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水曜日のダウンタウン「フューチャークロちゃん」

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昨年の12月27日に放送された『水曜日のダウンタウン・2時間SP』をご覧になっただろうか。あれを観ずして、2017年は終われないというような大作である。嘘ツイートをまき散らす実態を暴露した8月の「リアルクロちゃん」あたりまでは気軽に笑い飛ばせていたクロちゃん企画だが、10月の「寝たら起きない王決定戦」からは、胎動するベッドという衝撃映像をはじめ、人が”生きる”ということの哀しさのようなものが画面に自然と漏れ出していて、まったくもって目が離せないコンテンツに進化を遂げているのである。


必要以上のカロリーを貪っては、ジムで運動してエネルギーを燃焼、個室の飲食店を予約し、人気スイーツを餌に女をくどく、夜中のデートはタクシー移動、缶チューハイで泥酔してすべてを忘れる・・・・クロちゃんが体現しているのは現代都市生活者のブルースだ。どうしたって孤独なクロちゃんはそういった逐一をSNSで実況するようにつぶやいていく。そのつぶやきには多分に嘘が盛り込まれているのだが、それくらい現実を異化させなければ、このくそったれな現実を生きていく姿なんて晒せないのではないだろうか。そうまでしても、誰かと繋がらんとするクロちゃんの姿はとてつもなく生々しく、胸を撃つ。『水曜日のダウンタウン』はクロちゃんが必死に取り繕うリアルの虚構を剥ぎ取っていく。好きな子が席を外した隙を狙ってグラスを舐め回す、フラれた途端に別の女の子にアタックをかける・・・そこに浮かび上がるクロちゃんの実態は、”モンスター”として観る者の悲鳴を誘う。確かに不格好ではあるし、相手にとってはひどい迷惑。とは思いつつも、彼の行為をして「信じられない!」と突き放すほどの境地に我々は到達していないのではないか。あれぞ、愚かで醜くも愛おしい人間の姿というような気にさせられてしまう。人は誰もが悲しいモンスターなのだ。余談になるが、グラスを舐め回す件に関して。「好き子のリコーダーをこっそり舐める」というのが、学生時代のあるあるネタとして普及しているくらいだがら、幼年期においてはポピュラーな欲求なのだろう。それはキスを体験する以前の、世界が未分化されたままの感覚と言える。それを、人並み以上の年収と人付き合いを経ながらも、今なお持ち合わせているクロちゃんがどうにも眩しい。単なる性癖なのかもしれないが。


今回の「フューチャークロちゃん」に何より心揺さぶられてしまうのは、愚かさ、醜さを抱えながらも、前に進んでいこうとする人間の意志のようなものが周到に演出されている点にある。今回のSPのもう1本の目玉企画は「松野明美vsターミネーター」だった。モノマネ芸人扮する未来の松野明美が現代の松野明美に、「後に人類の指導者になる貴方を抹殺しにロボットがやってくるので、なんとか生き延びて欲しい」と電話で告げるというドッキリの続編。なんたるクレイジーな2本立て。しかし、この荒唐無稽で俗悪な2本に通底しているのは、「運命に抗う」「未来を変える」というポジティブなフィーリングだ。

未来は変えられないことはないからね

と団長に向かってフラットに語るクロちゃんにはグッときてしまうし、

座らないといけないよね

と、最悪の結末の覚悟しながら落とし穴の待つベンチへと歩みを進めていく姿は、お笑い芸人という生き方につきまとう業を超えた何かが宿っていて、観る者の心を掴んだ。
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あと、クロちゃんを穴に落として、飛び跳ねるようにして画面から消えていくレイちゃまがかわいかった。落とし穴から這い上がり、1人タクシーに乗り込むクロちゃんを長尺で捉えたショットは、まるで『マスター・オブ・ゼロ シーズン2』5話のラストではないか。ポッカリ空いた隣のスペースには、かつてたしかに最愛の人がいて、車内には楽しかった時間の残り香が漂っている。しかし、それらは暴力的なまでに損なわれてしまった。埋めようのない圧倒的な孤独が可視化されたあの『マスター・オブ・ゼロ』を、ドキュメンタリーで映しとってしまった『水曜日のダウンタウン』、おそるべし。賛否両論があるのは仕方ないが、2018年も見逃せない番組だろう。



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