青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

にゃんこスター「リズム縄跳び」の衝撃

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かまいたちさらば青春の光の熱戦は実に見応えがあった。さらば青春の光の森田にはブルースがある。売れて欲しいけど、売れない悲哀がより彼らをおもしろくしていきそうで、複雑な心持ちだ。しかし、あれだけ売れっ子であるアンガールズがルーザーの視点を持ち続けているのにはグッときてしまうではないか。2本目の「こんな人間がいたことを誰かに知って欲しかったんだよぉ」という叫びの切実さは、忘れ難いものがある。ジャングルポケットは昨年よりグッと上質なコントを披露していたし、点数は伸びなかった組も軒並みおもしろかった。個人的にゾフィーとアキナのコントはとても好き。しかし、何はなくとも『キングオブコント2017』の印象は”にゃんこスター”という男女コンビであった。ラディカルでプリミティブで、それでいて抜群にポップな超新星。ずっとこんな新しい衝撃を待っていた、という気分です。コンビ名からルックスや衣装まで全部いい。私たちの”サブカル”という概念が具現化したようなアンゴラ村長のルックスにまずもってグッと来てしまう。おそらくカルチャーへの造詣が深い方なのだろうけども、そういった趣向をこれみよがしにネタに落とし込むわけでないのがいい。コントで使用する楽曲が戸川純などでなく、あくまで大塚愛の「さくらんぼ」というのが賢いし、開けている。あれでPerfume椎名林檎あたりの楽曲を使っていたら、どっちらけなのである。


スーパー三助もアンゴラ村長もどこかで見たことがある”誰かの偽者”のようなルックス*1なのだけども、コントそのものは唯一無二であるのがクールだ。お笑いを日常的に観ている人ほど、「キングオブコントの決勝であの定石外れのコントを披露する」という現象自体がたまらなくおもしろく感じてしまうだろう。しかし、そういった外枠の力だけに頼ったコントでは決してない。観れば観るほどに、よく練られた一品であるように思えた。
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スーパー三助演じる縄跳び大好き少年が「縄跳びって最高だよね」と大声で叫びながら登場し、リズム縄跳びの発表会の開催に対して、「ボクが観なきゃ誰が観るってんだい!」と、意気揚々と競技の行方に目をこらす。このコントの導入は、『キングオブコント』という大会と、その行方をテレビ越しに見守るお笑い好きの視聴者との関係性がそのままトレースされていやしないか。演目を披露するアンゴラ村長の登場とその華麗な縄跳びさばきに「かわいらしい子が出てきましたよ」「上手だねぇ」と感想を漏らすスーパー三助の存在は、我々視聴者そのものだ。楽曲がサビを迎えるやいなや縄跳びを使わず踊り出すというボケにも同じようにツッコみ、戸惑う。

飛ばなーーーい!
サビで縄跳び、飛ばないですかー!!
なんで飛ばないのよ
サビでそれやったらいいじゃない・・・

その後もスーパー三助は、「リズム縄跳び」というコントに対して私たちが抱く感想をそのまま大声で代弁してくれる。気が付けば、アンゴラ村長の変なダンスにすっかり魅せられてしまった私たちとスーパー三助が、完全に共鳴する瞬間が抜群に心地いい。

あれ!?この動き求めている俺がいる
この動きが頭から離れない
サビが来るっ!
まさか!!?
待ってましたぁ!!!

ここで、それまで”オイラ”や”ボク”といった一人称を使い、少年を演じていたスーパー三助が突如として、”俺”という人称でもって素に戻ったようなそぶりをとるのも見逃せない。あの瞬間のスーパー三助は、完全にコント内の役柄を捨て、”私たち(=視聴者)”と同化しているのだ。


にゃんこスターの「リズム縄跳び」というコントに激しく心動かされてしまうのは、スーパー三助を通して、「価値観の転覆」という革命を、私たちも同時に体験してしまうからに他なるまい。

僕の中のお笑いの方程式がグワーンって変えられましたね


バイきんぐ小峠

これはお笑い界変わる
ちょっと長目にお笑いブーム続いてましたけど
やつらがキングになったらちょっと次の局面に入る気がする


伊集院光

という前振りVTRのコメントにあるように、にゃんこスターのコントは革命である。革命だなんてロッキングオン社のような煽りはできれば使いたくないものだが、実際に革命なのだから仕方あるまい。2本目の「リズムフラフープ」では、神様すらにゃんこスターに翻るのだから。まぁ、確かに荒唐無稽。一部の視聴者からは「お遊戯会かよ」という批判が大量に発生しているようだ。しかし、意識の革命のようなものが、お遊戯会のようにシンプルに楽しく表現されてしまっている、それが何より凄い。「大声を上げているだけ」のような批判は頷けない。スーパー三助の声色やイントネーションの使い分けは、それだけで彼が技巧者であることが窺える。ダンス中のアンゴラ村長の表情なども「それしかない!」というような完璧なおもしろさだし、そもそも縄跳びとフラフープがむちゃくちゃ上手いのすらおもしろい。*2

あぁ!!伝説の縄跳びだっ!
選ばれるわけないよ
選ばれないと抜けないけど
選ばれるわけないっ!

という伝説の縄跳びを巡るくだりも、偶然なのかもしれないが『キングオブコント』というシステムと同調してしまっている。スッポリと抜ける伝説の縄跳び。にゃんこスターは”選ばれた”にも関わらず、それに執着しない。ファイナルラウンドでも1本目と同じネタを連続で演じるという愚行(いや、英断か)に出る。

こっちのほうがいいよね
こっちのほうがいいよ
伝説の縄跳びなんて捨てちゃえよ
こっちでいこう こっちで
最高だよこの動き

「いや、単に他にネタがなかっただけだろ!」というツッコミはさておき。「僕たちのコンビ名はにゃんこスターでしたー」というコントの締めにひどく感動してしまうのは常識の破壊という以外に何か要因がある気がするのだけども、言語化できていない。しばらくの間は頭の中はにゃんこスターでいっぱいになってしまいそうである。

*1:スーパー三助はサカナクション山口とナイツ土屋を足して割ったような、アンゴラ村長は地下アイドルの姫乃たま

*2:あの緊張の舞台で一度もミスらないのが凄いし、おもしろい。