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ジェームズ・ガン『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー: リミックス』

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もう本当に大好き!! 前作は人が死にまくるわりに、やたらとウエットなのがやや気になるところでしたが、このvol.2に関してはもはやそこがいいというか、素直に泣かされてしまった。映画(に限らず漫画やアニメも)のヒーロー/ヒロインで両親が健在なケースというのは非常に稀で、ヒーローたちはすべからく”孤児”だ。仮に健在であるならば、倒す宿命にある。今作のヴィランは、クイルの実の父であるエゴであり、シリーズを通してのラスボスと思われるサノスはガモーラとネビュラの(義理の)父。スペースオペラ親子喧嘩である。その元祖と言えば『スター・ウォーズ』シリーズなわけで、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』も当然その流れを汲んでいるわけですが、このままシリーズがずっと続いていったら、20年後の子どもたちにとっては、その地位が逆転している可能性すらあるのではないだろうか。まさに親殺し!と、怒られそうなことを書いてしまうくらいに、ジャームズ・ガンはガーディアンズの面々にあまりに瑞々しい命を吹き込んでおり、ミラノ号のコクピットの賑やかさは眩しく、とりわけクリス・プラット演じるピーター・クィルの”良さ”はハリソン・フォードハン・ソロ級なのです。


さて、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』と言えば音楽でして、気になるのは選曲なのですが、vol.1に負けず劣らず最高。まさかのGeorge Harrison使いとEDのCheap Trickに泣く。70年代のヒットソング縛りでジャンルは幅広くクロスオーバーしているのですが、不思議とトーンが統一されていて、スムースに響く。オープニングのタイトルクレジット時におけるガーディアンズと宇宙怪獣との戦いにおいて、まず目を引くのはその長回しのカメラワークと放っておかれる痛快なアクションなのだが、真に注目すべきは、まさにその音楽だ。クイルご自慢の”Awesome MIX”カセットテープが、ヘッドフォンではくスピーカーによって、つまり閉じた状態から大きく広く鳴らされている点にある。クイルの使い古したヘッドフォンは中盤でエゴによって破壊されてしまい、後にイヤフォンが代用される。右耳と左耳の二股に分かれたそれは、クイルとベビー・グルートの耳に同時に音楽を流し込む。音楽と同様に、クイルの孤独は、ガーディアンズの間で分かち合われる。同じ孤独を纏った面々は、血の繋がりを超えた新しい家族の在り方を提示していく。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』という作品が強烈に我々の心を捉えるのは、例えば『ワンピース』のような血の滾る少年ジャンプ的冒険忌憚でありながらも、この時代を的確に捉えたヒューマンドラマでもあるからだろう。その筆致は坂元裕二是枝裕和といった作家の血と家族を巡るコミュニティを描いた作品群とさえ共鳴している(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は宇宙版『カルテット』である、という暴論を吐いてしまってもいい)。


冒頭のアクションシーンに話を戻すと、死闘を繰り広げるガーディアンズを差し置き、カメラはベビー・グルートのダンス(Electric Light OrchestraMr. Blue Sky」での!)を捉え続ける。家族における”子ども”としてメンバーの庇護を受け、何からも阻害されずにステップを刻むその姿は、キュートを通りこして感動的ですらある。少し抜けたところのあるドラッグスが、誘拐犯であり育ての親であるヨンドゥを、クイルの実の父親だと勘違いしていた挿話も素晴らしい。

(クイルは肌色だけども)
ヨンドゥは肌が青いじゃないか!!

というツッコミにも釈然としない表情を浮かべるドラッグスの態度にこそ、これからの時代を生き抜くヒントが忍ばせてあるように思う。


最後に、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』はギャグがストーリーの邪魔をしている、という批評を読んだのだけど、果たしてそうだろうか。ウィットに富んだ切り返しを乱発する『アベンジャーズ』シリーズにはそういった感触を確かに抱いたのだが、この『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』におけるギャグの”照れ”というのは、作品全体を貫くフィーリングであるように思う。照れ”は、クイルとロケットを最高のバディとして演出し、ネビュラを神出鬼没のジョーカーとさせ、クイルとガモーラのあらかじめ決められたロマンスを延長させる。ロケットにソヴリン人のバッテリーを盗ませ、事態を最悪に深刻化にさせたのもやはり”照れ”であるし、それは何やら次作にまで続く因縁になるようだ。つまり、”照れ”からくる”素直になれなさ”こそが『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の物語を転がし、キャラクターを輝かせるのであーる。



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