっているのだろう。何故かくも、高校生のリアリティと瑞々しさをキープしながら、自身のメソッドを注入して演出できるのかしら。とにかく本作で繰り広げられる会話は面白い。どこかコントもしくは漫才チックであった。テーマは恋バナ。特にアンジャッシュ風すれ違い告白コントの出来栄えは、高校生が演じているとは思えぬ完成度だ。基本的にみんな上手だったけれど、2人ほどズバ抜けて巧い子がいて、やはりその2人はででんでん退治の役を任されておりました。