青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

最近のこと(2020/03/11)

死ぬまでに津軽のほうに行ってみたい
後ろに過ぎてく雪景色 あの部屋にバイバイ
                    
ミツメ「サマースノウ」

まさに今のわたしの心境ではないか。ということでリフレッシュ休暇を利用して青森へのひとり旅を決行することにした。大宮駅から新青森駅まで新幹線でだいたい3時間。駅ナカニューデイズでホットコーヒーのラージサイズとポテロングを購入して長旅に備える。時間を持て余すかなと思ったけども、『2010s』を読みながら、ネットで気になった固有名詞を調べたり、Spotifyで音源をチェックしたりしていたらあっという間に到着してしまった。あと、ポテロングは美味すぎないところがいいなと思った。この日の東京は20℃を超える陽気で、少し浮かれてついつい薄手のコートを手に取ってしまったのだけど、向かう先は本州の最北端。案の定、駅に降り立った瞬間からひんやりとした空気を感じる。おそるおそる天気予報を調べてみると最低気温はマイナス2℃、雪だるまマークもチラついていた。

新青森駅のロッカーに荷物をあずけ、JR奥羽本線青森駅へ向かおうと思うも、チンタラしていたら1時間に1本の電車を逃してしまう。しかたないのでバスで向かう。電車なら6分のところを30分以上かけて進むバスだが、通過する風景の中に港やフェリーが含まれていたのでよしとしよう。青森駅に着くとちょうど昼の時間になっていたので、「味の札幌 大西」にて“味噌カレー牛乳ラーメン”を食べた。これぞB級グルメという味わいだったが、近所にあったら3ヵ月に1回くらいは通ってしまう気がする。”味噌カレー牛乳ラーメン”という何の工夫もないネーミングに魔術的な響きがあるのだと思う。最近、東京神田にも進出した煮干しラーメンの名店「長尾中華そば」や激辛ネギラーメンが地元で愛されているという「あさ利」も気になっていたので、梯子して食べちゃうぞと意気込んでいたのだけども、もうおじさんなので無理でした。ポテロングがどう考えても余計だった。

腹ごなしに青森の街を散歩してみる。「古書らせん堂」という古本屋がとても素晴らしかった。素敵な本しか置かない、というのが伝わってくる痺れる品揃え。何軒か古本屋を巡ったが、青森出身の太宰治ナンシー関三浦雅士といった作家の本が充実しているお店がやはり多い。ずっと欲しいと思っていた太宰治の弟子である小山清の全集がとても良い状態で置いてあったので、もう少しで購入してしまうところだった。値が張るし、なにより辞書くらい厚いので旅先で買うものじゃないので、断念。携帯しやすい岩波ジュニア新書の茨木のり子『詩のこころを読む』を買った。休憩がてら喫茶店で少し読み進める。ほんらい言葉にならないはずの感情の機微をしたためた詩を、明瞭かつ鋭く分析して文章に変換していくその手さばきに、脳がビリビリと痺れた。紹介されていた辻征夫の一編の詩に心を奪われる。

また春になってしまった
これが何回めの春であるのか
ぼくにはわからない
人類出現前の春もまた
春だったのだろうか
原始時代には ひとは
これが春だなんて知らずに
(ただ要するにいまなのだと思って)
そこらにやたらに咲く春の花を
ぼんやり 原始的な眼つきで
眺めていたりしたのだろうか
微風にひらひら舞い落ちるちいさな花
あるいはドサッと頭上に落下する巨大な花
ああこの花々が主食だったらくらしはどんなにらくだろう
どだいおれに恐竜なんかが
殺せるわけがないじゃないか ちきしょう
などと原始語でつぶやき
石斧や 棍棒などにちらと眼をやり
膝をかかえてかんがえこむ
そんな男もいただろうか
でもしかたがないやがんばらなくちゃと
かれがまた洞窟の外の花々に眼をもどすと……
おどろくべし!
そのちょっとした瞬間に
日はすでにどっぷりと暮れ
鼻先まで ぶあつい闇と
亡霊のマンモスなどが
鬼気迫るように迫っていたのだ
髯や鬚の
原始時代の
原始人よ
不安や
いろんな種類の
おっかなさに
よくぞ耐えてこんにちまで
生きてきたなと誉めてやりたいが
きみは
すなわちぼくで
ぼくはきみなので
自画自賛はつつしみたい


辻征夫「春の問題」

「きみはすなわちぼくで ぼくはきみ」という時空を超えた共鳴が、グータラ者たちの間で交わされていることにとても感動してしまう。


観光名所として有名な「ねぶたの家 ワ・ラッセ」という施設が素晴らしかった。入口からマルチスクリーンの映像と音楽のアジテーションがすごいのだ。

シャンシャンと鈴の音が聞こえてくれば
「跳ねてえじゃ」と思う
「じゃわめぐ」の意味がわかったような気がした

言葉が強い。巨大なねぶたとその豪快な光線を眼前にすると、自然と鳥肌が立ってしまう。ねぶた、好きかもしれない。現在6代目まで存在するねぶた名人たちの系譜、作風が細かく記された資料にもテンションが上がってしまった。文系インテリっぽい風貌に反した荒々しく力強い作風の4代目・鹿内一生をわたしは推す。施設中で放送が入り、3.11への黙祷を捧げた。ワ・ラッセからほど近い洒落た施設「A-FACTORY」で物産を眺め、林檎ジュースを買ってのんだ。鈴木大拙の著書『善とは何か』に対する音楽的アプローチとしてリリースされたどついたるねんの198曲入り4thアルバム『ピラミッドをぶっ壊せ』に「りんごジュースうめえ」という曲があって、すごく好きなのを思い出しました。

まだまだ街をぶらつく。風が強く、日が暮れると冷え込みは増していく。手袋なしではちょっと厳しい。寒さに耐えられず入ったスーパーマーケットで工藤パンイギリストースト」が目に入った。工藤パンは日本の各所にある山崎製パンの商品を受託製造する企業なのだそうだ。秋田にも「コーヒー」や「アベックパン」などの名作を誇るたけや製パンなどがあるが、工藤パンも名作揃い。「イギリストースト」は青森県民のソウルフードとして他県のファンも多いらしい。また店頭を見るに、青森では「ランチパック」ではなく、工藤パンブランドの「フレッシュランチ」がメジャーな存在のよう。青森駅にほど近い定食屋「お食事処おさない」にてホタテ貝の焼き味噌、ホタテの刺身を食べた。カレーやラーメンまで手広く手がける定食屋で、素朴な佇まいが実に落ち着く。ホタテのプリプリ感に大満足。新青森駅に戻り、本日の宿泊先「あおもり健康ランド」へと向かう。休憩所で眠るのでも良かったのだけど、荷物が心配なので滞在料金にプラス1600円のプライベートルームを選んだ。天井は吹き抜けで、完全個室ではないものの、他に利用客がいないようで快適だった。カプセルホテルでお馴染みのテレビの音声は枕に仕込まれたマイクから聞こえてくるスタイル。サウナと水風呂で身体の疲れをとり、ぐっすりと眠りについた。