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中園ミホ『トットてれび』5話

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黎明期のテレビ史のおさらいを一通り終えた『トットてれび』、ラスト3回は黒柳徹子のその華麗なる交友録にクローズアップしていくようだ。まずは、向田邦子との思い出の5話である。当時のテレビ業界の喧騒をそのまま写し取ったような、型破りな演出の熱量はなりを潜めている。親友の死に対するトットちゃん(満島ひかり))の涙をカメラを正面から捉えず、背中ごしに彼女の哀しみを収め、建物に向かってそっとお辞儀させる。”静かな”、しかし背後で複雑に感情が蠢く演出が為されている。まるで、今話の主役である向田邦子の脚本ドラマのような。この回のみ、監督が『あまちゃん』の井上剛から津田温子にバトンタッチしているのも納得で、的確。『寺内貫太郎一家』のテーマでのダンスが、過去と未来のットちゃんを繋げてしまうあのエンディングは、まさに”物語”誕生の瞬間のようであった。



NYから帰国したトットちゃんは現在もなお続く長寿番組『徹子の部屋』をスタートさせる。

みなさまこんにちは、徹子の部屋でございます

徹子の部屋』は月曜日~金曜日の平日にかけて毎日放送される帯番組だ。観る人の気が散らないよう、司会者は常に同じ髪型を、と始めたのがあのタマネギ頭だという。ちなみに、満島ひかりが歌っていた「徹子の部屋のテーマ」に当てていた、あの不思議な歌詞は公式のものであるらしい。

高い声を出す時 より目にならないように
笑う時はできる限り コロラチューラで
わさび・からし・こしょうなどは控えめに
タバコは特に絶対 禁物よ
お酒は これは絶対止められない

トットちゃんは”毎日”放送される『徹子の部屋』の収録に勤しむ一方で、向田邦子のアパートを”毎日のように”訪れた。いや、ナレーションの言葉を借りるならば、“毎日のように”ではなくて本当に”毎日”会っていた、のだ。徹子の部屋があって、向田邦子の部屋がある。トットちゃんはその2点を、猫のように気ままに行き来する日々を送る。愛猫家として知られる向田邦子。そんな向田の部屋で安心しきったように身を横たえるトットちゃんは、本当に猫そのもののようである。



向田邦子の部屋には当時はまだ珍しかった留守番電話がいち早く導入されていた。であるから、彼女が留守であろうと(なかろうと)

向田でございます

と、彼女の声が迎え入れてくれる。どうか居留守であってくれ、と願うばかりだが、向田邦子はもういない。その才能はあの痛ましい飛行機事故によって失われてしまった。誰もいなくなった部屋にポツリと置かれた一台の留守番電話のことを想う。「向田邦子の部屋」というの片方を失っても、トットちゃんは今もなお『徹子の部屋』の放送を毎日続けている。遠い場所に届く”魔法の箱”で。あの番組を続ける事でトットちゃんは、「向田さん、黒柳です」とその毎日をあの部屋にある留守番電話に残していっているのではないだろうか。



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