青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『キングオブコント2021』&『空気階段の踊り場』

f:id:hiko1985:20211008001737j:plain

「これが“寂しい”って感情かなぁ?」
「どうしよう…愛おしい」


蛙亭

「やぁ…好きだなぁ」
「ちょっとぉ、愛が止まらないなぁ」


男性ブランコ

「ここになんかある…胸が温かい」
「この気持ちはなんだろう?」


ザ・マミィ

初出場のコント師たちが揃って、“心”についてのコントで人間愛を叫び、その果てに「生まれてきた意味がありますね」と漏らした空気階段が優勝を飾る。その美しい連なりに、『キングオブコント2021』という大会を通して1つの作品なのだという感触を抱かせた(そういうのを抜きにしてもシンプルにネタが粒揃いで史上最高の大会でした)。彼らがコントで表現してみせた愛というは、 “異質さ”を受け入れるという態度だろう。酒焼けダミ声の関西弁からホムンクルス・・・とその異質さに幅はあるものの、コントの登場人物たちはその“変なところ”に愛おしさを見出していく。優れたエンターテインメントというのは時代や社会と密接に結びつくものだが、まさに多様性が声高に叫ばれる時代が要請したコントという趣である。男性ブランコの一本目の構成と演出の見事さに1番笑いました。あと、蛙亭の「オムライスを食べたいから」という脱走劇に宿る、“この世の理から逸脱した詩情”に痺れてしまったのだけど、そこは来年のこの時期に書くことができたらうれしいなと思う。


今大会の主役はもちろん空気階段。異質さ(多様性)と愛のコント大会の中で、空気階段が突出していたのは、時代とか社会がどうこうではなく、「世界とははなからそういうものでしょう?」というような態度ではないだろうか。SMクラブで変態プレイに勤しむ公務員はいる。いや、“いて”いいのだ。だから、空気階段のコントでは当たり前のように“いる”。彼らはブリーフ一丁の姿でもって、当然のように正義感に駆られ、人命救助に勤しむ。その状況に対するツッコミはなく、まさに活劇としか呼びようのない肉体の躍動でもって、ただただ人間が持ち合わせる多面性を舞台上に刻みこんでいく。笑いと感動を同時に引き起こす、まさに歴代最高得点にふさわしいコントであった。


空気階段はいつだって、この歪で複雑な世界をまるごと描こうとしている。本当に美しいものは、ノイズの中から浮かび上がる、というのが彼らの一貫した態度だ。であるから、感動的な人命救助物語の舞台設定はSM風俗であるし、甘酸っぱいような恋に落ちる喜びを描く際も、社会から見捨てられたようなアウトサイダー達の蠢きが必ずや同時に描写される。優勝報告のラジオ『空気階段の踊り場』の生放送では、これまでの苦労や喜びを分かち合う感動的な演出の中に、鈴木もぐらが舞台上でウンコを漏らした話を混ぜ込んでみせるのだ。


昨年の『キングオブコント』直後の放送と同様に、もぐらによる

僕たちはひとりじゃないよ!
ひとりじゃない
俺とお前はひとりじゃない

という口上によって登場するのがサプライズゲストである銀杏BOYZ峯田和伸。耳をつんざくような轟音の中で、恋と退屈を美しいメロディで歌い、世界をまるごと鳴らそうとしてきたミュージシャンだ。空気階段には、銀杏BOYZの音楽が息づいている。峯田が弾き語りで「エンジェルベイビー」を歌いだす。

Hello my friend
君と僕なら永遠に無敵さ
さようなら 美しき傷だらけの青春に


銀杏BOYZ「エンジェルベイビー」

まさにドキュメンタリーラジオと呼ばれる『空気階段の踊り場』青春篇の完璧なピリオドだ。さようなら、空気階段の美しき傷だらけの青春。そして、2人はこれからも永遠に無敵さ。