ザ・ダファー・ブラザーズ『ストレンジャー・シングス』シーズン1
Netflix*1オリジナル作品であるテレビドラマシリーズ『ストレンジャー・シングス』を貴方はもう観たか。こんなにも物語に胸を震わせたのはいつ以来だろう。全8話を観終えた時は大声で叫び出したい気持ちを抑えられない程だった。なんたって、スティーブン・スピルバーグの輝かしいフィルモグラフィー、藤子・F・不二雄と芝山努が残したドラえもん映画の傑作『のび太の魔界大冒険』『のび太と鉄人兵団』『のび太のパラレル西遊記』、小沢健二が2016年に披露したあの鮮烈な新曲群、もしくはceroが3枚のアルバムで示したイマジナティブな世界観、そういった私の心のベストテンに居座り続けていくであろうポップカルチャーのきらめきが1本の太い線として繋がるような体験だったのだから。
たくましい想像力によって平行世界の君は勇敢な魔法使いかもしれない。でも、それは当然、邪悪な怪物を生み出すという事でもあるんだ。僕らが大人になる為に必要な責任というのは、やっかいな事に想像力にまで及ぶ。でも君達がこの冒険で見せた知恵と勇気は多くの子ども達に受け継がれていく。それはもう絶対に。
胸の震えを簡単にレジュメしてしまえば、こんな感じだろうか。とにかく、モチーフからフィーリングまで全てがパーフェクト。今期No.1ムービー!と何の衒いもなく断言してしまいたい。この作品を鑑賞しておきながら、「テレビドラマだから」という理由でこの作品を“2016 BEST MOVIE”に選出しない批評家などがいるものなら、まったくその勇気には感服してしまうだろうな。少年がカメラを掲げ、暗闇の寄る辺なさの中で光や音*2の交感が描かれる(魔法的!!)今作が、映画でないならば、何が映画というのか。
『E.T.』『未知との遭遇』『STAR WARS』」『グーニーズ』『スタンド・バイ・ミー』『ポルターガイスト』『キャリー』『AKIRA』 もしくは80年代を彩ったジョン・ヒューズの青春映画etc・・・数々のマスターピースへのオマージュが捧げられている。とりわけスピルバーグへのそれは強烈で、宅配ピザを食べながらゲームに興じる少年達が家を飛び出しBMXで住宅街を疾走、その様をクレーンで上昇したカメラがなめらかに捉える、といったような無邪気なまでのオマージュには一瞬怯んでしまうほどだ。若き登場人物達は当然のように父親の愛情を欠き、大人達はみな混乱している。彼らのまるで孤児(orphans)であるかのような埋めがたい孤独、その映し鏡のような暗闇に”怪物”は潜む。ときに暗闇から強烈な光を放つ、その誘惑に抗えるわけもなく、冒険は始まっていく。まっことに正統なスピルバーグの後継者である。今作のとりわけ深いスピルバーグへのリスペクトは、例えばジョイスとエルを、ホッパー警部とエルもしくはウィルを、あたかも本当の親子であるかのように映すシークエンスに見てとれるだろう。すなわち他者を強引なまでに結びつけてしまう所作だ。校内ヒエラルキーにおいて、別の階層に属するナンシーとジョナサンはどうだったか。道端で出会っただけのマイクとエルの2人は、わずか数日の刹那的な冒険の間に、友だちのように、兄妹のように、そして恋人のように、と移り変わる。ほんの一瞬の交感が彼らを深く結びつけ、そして離れていく。”孤独な私”から”孤独な私達”へ、このささやかな跳躍こそ、スピルバーグが80年代に『E.T.』や『未知との遭遇』といったフィルムで示した希望であり、『ストレンジャー・シングス』が受け継いだ魂だ。
しかし、本作を単なるノスタルジーとして消費するのは大間違い。サンプリングが単なるギミックに陥らず、新たな物語の血肉として見事に機能させる。音楽の世界では70年代にヒップホップという形でとうに到達していたその手法を、未だにビックバジェットのリメイクやリブートを繰り返して延命し続ける映画界がついにものにした、そんな暴言を吐いてしまいたい。制作のメインを任されたザ・ダファー・ブラザーズは1984年生まれの双子の兄弟、若干32歳である。(個人的にも同世代なのだが)過去の膨大で偉大なる遺産の前にただただ茫然と立ち尽くすばかりだった世代と言っていいだろう。しかし、やはり音楽は偉大で、2013年にDAFT PUNKがリリースしたアルバムの”Random Access Memories”という言葉は我々に大きな勇気を与えた。もっと身近な所で言えば、東京を中心に活動するバンドceroは
夜盗のようにぼくらは遊ぶ
cero「あののか」
と歌い、道を開いた。墓を暴き、死体を繋ぎ合わせよう。そう、フランケンシュタイン博士のように。そして、バックトゥザフューチャー。未来はいつだって輝かしい過去の中にあるのだから。
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