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青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

小沢健二『魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ』~カルトヒーローのご帰還~

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小沢健二のライブツアー『魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ』のZEPP TOKYOでの2日目を目撃してきました。むちゃくちゃ最高でした…まさかの。小沢健二は不気味なキスを振り撒く巨大なポップスターでした。宇多田ヒカルの「嵐の女神」じゃないんですけど、「あなたには敵わない」です。私、元々はあらゆる表現をオザケンマナーで噛み砕んとしてしまう小沢健二原理主義者だったわけですが、年齢を重ねるごとに気持ちは離れ出し、世に言うところの2016年1月20日の「渋谷クアトロ事変」でもって完全に醒めたと言いますか、「いい加減大人になってくれよ、ぼっちゃん」という感じで、「おぉ、これがオイディプス状態ってやつか」と精神的親殺しの神話を気取っていた次第。なので今回のツアーも申し込みすらしていなかったものの、チケットが定価割れしている*1という現状を聞きつけ、親の死に目に駆けつける気持ちで、参加を決意したのです。以下、内容に触れていますので、気にならない方だけお読みください。



とかなんとか言いつつも、実際の心境はかなりワクワクしてわけですが、会場に着いて私の中で小沢へのヘイト感情は再び高まりをみせる。物販のダサさはさておき、「魔法的電子回路」とかいう普通のアーティストなら無料で配るようなちゃちい玩具を500円で売りつける商魂っぷりには呆れかえるというか、「ロバを飼う方が、本当の進んだテクノロジーじゃないのかな?」とかなんとか。「よし、殺すぞ」という気持ちと共にライブがスタートしたわけですが、結果殺されました。いや、「昨日と今日」での幕が下がったままコーラス部分だけライトアップしてシルエットを透かすという演出もゲロゲロだったんですけども、歌声は6年前の「ひふみよツアー」以上に”オザケン”、HALCA(HALCALI)のコーラスとダンスもはまっている。演奏はタイトだし、音響も各楽器がクリアに分離。何より小沢健二の美しく熱いギタープレイが素晴らしいではないか。「フクロウの声が聞こえる」はエンデ『モモ』の世界観の歌詞が鈴木慶一経由でスカートと結びつくようなミドルチューン、そっからはもうずっと良かったですね。「ホテルと嵐」と「大人になれば」という『球体の奏でる音楽』からのナンバーに狂喜し、ceroへのアンサーかという「1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)」の披露に震え、「それはちょっと」の完璧なポップソングで泣く。それでまぁ、新曲ですよね。「フクロウの声が聞こえる」以外はソウル歌謡をベースとしたオーソドックスな”オザケン”サウンドを踏襲したロックとディスコを結ぶフューチャーレトロサウンド。

この街の大衆音楽の一部であることを、誇りに思います

というひふみよツアーでのMCに引っ張られるように、歌謡曲テイストが思いのほか強いのが堪らない。更に歌詞が凄まじいのだ。小沢健二という気が触れた天才の頭の中を開いて見せつけられているような感覚。体裁を整えられていない思考がまるで譜割りを意識していないかのように飛び交う。あまりに不格好なのだけど、言葉が放射線を描きながら世界を拡張していくようなポジティブさがあそこにはあった。リリックの細部に目をこらすと、目黒や空港や高速道路といったかつてのオザケンマナーを彷彿させる単語が点在しつつも、とりわけ印象的なのは「怪獣」「鮫」「超空間」「宇宙の力」「スーパーヒーロー」「超越者」だとかどこかチャイルディッシュなフレーズ。それらはノスタルジーというよりも未来に向けたまなざしだ。”父”となった小沢健二が、後世に何か大きなものを伝えようとしてるのが感じとれる。アメリカ文学とか童話の教養をベースに感じつつも、この感触に1番近いのはスピルバーグ映画ではないだろうか。彼の映画の子ども達が、”うっかりして甘いお茶なんて飲んだり カッコつけてピアノなんか聴いてみたり”した後、大人になって物語っているような質感。荒唐無稽な虚構の中から"本当のこと"を探し当てること。2016年の小沢健二の音楽から、まるでハリウッド映画のような、何とかして良き方向に物事を推し進めようとする力のようなものを感じ取る事ができたのだ。



いやー色々書いたものの「オザケン、イカれてるな!!」というのが1番の感想か。「流動体について」(超名曲)とか「超越者たち」というタイトルもどう考えてもやばいし、50歳手前(しかし遠目には往年と全く同じルックス)で顔にメイクしてラブリーなダンスを披露しているのも怖い。しかし、記憶を遡ってみて、ひとりごちる。リアルタイム世代ではない私にとっては、小沢健二は王子様というよりもカルトヒーローだったのだ。文献を読み漁る中で浮か上がってくる小沢健二像は、アッパーだったり辛辣だったり分裂気味で、スノッブで嘘つき。言葉狩りしたり、版権買い取ったり、その存在について関係者が一様に口をつむいだりと、とにかくもうわけのわからない人で、そこに強烈に惹かれたのでした。今回の『魔法的 Gターr ベasス Dラms キーeyズ』はカルトヒーロー小沢健二のご帰還なのである。「渋谷クアトロ事変」や「魔法的電子回路」程度の事でイラついていたのがバカらしい。何としても眼に焼きつける事オススメ。いやほんと絶対あるよ、超LIFE!



完全に余談なんですけど、小沢健二の今回の新曲の世界観では、フクロウとスーパーヒーロー(超越者)が横断していまして、頭にこいつが浮かんできて笑ってしまいました。
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のび太がヒーローに憧れて変身するフクロマンです。人助けに精を出すつもりが失敗続きで、街では「エッチで慌て者の怪人・ フクロマンの正体は誰なのだろう」と噂されてしまう。てんとう虫コミック34巻をマストチェックでお願い致します。



<以下セットリストはナタリーからの転載>

01. 昨日と今日
02. フクロウの声が聞こえる(新曲)
03. シナモン(都市と家庭)(新曲)
04. ホテルと嵐
05. 大人になれば
06. 涙は透明な血なのか?(サメが来ないうちに)(新曲)
07. 1つの魔法(終わりのない愛しさを与え)
08. それはちょっと
09. ドアをノックするのは誰だ?
10. 流動体について(新曲)
11. さよならなんて云えないよ
12. 強い気持ち・強い愛
13. 超越者たち(新曲)
14. 天使たちのシーン
15. 飛行する君と僕のために(新曲)
16. ラブリー
17. その時、愛(新曲)
<アンコール>
18. シナモン(都市と家庭)~フクロウの声が聞こえる(新曲)

*1:中には半額に近いものまで!しかし、今は2日間のライブ好評を受け、高騰しているそうです