青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

大根仁『ハロー張りネズミ』8話

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FILE No.1から3までの慌ただしいジャンルの衣替えは、放送開始直後ということもあり、置いてけぼりにされるような感覚があったが、各キャラクターが物語に馴染んできた6話以降は好調だ。視聴率もわかりやすく回復の傾向を見せていて、何だかんだ視聴率も、指標としてまだまだ捨てたものではないのかもしれない。小市民の実存のようなものを巡る、下町探偵モノと呼ぶにふさわしい渋めの作品はどれも泣かせる。探偵たちはお節介と人情でもって、想いや人の存在が、なかったことにされるのを許さない。とりわけFILE No.6「残された時間」の男2人の泥臭いロードムービーっぷり素晴らしかった。トヨタスプリンターカリブや街の中華屋や居酒屋の薄汚れ具合、美術やロケーションの細部のリアリティの充実が楽しい。その居酒屋で交わされるグレ(森田剛)と栗田(國村隼)の会話が実によかった。

栗田:兄さん、飲めないのか?
グレ:いや、酒、大っ好きだよ
栗田:じゃあ、飲めよ
グレ:ダメだよ、運転あるし
栗田:今日は、この辺りで泊まればいいだろ
グレ:じゃあ・・・飲もうかな

大ジョッキをあおるグレ。本筋とはほとんど関係ないのだが、役者の演技を含め(ビールを前にした時の森田剛の表情!!)、妙に瑞々しく印象に残る。テレビドラではやはり、こういった”生きたやりとり”を観たい。


山田洋二『幸福な黄色いハンカチ』のオマージュはあまりに衒いがなく、イージー過ぎる気がしないでもない。服役を終えたヤクザ者と家族の再会というトレースされたあらすじ自体、時代錯誤のベッタベタな昭和ブルースだ。そんな染みったれたブルースを2017年に違和感なく響かせるのに成功している要因は、森田剛という役者の現代的な佇まいに他ならないだろう。彼の持ち合わせる軽薄さと物悲しさが間に挟まることで、國村隼高倉健ばりの人情が、スッと現代に接続されてしまう。つくづく森田剛は素晴らしい役者である。


グレは探偵の仕事を遂行する為には、”嘘”をつくことを厭わない。グレというのは人懐っこい人情家なのだけども、森田剛が演じることで、内に狂気を秘めたサイコスキラーのようにも見えてくる。であるから、グレの発する言葉の真偽は常に揺れている。そのことがドラマにほどよい緊張感を生んでいるように思う。そして、グレのつく”嘘”は最後まで物語を振動させる。

栗田:どうだった?あったか、黄色いハンカチ
グレ:あったよ・・・黄色いハンカチがたくさんあったよ、息子さんに会いに行こう
栗田:・・・不器用だな、兄さんも
息子には会えなかったが、兄さんに会えてよかったよ

グレのつく優しい嘘が肯定され、栗田とグレの間に疑似父子関係が結ばれてしまうラストは感涙を禁じ得ない。1話で所長(山口智子)の発した

いいんじゃん、代わりだって

という言葉がリフレインする。代わりでもいい、偽物でもいい、というのがこのドラマの根幹に流れるフィーリングだ。得難い関係性を結んだ栗田とグレだが、そもそもこの依頼におけるグレは五郎(瑛太)の代役であったのだから。




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