こだま和文『みちくさSPECIAL!』 in 六本木新世界
『みちくさSPECIAL!』 なるイベントを聞きに六本木新世界へ。出演はこだま和文、エマーソン北村、ザ・なつやすみバンドというラインナップ。スタートはexじゃがたら、MUTE BEATのエマーソン北村から。オルガンとリズムボックスで奏でられる柔らかい音色の心地よさに浸る。低音のダブに独特の鍵盤の音が跳ねていて、POPOとかレイ・ハラカミへの種もこの人が蒔いたものかしら、なんて想った。カクバリズムから今月末に出るというTUCKERとのスプリット7インチシングルも楽しみだ。
そして、ザ・なつやすみバンドは新曲2曲を含むセットリスト。その2曲が今までのザ・なつやすみバンドとはまた一味違うナンバーに仕上がっていて今後が楽しみ。複雑な構成をポップに響かせる2人のソングライターの才能はさすがの一言。楽曲の持っている視野が大きく広がっているような印象を受けた。エマーソン北村を交えての「なつやすみ(終)」とチエコビューティー「エンドオブザワールド」のカバーが素晴らしかった。複数の鍵盤とペダルスチールの複雑なアンサンブル。このラインナップにおけるザ・なつやすみバンドのフレッシュさは確かに、「今」で「未来」だ、とうれしくなりました。
日本レゲエ、ダブのパイオニアこだま和文のライブを初めて体感できた。こだま和文というと坊主にメガネのカジュアルで強面なおじさんというイメージだったのですが、出てきたのは長髪にハットに、ヨレヨレのスリーピースに杖という出で立ちで完全に彼岸の人のようだった。顔つきの印象も全然違っていた。トランペットの音色はさすがの説得力で凄まじい熱を感じたわけですが、この日のハイライトは彼のマイクパフォーマンスだったように思う。3.11以降の事、亡くなった人の事、家の事、街の事、「以前の当たり前」がいかに尊いものだったのか、というのを訥々と語る。とりたて新しい事を言っているわけではないのだけど、独特の語り口と演奏に乗ってくると、凄まじい説得力を帯びて言葉が迫ってくる。たくさん人が死んだし、これからも死んでいくのだ、という当たり前の事実を突き付けられた。後半のエマーソン北村を交えてのMUTE BEATナンバーのセッションは凄まじく、自分の中の時間の流れも巻き戻るような感覚で、記憶の中の過ぎ去っていった人々に再会してしまう。こだま和文の「Riddim(リディム)」の掛け声で流れるトラックには、もうこの世にはいない素晴らしいプレイヤー、江戸アケミ、篠田正己、松永孝義、今井秀行・・・らの演奏が刻まれている。まるで彼らが生きているかのように音楽は奏でられる。しかし、こだま和文はライブの最後には、その1人1人にしっかりと「バイバイ」を告げていった。そうあるべきなのだろう。
聞かせてよ あの歌 話してよ あの夢
楽しい時はすぐに 消えてしまうけれど
いつかは小さなひかりが見えるでしょう
すべてが終わるなんて けっして 言わないで
明るい朝が来たら ここでいつものように
歌いながら話しながら 少し歩きましょう
「END OF THE WORLD」
「歌詞を聞いて欲しい」と披露したこのナンバーに込められたアティチュードに感化されてしまった。しっとりと吹きあげた「ふるさと」、佐藤伸治以外のFISHMANSが演奏したトラックに乗せて歌うサッチモの「What a Wonderful World」の説得力にも震えた。
そして、ラストは日本のライブハウスシーンを見つめ続けたなんのこっちゃい西山氏に捧げたのだろうか、「江戸アケミとデュエットします」と、じゃがたらの「もうがまんできない」を披露。
そこにこだまの「なつやすみバンド!」という呼び声でステージに上がるザ・なつやすみバンドの面々。す、凄い。MC.sirafuがあの場でトランペットを吹いた、という事実にまず打ち震えたいわけなのですが、あそこにザ・なつやすみバンドの若い3人衆(しかも手ぶらで)が紛れ込んでいる画が何とも可笑しい。完全に時の迷子!所在なさげにリフレインを叫んでおりました。物怖じせず「心のもちようさ!」と歌っているみずきちゃん、出てきてからしばらくマイクの高さを調節し続ける中川さんの姿がロックシーンの歴史に新たに刻まれました。しかし、こだま和文とエマーソン北村にザ・なつやすみバンドをぶつけるブッキングはなんのこっちゃい西山さんにしかできない芸当だ。