青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

川島小鳥『明星』

行った事もない台湾(中華民国)というお隣の国に対して、僕はどういうわけか異常なまでに憧れと親しみを抱いている。アジア諸国の中において日本との歴史的なしがらみを乗り越えている印象が強いのも一因ではあるだろう。しかし、何と言っても、中国、アメリカ、日本の影響がおり混ざったハイブリットな文化的成熟、経済的発展、それらが”南の島”という響きから覚えるトロピカル幻想の上に成り立っている感じにとても魅かれるのだ。よく異国からの旅から帰ってきた人が「あそこが俺の本当に生きていく場所って感じ」みたいな事を興奮しながら言うわけですが、僕にとってのそれは台湾なんではないか!なんて大袈裟に想う。しかし、なんせ行った事がない。もう本当に無根拠に桃源郷みたいなイメージを抱いている。例えば、こんな感じに。

ここにいればすべてうまく行くとか
そんなふうに すら思えてくるのさ
普段くらしてると見逃しそうな 事も色々わかるようになった
はっぱの色 それらの形 ひとつひとつに表情があり
ボンヤリながめているだけでも 笑いがこみあげてくるよ
地平線の意味
ありとあらゆる単位
空気の密度 火そのもの
しあわせの構造   音
うわの空   石のドラマ
正気の沙汰   記憶のかなた
諸悪の根源   点と線
原点   じゃんけん   人間
それら全てがついさっき繋がった
ぼくはすべてを把握した
ここにこなけりゃぼくは一生 わからずじまいで過ごしていたよ
あんがい桃源郷なんてのは ここのことかなってちょっと思った


スチャダラパー「彼方からの手紙」


川島小鳥写真集 明星

川島小鳥写真集 明星

川島小鳥による台湾を被写体とした『明星』という作品がある。写真界の芥川賞とも呼ばれる木村伊兵衛写真賞も受賞しており、言うまでもないのですが、大傑作である(装丁も凄まじいのですが、それはまたどこか別の所で調べてみて下さい)。台湾という国の持つ輝きが、少年や少女達の”青春”に置き換えて撮られて、まさに青春映画のような煌めきを捉えた写真集だ。確かに台湾は国家としての年齢はまだまだ若い。対して、老衰でボケが始まってしまったかのような日本。私達が失ってしまった煌めきのようなものが、台湾という国にあるように思えてならない。川島小鳥の持ち味である、強烈なノスタルジーが『明星』においても発揮されていて、映されている場所や人、その活き活きとした在り方が、かつて知ったるものとして観る者の胸を打つ。と、同時に、前作『未来ちゃん』
未来ちゃん

未来ちゃん

という作品がそうであったように、これは”かつて”であるし”これから”であるかもしれない、というポジティブなフィーリングがある。ここで指す"これ"というのは”僕が僕らしくいられる場所”と置き換えたい。


この作品、まずページをめくると傘を持って雨に打たれる少女の姿がある。台湾というのは非常に雨のよく降る地域であるらしい。

雨のよく振るこの星では 神様を待つこの場所では

メロディと言葉が浮かんでくる。そう、天候が不安定な場所での撮影に、きっと川島小鳥は”天気読み”しながら挑んでいてに違いないのです。雨以上に印象的なのは、南国の太陽の光。眩しいとばかりに手で目を覆う少年や少女達。
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銀杏BOYZの2014年のアルバム『光のなかに立っていてね』のジャケットもこの『明星』からのカットなのだが、ここはやっぱり「まぶしげにきっと彼女はまぶたを閉じて」と小沢健二から引用しようではないか。先と同じく「天気読み」だ。このラインが端的に『明星』という作品を表しているように思えてならないのだ。

星座から遠く離れていって
景色が変わらなくなるなら
ねえ 本当は何か本当があるはず
明りをつけて
眩しがるまばたきのような
鮮やかなフレーズを誰か叫んでいる


小沢健二「天気読み」

かつて小沢健二がつむいでいた“本当のこと”或いは”鮮やかなフレーズ”を川島小鳥というアーティストもまた現代において放ち続けている。