青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

水曜日のダウンタウン「寝たら起きない王決定戦」

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2017年10月11日放送の『水曜日のダウンタウン』の衝撃から抜け出せないでいる。PUNPEEの『MODERN TIMES』発売記念バージョンのOPもグッときてしまうし、冒頭の新企画「リアルスラムドッグミリオネア」もギャラクシー賞候補間違いなし。企画の発想力もさることながら、「見ること」「聞くこと」の”不確かさ”を、重層的に問う構成に痺れた。しかし、その衝撃を吹き飛ばしたのが、「寝たら起きない王決定戦」でのクロちゃん(安田大サーカス)だ。クロちゃん回はいつも凄いが、今回はとびきりだった。あまりに観たことない映像のオンパレードである。泥酔したクロちゃんが眠りにつくまでの姿を収めたドキュメンタリーなのだけども、とにかくおぞましい。「ば、化け物・・・!」「こんな事って・・・」「大チャンス!」といちいち気の利いたコメントを残す仕掛け人小宮浩信三四郎)の”かわい気”との対比も相まって、クロちゃんの醸し出す恐怖がひとしお。


サラリーマン4コマ漫画のようなヨッパイ千鳥足で帰宅し、独り言をつぶやきながら部屋を徘徊、共演した女性タレントの名を何度もつぶやきながらうなされるように眠りにつき、突如泣きだし、床を這いつくばってベッドの下に潜り込む・・・その突拍子のない奇行の数々に腹を抱えて笑ってしまう。笑ってしまうのは確かなのだけども、同時に何やら胸が苦しくなるような感覚も抱いた。それは「プライベートのないクロちゃんがかわいそう・・・」とかそういう放送倫理委員会的なものではなくて、あのクロちゃんの”歪さ”に対して、何かこう根源的なシンパシーのようなものを覚えてしまったのだ。だって、私も貴方も、ああならないとは言い切れない。いや、今現在も、あのような行動を誰にも知られることなくとっているかもしれない、という恐ろしさ。「胎動するベッド」というあまりにキラーなフレーズと共に、上下に軋むベッドと共に苦しそうに呼吸するクロちゃんのサッドモンスターぶりは、誰もが胸の内に抱え込む”人として生きる悲しさ”のようなものがゴロっとありのままに映し出されてしまったみたいだ。人間の悲しさが全部映っている、とさえ思った。それを笑えたのは何やらポジティブなことのようにも思える。*1ときに、元℃-ute岡井千聖のワイプコメントがネット上で不評のようだ。確かに手数が多くてうるさいのだけども、クロちゃんのVTRを前にして、1回だけ実に鋭いコメントを残している。

なんかかわいそう
切ないね

どう考えても「気色悪い」が正解のリアクションである中、この視点を持ち込んだのは凄い。『水曜日のダウンタウン』はいつだって、”観たことがないもの”を観せてくれる。これからも、水曜日だけは早く家に帰らなくては。

*1:言うまでもないが、この時私が笑い飛ばしているのは私自身だ。

ロロ『BGM』

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高校演劇「いつ高シリーズ」、テレビドラマ『デリバリーお姉さんNEO』の成果かくやと言わんばかりに、三浦直之の書く会話がどこまでも瑞々しい。例えば、冒頭で泡之介が語る、金曜夜の恒例であった食事の為の家族ドライブの思い出。エピソードとして圧倒的に”活きて”いる。もしかしたら、この箇所なんかは、誰かの実体験をそのまま語っているだけなのかもしれないが、こういった”活きの良さ”が全編にわたって繰り広げられている。そして、会話が場面を呼び、油が差されたかのように滑らかに物語を回転させていく。これまでになくリアリズムを貫きながら、時にマジカルに、ポエミーに、フランス映画のようなVシネマのような、唯一無二なポップカルチャーの数珠つなぎだ。そんな三浦直之の語り手として成熟に呼応するように、照明、美術、衣装といった各要素もハイレベルに作品を高め合う。ときに、劇団初期作のようなチャイルディッシュな全能感でもって、ワチャワチャと横道に逸れてみせながらも、全体的な口当たりはあくまでスマートでポップ(江本祐介による音楽の貢献も大きすぎるほどに大きい)。ロロという劇団が確実にネクストレベルに到達していることを知らしめた1作となった。


学生時代からの友人・午前二時の結婚式に向けて、泡之介とBBQは車を北へと走らせる・・・あらかじめ説明をしておくと、”午前二時”も“泡之介”も“BBQ”も全て人名である。これはあだ名やハンドルネームなどでなく、本当にそういう名前なのだ。他にもドモホルンリンクル、金魚すくい、聞こえる・・・といった固有名詞から動詞まで、あらゆる数奇な名前の人物が登場する。この手さばきは三浦直之が高橋源一郎チルドレンであることに起因している。

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

さようなら、ギャングたち (講談社文芸文庫)

ちなみに高橋源一郎のデビュー作『さようなら、ギャングたち』の主人公カップルの名前は、”さようなら、ギャングたち”と” 中島みゆきソング・ブック”、飼っている猫の名前は”ヘンリー四世”である。これだけで、いかに三浦直之が高橋源一郎の影響下にいるかが明らかになるだろう。深い意味はおそらくない。しかし、このあらゆるものが差異なんてまったく気にせずに横並びにされるような感触がいい。ロロのキャラクターの独特な名付けには、圧倒的な”親密さ”のようなものが流れている。そういった態度は作劇にも強く作用していて、ロロ作品の世界にはおいては、性差とかそういったものはあってないようなものだ。泡之介とBBQのという2人のボーイズは、ごく自然にカップル。そのことについて、周りもとやかく言わない。当たり前の恋バナのようにして語られる。亀島一徳・篠崎大悟のカップルに、「いつ高シリーズ」ファンは、将門と太郎の関係を想起してニヤリとしたことだろう。


話を『BGM』に戻そう。時は2016年、泡之介とBBQは車を仙台に向けて走らせる。車内でスマートフォンに目を落とした泡之介に、「SMAPの解散」の報が飛び込んでくる。このちょうど10年前すなわち2006年、泡之介とBBQは、失恋した午前二時を慰める為に、同じく東北を車で旅した。泡之介とBBQは、その10年前の旅行の道筋を辿り、散らばった記憶を拾い集める。かつての”思い出”を10分間の演劇作品として、結婚式で披露する予定なのだ。現在の時間軸を、2017年ではなくあえて2016年に設定している。「SMAPの解散」のフィーリングを物語に落とし込むためであろう。更に、2006年と2016年という10年間の、そのちょうど真ん中に「2011.03.11」を配置する意図があったのではないだろうか。記憶の2006年から5年後に、現在の2016年の5年前に、あの震災は起きた。『BGM』のロードムービーは、東京からいわき、松島、仙台、石巻と巡る。津波によって風景が流された場所ばかり。しかし、この『BGM』という作品は、劇中において震災についての言及は一切なされず、明るく楽しいエンターテインメントであり続ける。誰1人として失われない物語だ。記憶の中の2006年、海辺にほど近い場所で暮らしていた繭子や”聞こえる”の現在軸での安否が気になる。しかし、2人は当たり前のように2016年においても健在だ(”不在”であった繭子と10年前と変わらず小学生のままの”聞こえる”のあり方はやや幽霊的にも感じるのだが)。震災の被害の爪痕が大きい土地を舞台に選びながら、何もなかったかのように作劇する。社会から目を背けているようでいて、“あえて”何もなかったかのように振る舞うその態度には、”再生”への祈りのようなものが込められていやしないか。震災で失われた風景、もしくは国民的アイドルグループ、そして過ぎ去った青春。その再生。


かと言って、再生を祈る三浦直之の筆致はちっともノスタルジックに陥ってはいない。確かに、どうやっても時間は戻らないし、記憶は確実に薄れていく。だからこそ、人は言葉を記し、物語をしたため、何かを演じ、歌を歌うのだ。劇中において、午前二時、泡之介、BBQが旅のハイライトを演劇にしたように。綾乃が(大)女優であるように、午前二時の元カレ永井がYouTubeに歌をアップするように。


舞台美術の可動式のストリングスカーテンがユラユラと揺れ、時間や空間が振動すると、過去と現在は織り重なり、交差して溶け合う。過ぎ去ったはずの青春が、確実に“今”に息づいていることに気づくだろう。いや、青春という言葉は、ある一限定的な期間にのみ宿るのでない。

駅についた列車から高校生の私が降りてきた

おしゃべりはつづくよどこまでも

いつかは急がなければならない日がくる

劇中に「青春18切符」のコピーが印象的に何度も登場する。青春18切符の購入に年齢制限はない。18歳を過ぎようとも、何歳だろうと購入することができる。そう、青春はどこにだって、いつだって宿るのだ。その事実は私たちの”さびしさ”をどこまでも慰めるだろう。OK、未来はいつも100%楽しい。



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仙台ドライブ紀行

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音楽を聞きながらドライブをして、そのゴールとしてロロ『BGM』の仙台公演を観る。ロードムービー劇である『BGM』を観た者ならば、誰もがひらめくであろうこのすばらしくてナイスチョイスな思いつきを、実行に踏み切ることにした。しかし、先週末からの体調不良をズルズルと引きずっており、コンディションは極めて悪い。不安である。「朝の5時に起き、6時には出発してしまおう」という皮算用は、寝坊によってもろくも崩れ去った。5時起きとわかっているのに、昨夜遅くまで『おじゃMAP』の「香取・草彅の2人旅」の録画を観直してしまったのだ。奇しくも、こちらもロードムービーだった。私の頭の中で、ロロの『BGM』と「香取・草彅の2人旅」はほとんどイコールで結ばれた。


起きたら既に朝の6時半である。加えて体調もやはり悪い。「いっそ家でゆっくり寝ていようか」という考えも少なからず、頭をよぎったが、なんとか自身を奮い立たせる。急いで支度をするも、出発は7時半にズレこんだ。レンタカー屋のおじさんは予約時間に遅れたにも関わらず、嫌な顔一つせず親切だった。カーナビに目的地の劇場「せんだい演劇工房10-BOX」の住所を入力してみると、到着予定時刻は12:20と算出された。開演時間は12:30であるから、1回でもトイレ休憩を挟んだら、ほぼアウトということである。かなり危険な賭けだが、「予定時刻に間に合わない」というオチも、実に『BGM』という公演の内容に沿っている。そんなよくわからない慰めを胸に、ギャンブルスタートを切った。


到着見込み時刻が開演時間にギリギリということは、休憩をとれないのはもちろんだが、少しの判断ミスも許されないということだ。高速道路のドライブというのは、僅かな進路変更のミス一つで、簡単に数十分単位のロスが発生してしまう。常に神経を張り巡らさねばなるまい。しかし、BGMにはこだわりたい。まずはマイブームが訪れているカーネーションを聞いた。最新アルバム『Suburban Baroque』と名盤『Parakeet & Ghost』の2枚だ。

Suburban Baroque

Suburban Baroque

素晴らしい演奏と歌声、そして詩情。気分はすっかりご機嫌である。走るは『BGM』の冒頭と同様に、常磐自動車道。劇中に登場する守谷サービスエリアに後ろ髪を引かれつつ、車は一目散に北を目指す。ときに最近は、長嶋有『愛のようだ』と近藤聡乃『A子さんの恋人』の影響で、日産ラシーンと日産ジュークに夢中なのである。
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こちらは1番人気"ドラえもんブルー"のラシーン。この日も、その2台が走っていやないかなとずっと道路に目をこらしていたのだが、一度も姿を現さなかった。ここ最近の道路はフィットとプリウスばかりで、ロマンというものがない(どちらも、いい車ですけども)。


さすがに膀胱の限界が訪れ、聞いたことのない名前の小さなパーキングに止まった。到着予定時刻に変動はなく、間に合うかはまだ五分五分の状況である。ブログやTwitterで「仙台までロロ、観に行きます!」と意気揚々と宣言していたので、開演時刻に姿がないのはちょっとバツが悪い。遅刻のフラグを立てておこうと、現状をツイートしておくことにした。すぐさまロロ主催の三浦くんが「ヒコさあああん!お待ちしております!!」というリプライをくれた。そのリプライを神木隆之介の声でもって脳内で再生し、最後の気力を振り絞る。すると、カーナビが示す到着時刻がみるみると縮んでいく。これが神木くんの神通力である。最終的に予定より30分早く仙台に到着することができた。BGMはカーネーションからSMAP、Enjoy Music Club、槇原敬之と続き、到着間近にHAPPLEの傑作アルバム『ハミングのふる夜』を聞いた。

ハミングのふる夜

ハミングのふる夜

アルバムのラストナンバー「主題」にこんなリリックがある。

ボクらは思い出の中にも生きていて
確かな呼吸をし続けている

あまりにロロ『BGM』にふさわしいではないか。会場に着くと、hi,how are you?の原田くんがいた。「今日は江本さんのお母さんも来てるんすよ」と教えてくれた。「それだけでもう胸熱す」などとあいからわず適当なことを言っていて、ほっこりした。数時間の運転を経て観劇する『BGM』は、車のシートに座る感触が身体に残っていて、まるで泡ノ介やBBQのドライブに同乗しているような質感を、より強く覚えた。登場人物らに強い”愛おしさ”を感じたのだ。はるばる来て、よかった。ときに、この公演の感想、書ける気がしないのだけども、仮に書いたとしても、漏れてしまうであろうものとして、泡ノ介(亀島一徳)の「ピカチュウ」のイントネーションと、午前二時(島田桃子)の「何か音楽かけて・・・とてつも似合うやつ」という台詞が凄く好きだったことを、記しておきたい。あと、泡ノ介たちが披露する予定だった劇中劇がジャルジャルっぽくて最高だった。


終演後は、出演者やスタッフとの面会で賑わっていた。「忙しそうだし、時間をとらせたところで、たいして弾んだ話できないしな・・・」と、持ち前の気さくさでもって黙って帰ろうとするところを、劇中のラストシーンよろしく後ろから午前二時(島田桃子)さんが声をかけてくれ、何とか三浦くん(≒神木隆之介)や江本さんに挨拶することができた。危うく、遠路はるばるコミュニケーション障害ぶりを露呈するところであった。三浦くんとは互いに存在を認識し合って5年ほどの年月が経っていると思うのだけども、実は5分以上の会話をしたことがない。しかし、私は三浦くんをソウルメイトだと思っているし、腰を据えて話してみたいことは山ほどある。SMAPのことやサウナのこと、はたまた元・阪神タイガース桧山の生涯打率についてとか。でも、そうしないことにある種の美しさのようなものを感じてもいる。


劇場を後にする。時刻はすでに15時。体調が悪いとは言え、朝から何も食べていないので、さすがにお腹が空いた。しかし、火傷跡にできた口内炎があまりにも凶暴で、熱いものが食べられないのである。泣く泣く牛タンを断念し、国道沿いの回転寿司屋で食事を済ませる。海が近いから旨いだろう(別に全てのネタが東北の海のものじゃないから本当は関係ないはず)、というプラセボ効果は抜群だった。しかし、体調がよくないので、ナマモノはまずかった。すぐに具合が悪くなる。予定では「汗蒸幕のゆ」で韓国式のサウナを楽しもうと思っていたのだが、もう運転する気力がないので、寿司屋から1番近かった「スーパー銭湯極楽湯 名取店」で休憩することに。わざわざ仙台まで来て、全国チェーンのスーパー銭湯に。しかし、この施設はそう悪くはないのだ。いかんせん混み過ぎなのは難だが、2台ストーブのサウナは大汗仕様だし、水風呂は16℃ほどに冷えている。外気浴スペースには10台ものデッキチェアが配置されていて、まどろみ放題。とは言え、総合点では平均的なスーパー銭湯と大差はないので、また来ようとは思わない。仙台でサウナに入りたいというのであれば、「サウナ&カプセルホテル キュア国分町」をオススメする。1週間以上体調を崩していたので、久しぶりのサウナ。寝不足も相まって、3セットこなしたあたりでフラフラに。デッキチェアで寝そべっていたら、そのままかなりの時間をうたた寝してしまった。浅い眠りの中で、テレビから乃木坂46が新曲を披露している歌声がかすかに聞こえてくる。土曜日の夕方だから『MUSIC FAIR』だろうか。そういえば、恵俊彰の声が聞こえる気がする・・・とか思ったが、調べてみたら『MUSIC FAIR』の司会は恵俊彰鈴木杏樹体制からいつの間にか軽部アナ仲間由紀恵に変わっているらしい。じゃあ、あの時私が聞いた恵俊彰の声は?それはきっと思い出の中の恵俊彰だ。私たちは”今”という時間だけを生きているわけじゃない、思い出の中にも生きていて、その2つが交錯しながら、未来を形作っている。そして、なんでかわからないが、恵俊彰は未来永劫嫌われ者だ。


極楽湯を後にし、その向いにの大型スーパーに入店した。そこで暮らす人の生活に根差したご当地ものをゲットしようという魂胆。サンドウィッチマンがこよなく愛することでも有名な「定義三角油揚げ」のパック詰めされたものを購入。アイス売り場ではブルボンの「ルマンドアイス」を見つけた。何故かいまだに関東圏では買えないのだけども、東北では大々的に売り出していた。
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入口のベンチに座って食べた。本当にルマンドがそのままアイスになっていて、感動はするものの、あまりにそのまま過ぎるような気がしないでもない。そして、ハウス食品から出ている「シチューオンライス」のルーを買った。これは今思い返しても、わざわざそれを仙台で買う理由が皆目見当がつかないが、買った。チキンフリカッセ風を買った。頭がフラフラで正常な判断ができなかったのだ。
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*このあとスタッフが美味しくいただきました


ツルハドラッグで、口内炎用の薬を買い、栄養ドリンクを飲んで、いざ帰路へ。しかし、走り出すやいなや、あまりの眠気に命の危険を感じ、サービスエリアで1時間休憩とることに。お土産に永遠のマスターピース萩の月」をゲットした。帰り道は常磐道ではなく東北道であった。個人的には常磐道のほうが、旅情があって好き。ガラガラで単調、灯りも極端に少ない高速道路は眠気を促進させる。またしても死の恐怖を覚えたので、福島県あたりのサービスエリアでシートを倒して軽く眠ることに。気が付いたら、4時間ほど経っていて、時刻は夜中の3時だった。車の中で『オードリーのオールナイトニッポン』をリアルタイムで聞くのを楽しみにしていたのに。そろそろ本腰を入れて帰路に着かぬと、レンタカーの返却時間が近づいている。歯ブラシセットを買って、歯を磨き、顔を洗い、気合いを入れ直す。睡眠の甲斐あり、車は快調にスピードを上げる。夜は徐々に白みだし、視界も良好だ。早く家に帰って横になりたい、その一心で、ハンドルを握る。しかし、体調が悪かったとは言え、体力が落ちたものだ。10年前は一晩眠らずに運転するなんて朝飯前であった。歳はとった。しかし、若さというのは体力だけを指すものでない。車をどこまでも走らせよう、そういった心持ちにこそ宿るのではないか。そんな風に考えながら、「未来はいつも楽しい」と唱え続けた。
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『おじゃMAP!!』スペシャル「ザキヤマディレクターが撮る!! 香取慎吾&草彅剛の2人旅!!」

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メンバー各々が単体で魅力的なのはもちろんなのだけども、やはりSMAPのメンバーが2人以上揃うと、その画面が異様にグルーヴするような感覚に陥る。なんてことない映像やトークでもずっと観ていられてしまう。もちろん、これはSMAPというグループへの思い入れが大きく左右するのだろうから、興味がない人にとってはつまらないものなのかもしれない。今回の『おじゃMAP!!スペシャルの視聴率も9%ほどで、決して突出した数字ではない。しかし、やはりSMAPを愛する者にとっては極めて特別な回であった。


スキャンダルいじり、行きつけのお店紹介、愛車や自宅の公開、恋愛トーク、路上ゲリラパフォーマンス・・・少なからずジャニーズ事務所を退所したからこそ可能になったのでは、と思われる元SMAPである2人のプライベートの露出。事務所のしがらみを抜けた等身大の香取慎吾と草彅剛を見せていこうとするのだけども、逆説的にそのスーパースター性がクッキリと浮かび上がっていくのがおもしろい。ウン百万の旧式クラシックカーを乗り回し、ウン十万のビンテージ古着やギターを嗜む、偉大なるグレイトアメリカ幻想に憑りつかれた草彅剛の常識外れの金銭感覚。その草彅に呆れ、こちら(視聴者)側の感覚に寄り添う素振りを見せる香取慎吾にしても、あのアンタッチャブル山崎弘也をしおらしくさせてしまうほどの豪邸に住んでいる。テレビで観たことのないようなモザイクのかかり方が、より想像を掻き立て、その偶像性を際立たせる。一部公開された香取の手による芸術作品の圧倒的なオリジナリティも含め、やはり一般人を超越した感性を見せつけられた。やっぱりこの2人は紛れもないスターなのである。


そして、何より番組をリードしていたのは草彅剛のその異様なハイテンションだろう。新しいスタートからくる解放感、そのスタートを親友との共演で始められることへの喜びに満ちていたのだろう。しかし、それでもやはり変人としかいいようのない佇まいで、観る者を圧倒させた。草彅剛のこの”変さ”に、何やら既視感があるなと思っていたのだが、かもめんたるのコントで岩崎う大が過度にデフォルメして演じる奇人変人そのものなのである。かもめんたるファンであれば、ご理解いただけると思うのだが、立ち振る舞い、発声、間など、どこをとってもまさにかもめんたるのコント。時折発される胡散臭い「やっべー」「やっぱり肉はうまいんだよー」の言い方など完全にそのもの。などと思っていると、草彅の口から「冗談ハンバーグ」という言葉が飛び出し、転げ落ちそうになる。そう、かもめんたるが『キングオブコント2016』で披露したコントに

冗談どんぶりぃ

というキラーフレーズが登場するのである。
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まさかのシンクロニシティ。会話の途中で突如として愛犬を猫なで声で可愛がる、という一連のシステマティックな振る舞いに、山崎から「もうコントじゃん」というツッコミが入り、この「草彅剛=かもめんたる説」は補完された。とにもかくにも、草彅剛という男は、かもめんたるのコントの登場人物同様に、圧倒的な異常性ゆえに濃くその存在をこの世に刻む、愛すべき奇人変人なのだ。


その奇人性を受け入れて、どこまでも肯定してみせる香取慎吾の友情が泣かせる。

変な人でさ
変なこと言って、急に変なことやるけどさ
スゴい真面目でしょ!?こんなところが好きです

”しんつよ”とは、現代の最も美しい友情神話の一つである。「夫婦や恋人に近い」「宝物」「自分自身」「もともと同じ樹」といった強い言葉で互いを形容し合う、その崇高さに満ちたエピソードの数々は、おそらくファンの方々がテレビや雑誌などのインタビューから少しずつ集めて形成されてであろうおそろしく充実したWikipediaの項目をぜひともお読み頂きたい。深夜の練習に、ストリートダンスパフォーマンス、豪華セットでの楽曲披露・・・かつて確かに存在したSMAPとしての青春を反復してみせることで、その確かな温もりと眩しさこそが、今後の2人の未来をも明るく照らす、そう確信させられるスペシャルな番組であった。


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岡田恵和『ひよっこ』26週目「グッバイ、ナミダクン」

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グッバイ、ナミダクン、また逢う日まで。半年間の放送を終えて1週間ほど経ちますが、まんまと『ひよっこ』ロスに陥っている。日に日に、『ひよっこ』という作品が私の中で大きくなっていくのを感じる。ちょっと遅くなってしまったのだけど、こうしちゃおれん、と最終週に関するエントリーを書き殴りました。そちら、『文春オンライン』の「ひよっこフォーエバー」特集に掲載して頂いております。お時間ありましたら、ぜひお読み下さい。
bunshun.jp
ここに書き漏らしていることがまだまだたくさんある気がする。谷田部家が披露する「涙くんさよなら」の泣き笑い混じったような歌声(あの混じり方こそ、『ひよっこ』であり、人生だ)、実がすずふり亭に預けたお重の記憶を取り戻すという伏線回収のスマートさ、「幸せを諦めません」というヒデの結婚宣言、ヒデからのプロポーズを受けたみね子が返す「結婚しよ」(有村架純の声色と表情!!)、つぼ田つぼ助の2人に流れる愛しきBL感、澄子と豊子の同棲生活開始、回を重ねるごとに素晴らしい存在感を形成していった島崎遥香の由香、最後の最後で登場した津田寛治演じる高校の担任教師・・・とにかくもう、『ひよっこ』は全然"終わらない"のである。



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