青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

富山旅行記(2025/3/30~3/31)


わたしは藤子不二雄の熱心なファン。最近は1歳の娘も「ドラちゃん、ドラちゃん」と気に入っていて、これはいいぞ、と思い立って富山に旅行に出掛けることにした。高岡市藤子・F・不二雄の出生の地であるので、駅前にはドラえもん銅像ドラえもんポストがあるし、高岡おとぎの森公園にはあの空き地を再現した「ドラえもん広場」なんて気の利いたものもある。さらには、高岡美術館には「藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」が常設されているではありませんか。それになんといっても、高岡と言えば、あの『まんが道』の舞台である。

藤子不二雄Aによる半自伝漫画『まんが道』はとにかく異様におもしろい。それぞれのエピソードの瑞々しさとドラマとしての組み立ての巧さにより、満賀という他者の人生を“自分事”のように入り込んで読めてしまう圧倒的な読書体験だ。連載を落としまくり出版社から届く電報の絶望感ときたら。

「ゲン オクルニオヨバ ズ ヨソヘタノンダ 」ナカヨシ
この一通の電報が、それからはじまる足塚茂道の葬式をつげる、最初の鐘だったのだ!

あれってわたしの記憶じゃないんだっけ、というくらいの現実感をもって、今なお心に宿る絶望。作中におけるA先生の分身である満賀は実に愚かで卑小であり、それはまるで苦しみながらも生きる懸命に生きる名もなき我々そのものなのだ。青春のバイブルとして、今後も読み継がれていって欲しい。旅行前、妻にも富山パートだけ読み直ししておいてもらった。


まんが道』について書いていては、延々に話が進まない。富山旅行である。大阪からなら北陸に行きやすいはず、と思っていたけども、休憩を挟みながらのんびり進んで約5時間のロングドライブであって、東京から北陸新幹線で行く方が圧倒的に楽だろう。しかし、わたしは車という閉じた空間での親密な移動のほうが好きだ。車っていつもよりおしゃべりになれる気がする。朝5時に起きて、6時に出発。道中の福井県は通過するのもはじめて。眼鏡で有名な鯖江なども後ろ髪をひかれる。北陸道の南条のサービスエリアには草食恐竜“フクイティタン”の大きなロボットモニュメントがあって、植物の疑似餌を鼻に近づけると、大きな鳴き声と共に鼻息を吹きかけてくるのだ。「かいじゅうちゃん、みたいねー」と近づいていった娘、当然のように号泣。泣き止んで車に乗り込んだあとも「ないちゃった」「くやしかった」と恐竜との闘いを反芻していた。わたしは旅先のサービスエリアに高揚してしまい、まったく食べる必要のないアメリカンドッグを購入してしまった。


11時頃に高岡市に到着。最初の目的に設定してあった「番やのすし 高岡野村店」にて昼食。子連れでも入れるお寿司屋さんということで紹介してもらった回転寿司なのだけど、リーズナブルな価格で新鮮かつ富山ならではの珍しいネタをたくさん食べることができて大満足であった。白エビ、生ホタルイカ、生トロサバ、初ガツオなどを堪能。〆ていないサバを食べられるのはうれしい。生ホタルイカもはじめて食べたので感激。

娘はタマゴ、コーン、ツナ、納豆の4皿を完食。回転寿司の雰囲気が楽しいらしくてご機嫌。職人さんたちの「いらっしゃい!」の掛け声が気に入り終始「らっしゃーい」と真似していた。寿司屋を後にして、高岡駅前に車を停め、万葉線ドラえもんトラムに乗り込む。高岡市射水市を繋ぐ万葉線ドラえもんトラム以外の号では土日祝日は射水市出身の立川志の輔による車内アナウンスが流れるらしい。ドラえもん立川志の輔、かなり強力な布陣だ。ドラえもんトラムの車内はキャラクターやひみつ道具が敷き詰められている。「藤子・F・不二雄ふるさとギャラリー」は小規模ながらも質のいい展示で楽しませてくれる。F先生の生原稿の線の美しい丸みに見惚れる。グッズショップで小さなドラえもんのぬいぐるみを買ってあげた。初登場verドラえもんと通常ドラえもんの2種があって、どっちがいいか聞いてみると、「こっちー」と初登場verのドラえもんを指さす。適当に指差ししているかもしれないと、位置を逆にして訪ねてみても、やはり初登場verのドラえもんを指すので、「こいつは渋いセンスだ」と思いながらボッテリとしたドラえもんのぬいぐるみとポストカードを3通購入した。


美術館からほど近い高岡古城公園を散歩する。『まんが道』にて幾度なく登場する公園で、特に“二つ山”(正式名称は卯辰山)は、満賀と才野が手塚治虫の『新宝島』に出会い、“1冊の本を2人で読み合う”という、まさに“2人で1人”という藤子不二雄という作家を象徴する出来事が発生するスポットだ。また、2人が「漫画家になろう!」と誓い合うのもこの二つ山であって、『まんが道』ファンにとっては、まさに聖地の中の聖地と言っていいであるから、感動ひとしお。武藤や牙沢もこの公園を歩いていたのかしら。

「ゲーッ!!牙沢!!」はかなり好きなシーンです。散歩を続けて、高岡大仏にお参り。満賀のマドンナである霧野涼子さんが大仏の前で見知らぬ男性とキスしているのを目撃してしまい、「おれの恋人はまんがや!」となるシーンはあまりにも有名。個人的には才野(F先生)が1日で会社辞めてしまい、高岡大仏の前で

おれは会社をやめてまんがに専念するけど、おまえは会社やめないでほしいんだ!
(中略)
しばらくふたり別べつにまわり道をすることになるけど、近いうちにきっとまた同じまんが道にもどるようがんばろうぜ

ってシーンがとても好き。才野も社交性が全然なくて最高なのだよな。そういった『まんが道』の知識がなくとも、住宅街の中に突如として現れる巨大建造物の非日常性は一見の価値ありです。駅に戻り、ギャラリーで購入したポストカードに娘が色ペンで書き殴り、東京と大阪のじいじとばあば、そして自分自身宛に葉書をしたため、“ドラえもんポスト”に投函した。車に乗り、高岡おとぎの森公園のドラえもん広場でちょっとだけ遊ぶ。娘はドラえもんと会えた感動以上に、たぶんはじめましてのドラミちゃんをいたく気に入り、手にタッチしたり、抱きついたりしていた。

娘はもっと遊びたいと抗議していたが、夕方になってきたので、急いで富山市へ向かう。ホテルにチェックイン。この日の宿はみんな大好き共立リゾートの「天然温泉劔の湯 御宿 野乃」である。野乃は館内を裸足で過ごせるので、小さい子に最適なのです。夜は近くのデパ地下で半額シールの貼られたお刺身や総菜を買ってホテルの部屋で食べた。娘は旅の特別感にはしゃいでいて、連れてきてよかったなと思う。大浴場では照明の薄暗さもあり、緊張していたらしい。わたしは一人でゆっくりと入らせてもらい、温泉、サウナ、水風呂のサイクルでロングドライブの疲れを癒し、就寝。朝5時起きだったので、家族全員ぐっすり眠った。


共立リゾートと言えば、朝食バイキングも良いのだ。海鮮丼、ホタルイカの沖漬け、海老フライなどを堪能。娘は四角いパンと苺が気にいったようで、おかわりを要求。ホテルをチェックアウトして富岩運河環水公園に行き、展望台に登る。立山連峰、運河、橋などが調和した実に美しい水辺の公園で、平日でもなかなかの賑わいだった。総曲輪周辺に戻り、街を散策。商店の入口から焙煎した珈琲のいい匂いが漂っている。「まめやコーヒー」だ。注文してから生豆を焙煎してくれるスタイルの名店で、数年前に仕事で富山に来た時に、匂いに誘われて珈琲を1杯飲んで、その美味しさやお店の雰囲気が忘れられなかった。2種類の豆を選び、200gずつ注文した。注文が混みあっていたようで1時間ほどかかるとのこと。商店街をブラブラしたかったのでちょうど良い。「石谷もちや 本店」でお昼ご飯の代わりに、団子を注文。あやめ団子、黒蜜きなこ、みたらしを頼んだのだけど、どれも抜群に美味しかった。団子の柔らかさ、香ばしさ、そして絶妙な甘み。いちご大福も有名らしく、昼前にすでに売り切れていた。団子は喉に詰まらせるかもしれないので、娘にはおはぎを買う。人生初のおはぎに目を丸くして「おいしー」と感激していた。「FOREMOST」と「古本ブックエンド」という古物の名店を覗き、ちょうど1時間。焙煎してもらった豆を受け取り、「道の駅 雨晴」に寄り、お土産を購入。道の駅としては小規模だけども新しくて綺麗。海岸越しに立山連峰を望めるばかりか、海岸線のすぐ横を氷見線が通過するのを眺められる素敵スポットであった。


帰りの運転はさすがにグッタリ。渋滞もあり旅の疲れからか、娘も「おりたいよー」とグズりはじめる。車内で流『みいつけた!』の最新アルバム『ファンキー』を流していたのだけど、その中の「ふたりのアルバム」というスイちゃんとコッシーのデュエット曲が娘は好きで、曲が終わるたびに「もう1回!」とリクエストがあり、エンドレスリピート。スイちゃんの不安定なボーカルの揺れがメロディに作用した素晴らしいギターポップソングなのだけど、エンドレスリピートの中で、改めて歌詞もじっくり聞いてみると、これがもうめちゃくちゃ名曲でボロボロと泣いてしまった。最初は晴れた日にお気に入りの公園にピクニックに出掛けて、レジャーシートを広げて寝ころぶといった他愛のない描写から始まるのだけども、曲が進むに連れ、明るい曲調の中にどこか切ないトーンが滲み始める。


そんななんでもない1日がとってもとってもだいすきよ
ねぇコッシー ずっとここに座ってたいの

今しかない君のこと ちょこっと座った君のこと
ねぇスイちゃん いつまでも忘れないよ

きっとビックリする出来事や楽しい未来がやってくる
ねぇ コッシー ずっと話をしようよ

いつか大きくなっても 今しかないこの瞬間を
ねぇスイちゃん 目を開けて思い切り笑おう
いつまでもアルバムに残そう

まるで最終回のような曲じゃないか。子育て中の親の心境を絶妙に切り取っていて、あまりに涙腺にくる。ぜんぶ忘れてしまうのかもしれないけども、今しかないこの瞬間を、ともに笑おう。届くかわからない手紙を投函し続けるのだ。