青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

姫田真武(ひめだまなぶ)というへんてこてんさい

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姫田真武(ひめだまなぶ)という天才に出会ってしまった!何年も前から既に多くの賞を受賞しているアーティストでありますし、「何を今更・・・」と思われるかもしれないのですが、ちょっと興奮覚めやらぬ感じなので、大袈裟な身振り手振りにお付き合い願いたい。出会いは、映画館のスクリーンで流れていた「クルマごっこ」というアニメーションでした。その数分の作品に「て、天才過ぎ!」と椅子から転げ落ちんばかりに感銘を受けてしまったのだ。不可思議だけどもキャッチーな歌と底知れぬ不気味さと幼児的万能感に溢れるアニメーションが合わさる事で、何とも言えない中毒性を発する代物に仕上がっている。さっそくHPに飛び、彼の代表作『ようこそぼくです』というシリーズがまとめられたDVDを購入。「クルマごっこ」はこの『ようこそぼくです』の第3弾に所属する作品だったようだ。なんでも姫田真武はNHKおかあさんといっしょ』の「うたのおにいさん」に憧れて作品を製作しているのだという。学生時代の友人とのユニット、ズンマチャンゴで『おかあさんといっしょ』の楽曲のカバー動画を披露していたりする。『おかあさんといっしょ』楽曲の素晴らしさも今後研究していきたいのだけど、長くなってしまうので、こちらのシリーズについてはまだ今度。今回は『ようこそぼくで』シリーズについて。こちらはYouTubeでいくつかの作品を鑑賞できますので、まずご覧頂きたい。
youtu.be
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どうでしょう?全作品がマスターピース、音楽とアニメーションの融合、その極致と言っていいのではないでしょうか。まず、アニメーションの持つ運動性が抜群のオリジナリティを放っている。これがアニメを観る喜びだ!と叫びたい。言葉の面白さも圧倒的。「なにぬねのの」における

”ぬ”が踊り出す〜
”ぬ”が死ぬ
なぬ?
"ぬ"は死なぬ〜!

の一連の興奮よ!絵柄も手法もバリエーションに富んでいて、似た作品は1つもない。全体的にサイケでドラッギーなのだけど、どこまでポップで、全方位的に開けている。『おかあさんといっしょ』を指標にしているとのことだけども、いやこれはもう「みんなのうた」と言っていいだろう。本作の開け方から受ける興奮は、芝山努『映画ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』(1992)から接続しているように思う。
hiko1985.hatenablog.com
現在は、楽曲の著作権の問題でDVD化されていない為、VHSや稀にあるスクリーン上映でしか触れられぬ貴重作ですが、さくらももこが愛したディズニーの『ファンタジア』やTHE BEATLESの『イエローサブマリン』などのミュージカルアニメーションのカタルシスを、「ちびまる子」という日本の庶民の化身の生活に落とし込んだ大傑作だ(ちなみに楽曲には大瀧詠一細野晴臣、たま、などさくらももこの音楽愛がほとばしっているのもナイスなのです)。事実、姫田真武の「クルマごっこ」には、湯浅政明(『マインドゲーム』『ピンポン』)が演出を担当した「1969年のドラッグ・レース」へのオマージュカットも見受けられるのです。
https://youtu.be/6tye60cgY6kyoutu.be



姫田真武はアニメーション制作のみならず、楽曲制作に歌唱、更には出演までこなしている。それ故か、音とモーションが同時に生まれていくような快楽性がアニメーションに宿っている。なんでも、楽理的知識を持ち合わせていない姫田が口作曲した鼻歌のデモを松永亜沙梨という友人が編曲して、完成させているらしい。この楽曲の素晴らしさも大いなる魅力だ。コミックソングにフォークやテクノやパンクなどのエッセンスを現代的にまぶして、童謡や「みんなのうた」に匹敵するポピュラリティを獲得している。その手さばきには、すきすきスイッチ、たま、京浜兄弟社といった先人達の実践の系譜に、姫田真武×松永亜沙梨を置きたくなってしまう。
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松永亜沙梨の編曲センスは音色のチョイス、アレンジの幅、姫田真武の歌の発話やリズムの面白さへのトリートまで含め完璧。この人は一体何者なのだろう。彼女は数曲ほど作曲も手がけていて、例えば「タコスチュームでおどりませんか」という曲。
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名曲。それまでのコミックソング然とした佇まいからグッとポップスに寄った歌唱にハッとします。姫田真武が最も影響を受けたアーティストという”たま”における滝田曲のような不気味なメロウネス。歌詞もすんばらしい。

君の生の足 に似合う タコの足
着せてあげたい 着せてあげたい
僕はイカの足さ
<中略>
12本の足で 君と手とり足とり
僕の余った2本の手は
手持ち無沙汰で困るね
僕はだまって うしろで手をくもう


ランラララ おどりおどりおどって
ララランララ 足と足と手が
もつれて からんでも からまっても
うごけなくても おどれなくても
僕の余った両手でそっとほどこう

「タコの足とイカの足で踊り合う男女」というシュールな設定の中に、人と人が対峙していく上で、すれ違い、もつれあったその糸を、「僕がほどいてあげよう」という最高にロマンティックかつハートフルなフィーリングが隠されているではありませんか。これは泣ける。そう、姫田真武の歌は優しくてどうにも泣けてしまうのだ。そんな姫田のアティチュードが最も濃厚に表れ、故に1番の強度をもった名曲として仕上がっているのが、このエントリー名にもある「へんてこてんさい」だ。
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あああああ みんなてんさいだったんだね
もう なんでも できちゃう きがするよ


ギターがひけるよ クワガタが
ピアノもひけちゃう チューリップ
タイコだってたたけるさ カバが
うたもじょうずな トマト
でも でも できなくても どっちでもいいよね
できたら できないができないよ
できないと できないができるよ
だから やっぱり


あああああ みんなてんさいだったんだね
もう なんでも できちゃう きがするよ
ほら てだってたたけるよ
それ だれでもできることじゃないよ
だって ぼくらはてんさいだからね

できたら できないができないよ できないと できないができるよ!とはなんて温かなフィーリングだろう。みんな変だし、みんな天才。このシンプルなメッセージは、無数のカテゴライズの鎖に満ちた生き辛き世の中で実に有効だ。「もうなんでもできちゃうきがするよ」という万能館を全力で歌い上げる全人類必聴のスタンダードポップス。姫田真武という心優しき"へんてこてんさい"の今後の活動が楽しみでならない。