髪を切るのは億劫だ。私の中で美容室もしくは床屋に行く、というのが”素敵な自分になること”とイコールで結びつかないからだろう。伸びすぎたから仕方なく切りに行く。それはもうほとんど排泄行為のようなものであって、お金を払ってかしこまってウンチをしているわけだから、完全に不条理の世界なのです。とりわけローティーンの頃などは自意識が捻じれ果てていたわけで、雑誌の切り抜きを持っていって「小池徹平くんみたいにしてください」なんてことは絶対に言えないし、カットに細かい注文をつけたりするなんていうのもありえない、鏡越しに美容師と目が合うのがたまらなく恥ずかしくて、寝たふりをする。すると、たいてい出来上がるのは切り過ぎた前髪、もしくは刈りあげられた襟足である。こういった思春期男子の床屋での葛藤を見事に掬い上げた作品として、Q.B.B.『中学生日記』、けらえいこ『あたしンち』2巻に収録されている「ユズヒコ床屋に行く話」あたりを挙げて語りたいのだけども、あまりに話が脱線していくので、それはまたの機会としよう。
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youtu.be
まりっかっと かっと おーらい
なんだか気分 ブランニューデイ
似合うだろうぉが
伊藤まりかっと!
あぁ、素晴らしい。伊藤万理華の表情の豊かな表現力と柔らかい身体性もいいし、ウィットに富みながらも脱力した楽曲もいい(演奏はもっと下手なほうが好ましい)。何より素晴らしいのが、カット、カットで切り刻み、不安定な自分を、世界を素敵に変えてしまうありようだ。ロケーションにしろ、ダンスにしろ、衣装にしろ、映像はどこをとってもオシャレなわけだけども、同時に、アナーキズムがほとばしっているように感じる。フリッパーズ・ギターというとびきりにかわいい男の子2人組に「バスルームで髪を切る100の方法」というナイスな曲があって、その中で
クソタレな気分蹴とばしたくて
髪を切るさ バスルームでひとりきり大暴れ
ピストルなら いつでもポケットの中にあるから
という風に歌っていたのを思い出す。女の子のみならず、イカしたやつらなら男の子でも、”髪を切る”のは革命行為であるらしい。排泄行為と革命行為であるから、その距離はなんと遠いことか。私だってアニエスを着て悪態つく青春を送りたかった。
さて、こちらの『伊藤まりかっと。』は乃木坂46のシングル『インフルエンサー』初回盤の特典映像であります。乃木坂46のシングル初回盤には個人PVという特典がありまして(ないこともある)、そこではメンバーが様々なクリエイターとがっぷり組んで自由に映像作品を発表しているのです。そんな個人PVの歴史の中においても、最高傑作と誉高いのが『まりっか'17』(2013)という作品だ。
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定期とケーキ まちがえた(べちゃ)
ささいなことは 気にしないない
という歌い出しから最後まで、何もかもが完璧。多くのサブカル出身組が伊藤万理華推しに流れていったのは想像に難くない。その伝説的『まりっか'17』と同じく山本真希(監督)×福島節(音楽)×菅尾なぎさ(振付)×伊藤万理華(主演)という布陣で久しぶりに発表されたのが『伊藤まりかっと。』なのである。ちなみに、この作品を機に交際を始めたという山本真希と福島節の2人は後に結婚。『伊藤まりかっと。』のクレジットでは福島真希である。まさに人生変えちゃう作品だったのですね。