青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

キングオブコント2016

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キングオブコント2016』観ました。決勝進出10組を決定するまでの審査と、決勝の舞台となるスタジオ審査(と客席)の間にあまりに大きな捻じれが発生していて、昨年同様どうにもモヤモヤしてしまったのが正直なところ。そこに隔たりのなかった2014年までの『キングオブコント』が奇跡のようなものであったのだ、と今はただなつかしく想います。あのコント内の出来事にいちいち悲鳴を上げる決勝の観覧客ってあれ本当に募集で来た人なんですかね。今まで無菌培養室で育てられていて、あの日初めて部屋の外に出されて、コントというもの初体験した人達じゃないんですよね。まぁでも『じわじわチャップリン』(テレビ東京)のお客さんも悲鳴上げてるしなぁ。今どきの女の子は悲鳴上げてなんぼなのかもしれませんね。まぁそれは置いておいて、少なくともやめて欲しいのは「(客席に)ウケてたからねぇ」「ウケてなかったねぇ」みたいな審査員のコメントだ。コント界の権威の方々があんな事言ったら、それが審査の点数に反映していようがなかろうが、芸人達はあの客層に向けたコントしか作れなくなってしまいそうじゃないですか。ダーリンズの童貞コントみたいなの、来年からなくなっちゃったら嫌だな。


「何で点数低いんだ!!」みたいな憤りは昨年で枯れたので、もうないです。でも、しずるのネタは素晴らしかったですよね。池田はいつだって最高なんだ。ラブレターズのバカネタは楽しかった。塚本も一緒になって踊る所が好き。後、野球が好き過ぎでかわいい(牽制死なんてルール誰もが知っているわけじゃない)。ジグザグジギーはこの間の単独でもっといいコントあった気がする(「プロポーズ」とか)。もっともっと面白いコンビなんだよなぁ。そして、やっぱり私はかもめんたるのコントが好きだ。例えば1本目で言うと、”念”を送れるようになった理由みたいなものにコントの時間を一切省かない所が好き。理由から解放される事で、ネタ内における「念が送られてきた」というおかしな状況が振動していく。理由や説明に時間を省かず、ひたすら設定の細部を豊かにする事で勝負していて、そのセンスがとにかくたまりませんでした。時間差で動くとか、「糸の切れた凧」とか。狭い車内でひたすら冗談を言って若者を追い込むドライバーという2本目でも、「なんでこんなことやってるんですか?」という槇尾の問いに、岩崎は「なんでだろうね。わけもないのにやってしまうことを人は性癖と呼ぶよ」と返すわけで、やはりこのおかしな状況に対する理由の不透明さが、コント内で巻き起こる現象、ひいては「冗談ドンブリ」をたまらなく魅力的なものにしていると思うのだ。ホラー映画において、幽霊というのは、現れる理由が明らかにならない方が怖い、というのと同じ構造だ。


しかし、残念なことに、その「理由が明らかにされない(=ドラマが展開していかない)」というのが、かもめんたるのコントの点数が伸びなかった理由のようにも思える。”茄子持ち上げる時だけ左効き”の理由が明かされない(だがひたすらにそのおかしさが振動し続けた)、ななまがりのコントも「もうひとまがり(もうひと展開)欲しかった」と低評価であった。しずるのコントはドラマ仕立てであったが、点は伸びず。誰もいないとわかっている廃ビルで拳銃をぶっ放つ刑事2人、というその理由のないアクションがバカバカしく躍動していたのだが。あのコントが、審査員に「ショート映画のよう」とコメントされたのが印象的だった。“お笑い”ではない、という事か。


かまいたちの1本目なども、かもめんたるやななまがりと同様に、不条理の理由が説明されないコントなのだが、状況の説明やフリとボケが丁寧に行われていたのが、得点の伸びた要因か。”お笑い”というのは誰が観てもわかりやすいものでなくてはならない、というのが昨年からの『キングオブコント』である。昨年同様に高評価を得たジャングルポケットもとてもわかりやすいコントを披露してくれるトリオだ。トイレの個室に3人の男がひしめき合う、というはちゃめちゃな状況に対して、終盤で「サプライズだった」という理由が示される。丁寧で実にわかりやすい。納得できてしまう。しかし、そうしてしまう事で、あそこで巻き起こっていた不可思議な現象の全てに説明がついてしまい、途端に全てが色褪せてしまうようにも感じた。何がおもしろいか、ってほんと難しい話ですね。でも、番組の序盤に放送していた過去の面白ネタアーカイブは本当に全部おもしろかったです。ライスのお二人、おめでとうございます!