青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

鈴木おさむ『M 愛すべき人がいて』1話

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あの日も海を見ていたな

というドラマ冒頭での安斉かれんの発話。おそらく浜崎あゆみの鼻にかかった声色のモノマネなのだろうけど、あまりにも特別なヴォイスではないか。その不思議な響きは、

そこは巨大な宇宙船の中のようだった
たくさんの夢を乗せてる宇宙船

といったポエジーなモノローグを見事に乗りこなす。そして、「いつかこの船にダイヤの原石が必ず乗ってくる」というマサの台詞でもって、六本木ベルファインを”船”と捉えているアユとマサの強い結びつきが提示されている。


後に時代を代表する歌姫となるアユのヴォイスの持つ”秘密のヘルツ”は、今はまだ誰もが受信できるわけではない。たとえば、六本木ベルファインのフロアでの「わたしも連れてってください」というアユの声を、流川(北浜亜蓮)はなかなか聞き取ることができない。そこで登場するのが、時代の声に耳を澄ませ、巨大な成功を掴む男・マサ専務(三浦翔平)だ。

俺は神様なんかじゃねぇ
でもなぁ、神様からのメッセージは届く

という台詞にもあるように、彼はおそろしく優れた耳を持っている。そんな聴覚の長けたマサに、

わたしの目の代わりになるって言ってくれたよね

と眼帯をして視覚を要求する秘書(田中みな実)の恋は、どうしても分が悪い。マサは「思った通りだ 声質は悪くない」とアユのヴォイスの素質をかぎわけ、ダイヤの原石として彼女のプロデュースを決意する。このマサの聴覚を巡る1話において、なんと言っても感動的なのがラストシーンだろう。眼帯秘書の策略によって、マサとの待ち合わせ場所への入店を拒まれたアユ。店前で途方に暮れながらも歌い出す。壁の向こうにいるはずのたった1人に、想いを伝えるために。そして、おそろしく優れた聴覚でもって、マサはさまざまな障壁越しの歌声をしっかりとキャッチしてしまう。アユはマサからの「元気か?」という電話を神様からのメッセージと捉え、マサはアユの遠くから響く歌声を神様のメッセージとして受信する。互いを神聖化していく破滅型の恋物語の始まりだ!


大映ドラマへのオマージュはさんざん言及されているが、『半沢直樹』をはじめとする池井戸潤ドラマのグルーヴもあるし、安斉かれんは往年の浅野温子のエキセントリックさとトレンディを香わせ、三浦翔平の演技はところどころに木村(拓哉)の影響を濃厚に感じさせる。とにかくもうテレビドラマの記憶のごった煮。お腹を壊すこと必至だ。とくに、マサの木村っぷりはもう枚挙に暇がないので、ぜひ皆さんで探してみてください。わたしのお気に入りは、輝楽天明に「僕の時代を見抜くセンス、インスピレーション、舐めてる人?」と聞かれて、「いや、そういうわけじゃなくて」と言いながら目をつむってコメ噛みをかく木村なマサです。