青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

山崎貴『寄生獣 完結編』

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前作で見られたパラサイト達の上昇性はなりを潜める。彼らの集まる場所は、市役所の地下だ。上昇するどころか、彼らは下に巣食う。バリアフリーの階段を、乳母車を押しながらゆっくりと降りてくる田宮涼子(深津絵里)の画が印象的。彼らの関心は”高さ”から”広さ”に変化している。パラサイトの居座る市役所や田宮涼子の住むマンションの不気味なまでの広大さ。キーパーソンである田宮涼子は劇中において、オープンテラスや動物園など、常に開けた場所に姿を現す。対して、前作において1人部屋とは思えぬような広さを感じた新一(染谷将太)の部屋が、まるで縮んでしまったかのように手狭に撮られている。倉森(大森南朋)の暮らすアパートも同様に狭苦しさが強調されている。また、前編の舞台となった新一と里美の学校の一部が”立入禁止”という形で封鎖されている点も見逃せないだろう。つまり、増えすぎた人間にとってこの地球は狭すぎる。その数を減らす、すなわち「地球を広く」しようというのがパラサイトなのだ。そんなパラサイトへの人間たちがとった対処法が、車両で封鎖した四角い空間に閉じ込める事であったのも示唆的だ。


パラサイトの関心が高さから広さに移った、と書いたが、前編で印象的だった高低差の演出は本作でも健在。五島(浅野忠信)のアクションはほぼ、高い場所からの下降にある。その最期もまた、焼却炉への落下である。そして、お互いを潰し合わんとする人間とパラサイトの共存を目指す田宮涼子の最期は、何かを超越したかのような一段高い場所に設定されている。前編での水族館→動物園、その一段高い場所という変容。そして、高い場所から見下ろす眼差しは、軽蔑のそれではなく、”慈悲”の念に満ちている。彼女の母性は、里美へ推移し、物語のラストにおいて、その母性を、高い場所から落とさんとする者との闘いに帰着する。


スケールとテーマの大きさが枷になったか、VFSやアクションも大袈裟で編集にもキレがない。しかし、ローケーション、画面設計、録音は緻密で、染谷将太深津絵里阿部サダヲ浅野忠信橋本愛岩井秀人といった役者陣の素晴らしさもまた異様にハイレベルだ。