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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

桜井玲香(乃木坂46)個人PV 松本壮史『アイラブユー』

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AKB48と異なり、専用の劇場というものを持たない乃木坂46は映像作品での表現に力を入れているグループだ。毎回発表されるシングルやカップリング曲のミュージックビデオも非常に高品質で素晴らしいのだが、今回は初回盤特典である「個人PV」について書かせて頂きます。メンバーにクリエイタ―が1人つき、彼女達を素材に5分程度の映像作品を自由に作り上げる、というものなのだけど、これがなかなか面白いのです。勿論、中には目も当てられない出来の作品もありますが、監督の作風とメンバーの個性が上手くマッチングした時、実に素晴らしい作品が誕生する。先日リリースされた『ハルジオンが咲く頃』の初回特典盤に収録されていた個人PVで言えば、松本壮史が監督を務めた「アイラブユー」が私の琴線を捉えた。乃木坂46の美しきポンコツキャプテンである桜井玲香を主演に収めた短編青春映画のようなおもむき。
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放課後、桜井玲香が忘れ物を取りに、教室に戻ってくる(忘れ物であるお弁当箱が机のサイドフックに掛けられているというディティールも最高)。すると男子生徒が窓際で何やら1人ブツブツとつぶやいている。

最後の恋にしてやるよ
してやるよ!してやるよ…してやるよ?

とても怪しい。気になった桜井は彼に話しかけてみる事にする。ここでの掛け合いが絶妙なので書き起こしてみたい。

桜井:山田、何してるの?
山田:別に
桜井:今、告白してたでしょ?
山田:うん、してたよ、練習だけど
桜井:誰に告白するの?
山田:それはまだ決めてない
桜井:え?なんで?
山田:好きな人ができたら完璧な告白をしたいの、俺は
桜井:何それ?
山田:完璧な告白の練習
桜井:あぁ・・そうですか

何気ない簡素な台詞のやり取りのようだけども、テンポや間がとても練られていて、言葉のセンスもさりげなく光る。質問ばかりする桜井がかわいいし、山田のキャラクターもお見事だ。する予定もない告白の練習。その目的のない透明な運動性に目頭が熱くなると言いますか。青春というのは、いつ来るやもわからぬ愛の告白の練習期間のようなものではないか!そして、何と言っても桜井玲香の声である。もしくはその呼吸である。元々、テレビのバラエティ番組においてもどこか耳につく素っ頓狂な声の持ち主だな、とは思っていたのですが、それが演技の世界においてはどうだろう。逸材がここにいた!という感じである。その声の歪さは、観る者を一瞬にして引きつける武器になる。彼女が一言発するだけでハッと画面に集中させられるような引力が生じるのだ。声質なんてものはもう天性のものであるのだが、不思議な事に、えてして一流の俳優・女優はそれを持ち合わせているものだ。表情、発話のタイミングも完璧かつ超絶キュートで一変で桜井玲香のファンになってしまった。



さて、PVの内容に戻ろう。冷やかすなら帰ってくれ、とばかりに山田に追い返されそうになるも、興味が尽きない桜井はこんな提案をする。

ねぇ、私に告白してみてよ

いい練習になるとでも思ったのか、山田もそれに妙に乗り気で「桜井さん、月が綺麗ですね」だとか「君の美しさで時が止まった」だのキザな台詞で告白を試みるも、桜井には全然響かない。本当に人を好きなった時の告白はそんな風にはできないのだという。

桜井:ねぇ、誰かを好きになったことある?
山田:ないよ
桜井:一度も?
山田:君は?
桜井:あるよ、当たり前じゃん

人を好きになったことも、その想いを告げたこともあるという桜井。告白マニアの山田は「告白した事ある人、初めて見た!」といった風にすっかり興奮してしまう。ここでやって見せてくれ、という山田のお願いを渋々と受ける桜井。かつて自分が行った告白、おそらく報われなかったその想いを蘇らせながら、告白(の練習)をする。

ずっと前から好きでした
私と付き合って下さい

練習だという事も忘れて「ハイ」と答えてしまう山田。どうやらすっかり桜井に恋に落ちてしまったらしい。そんな間抜けな山田に「なんでOKしてるの」と笑う桜井。いや、もうなんて美しいシーンだろうか。かつて誰かに抱いた想い、報われなかった、無駄だったと思われていた”好き”が、予想だにしない形で全く別の誰かの気持ちに火をつける。山田が桜井に抱いた想いもまた報われる事はないのかもしれない。しかし、それは無駄なものでもなんでもなく、この地上を彷徨い続け、ひょんな形でまた誰かの”好き”を呼び起こす事になるはずなのだ。まったく、だとしたら全ての”アイラブユー”は肯定されてしまうではないか。



と、ここまで読んでくだされば勘のよろしい方は、この『アイラブユー』という作品が、どこかデビュー当時の坂元裕二やロロの三浦直之の筆致を彷彿とさせる事に気付くだろう。

好きな人ができたら完璧な告白をしたいの、俺は

なんていう松本大洋『ピンポン』経由な台詞回しは、思わずロロの看板俳優である亀島一徳の声で再生されてしまう。三浦直之に乃木坂46の個人PVの監督を務めて欲しいと思っていた身としては、「やべー、完璧に先をこされた」という感じなのだけど、ロロ×乃木坂46は絶対に正解かと思われますので、引き続き期待したい。桜井玲香という女優の資質も、実に三浦直之的だし、坂元裕二的だ。坂元裕二がキャリア初期に、鈴木保奈美牧瀬里穂菅野美穂といったどこかネジが1本外れたようなフィーリングの女優を起用していた事も思い出す。



ラスト、山田が恋に落ちる瞬間に流れる音楽の素晴らしさもまたこの個人PVを特別なものにしている。いや、これほんとに今年聞いたポップソングの中で1番のキラーチューンなのでは、という感じ。歌い出し一発でノックアウトのエバーグリーンポップ。ラジオで流れようものなら問合せ殺到間違いなしの名曲でございます。歌うは鼻声男子的な意味でのポストオザケン最右翼の江本祐介である。正式リリース音源はまだないようなので、とりあえずSound Cloud(オザケン大瀧詠一のカバーもあり)をヘヴィロテしながらエンジョイミュージックで続報を待ちましょう。
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とにもかくにも、桜井玲香×松本壮史×江本祐介をマストチェックでお願い致します。