星野源『そして生活はつづく』
星野源の人気は凄い。タワーレコードには星野源への応援メッセージノートなどが置いてあって、そのおびただしい書きこみと熱量に圧倒されてしまう。ネット上で彼について書かれたテキストも、同様の熱狂に満ちていて、読んでいるだけで眩暈がしてくるほどだ。まずい、まずいぞ。このままでは星野源が文系女子の指針になってしまう。ミュージシャン、俳優、文筆家をこなすような、それでいてかわいい顔まで持ち合わせた天才が。『青春ゾンビ』も今後は文系女子をターゲットにした愛されブログとしてやっていきたい所存ですので、せめて星野源の文章テクニックだけでも盗んで愛されていこう、と『そして生活はつづく』を購入してみました。
- 作者: 星野源
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/01/04
- メディア: 文庫
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星野源のエッセイに話を戻そう。かわいこぶりっこは鼻につくものの、自意識の扱い方が抜群に巧い。下世話さをユーモアで緩和し、「えーそんな事考えてるの!?」という驚きと「わー私とおんなじ!」という共感の狭間を絶妙に狙えていっております。ちなみに同様のタイプの話芸ながらも「えーそんな事考えてるの!?」にドライブを効かせ過ぎているのが、オードリー若林正恭。おそらく男子支持はあちらのがやや高いのではないでしょうか。
色々文句を垂れながらも、この『そして生活はつづく』が名エッセイである事は認めざるをえない。あれだけの尺のエッセイは量産していくのは文章を適当に書き始めた人がこなせるものではない。情景の描写力が高いのでエピソードトークが文章ながらもスラスラ頭に入ってくる。ちょいちょい入ってくる家族にまつわる泣かせの話も巧いし、何よりやっかいな自意識が生み出す哀しみを必至に笑いに変えようとしている心意気にグッときてしまう。桂枝雀への愛を語るエッセイも本書には収録されているわけだが、星野源の文章スタイルは、人情噺に、業の肯定、と間違いなく落語のそれを踏襲している。価値観の逆転は星野源の詩世界の大きな魅力だ。本著の中で言えば「おじいちゃんはつづく」の中における、祖父の死体の足の冷たさに触れた時、笑っちゃうほどに「生きよう」と思った、と綴る、その筆致だ。
世界は ひとつじゃない
ああ そのまま 重なりあって
ぼくらは ひとつになれない
そのまま どこかにいこう
「ばらばら」
「世界は1つ」という常套句に対して「NO!」をつきつけたこのラインが、星野源の作家としての核である事は間違いない。しかし、こうも歌っている、
あの世界とこの世界
重なりあったところに
たったひとつのものが あるんだ
人はそれぞれの世界で、無数のそれぞれの生活をつづけていく。
「そして生活はつづく」「そして生活はつづく」「そして生活はつづくそして生活はつづく」「そして生活はつづく」「そして生活はつづく」「そして生活はつづぐ」
それはとても孤独な事かもしれないのだけど、それぞれの独立した生活が、何かの拍子で境界が外れて重なり合った時、突然うんこが現れたりする。それはあまりにバカバカしく、思わず笑ってしまうような愛おしい奇跡だ。これが星野源が自著のタイトルに仕掛けた優しい悪戯。
くだらないの中に愛が 人は笑うように生きる
「くだらないの中に」
「てめぇ、星野この野郎」とページを捲っていたはずが、気づけば「わかる!わかるよ、源くん!」と興奮気味に本を閉じている。くそー凄いぜ、星野源。