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ポップカルチャーととんかつ

『極楽とんぼのテレビ不適合者 下巻~あまりにも過激すぎて放送中止になったドキュメント編~』

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極楽とんぼ山本圭壱が10年ぶりにその姿をテレビに現した。彼の不祥事に関しては真相を掴みかねる為にどうにも言及しようがないのだけども、世代的にはめちゃイケど真ん中ですので、久しぶりに見聞きするその姿や声色は単純に涙腺にくるものがあった。中学受験を控えており『ダウンタウンのごっつええ感じ』も『とんねるずのみなさんのおかげです』も観させてもらえない日々でしたが、どうか『めちゃ×2イケてるッ!』だけは、と頭を下げて息抜きとしていた当時の私にとって、岡村隆史山本圭壱がお笑いのツートップであった事実は揺るがない。加藤浩次極楽とんぼというコンビへの執着や、田村敦(ロンドンブーツ1号2号)らの山本への恩義は、理解を超えてくる得体の知れなさがあり、胸を揺さぶってきた。しかし、最も興味深かったのは、彼らの妙に芝居がかった”演技”としか呼びようのない台詞回しが画面上で展開されていくそのスリリング。いや、勿論あそこに脚本などは存在しないのだろうけども、人は日々”何か”を演じて生きているわけで、この日の『めちゃ×2イケてるッ!』のリアルとフェイクが揺らぎ混ざり合っていく演出と合いまり、何とも言えぬ質感を醸し出していた。

極楽とんぼのテレビ不適合者 DVD-BOX

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極楽とんぼが2004年にリリースした『極楽とんぼのテレビ不適合者 下巻~あまりにも過激すぎて放送中止になったドキュメント編~』を想い出した人も少なくないのではないだろうか。極楽とんぼとマッコイ斎藤がコンビを組み、民放の放送コードにひっかかった企画を上下巻を通してやりたい放題詰め込んだDVD作品。中でもカルト的な人気を誇ったのが、下巻のドキュメント編だ。翌年の廃校が決定している荒れ果てた不良高校の1クラスに180日間(秋口から春まで、と『3年B組金八先生』の時系列に倣っているのがにくい)密着し、その卒業までを追ったドキュメンタリー。不登校、進路、校内暴力、薬物、売春といったクラスに巻き起こる様々な問題に、担任教師と極楽とんぼが立ち向かっていく様が収められている。しかし、カメラは徐々に、生徒たちよりもその担任教師にフォーカスされていき、人間の“業”のようなものが生々しく映し出されていく・・・・これが滅法に面白いのだ。先日、久しぶりに再見したが、改めて傑作との想いを強くした。声を出して笑っていたと思いきや、あまりの恐ろしさに肝を冷やす。笑いと恐怖の綱渡り。この作品が再び灯の目を見る絶好のチャンスが今だろう。しかし、初見に関しては事前情報なしに鑑賞したほうが何倍も面白いであろうからして、ここから先はぜひ鑑賞後にお読み頂きたい。



「それでもドキュメンタリーは嘘をつく」というのは佐村川内守を題材にした映画『FAKE』(2016)が話題の森達也の言葉であるが、更にそのメソッドを複雑化させた「フェイクドキュメンタリー」というジャンルがある。ここ数年でも山下敦弘松江哲明らによる『超能力研究部の3人』(2014)や『山田孝之東京都北区赤羽』(2015)や『その「おこだわり」、私にもくれよ!!』(2016)といった作品が話題や賞をかっさらっている。しかし、一方で山下敦弘の初期の傑作ドキュメンタリー作品を目にしたものにはこれらに生ぬるさも覚えるのも事実。それほどに『その男、狂棒に突き』(2003)や『不詳の人/道』(2004)といった作品に迸るドライブ感は強烈であった。

不詳の人 [DVD]

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極楽とんぼのテレビ不適合者 下巻~あまりにも過激すぎて放送中止になったドキュメント編~』もまた、それらの山下作品に同時多発的に共鳴を発したエッジの効きまくった傑作なのである。余談だが、特典映像のメイキングでは会議において加藤やマッコイらが森達也オウム真理教を題材としたドキュメンタリー映画『A』(1998)
A [DVD]

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を鑑賞している様子が納められている。



民放のドキュメンタリー番組の質感を見事にトレースし、生徒達を含め登場人物の演技演出も実に自然体。これだけで構成されていれば、今作がフェイクドキュメンタリーであると疑う者はいないだろう。しかし、今作の主人公とも言える担任教師”曽我先生”という男が圧倒的に異質な存在であり、観る者に嘘を現実と信じ込ませる必要のあるフェイクドキュメンタリーにおいてはネックであるようにすら思える。しかし、不思議な事にそのあまりのうさんくささが突き詰められていくあまり、彼の人間としての醜さがリアルに反転していく。これは山下作品における山本剛史演じるキャラクターの手法と同様だ。日常に潜むサイコキラーとしてのキャラクター造詣は完璧の一言。脚本を担当した加藤浩次、そして演出のマッコイ斎藤のその手腕には感嘆を覚えることしきりだ。観る者は「え、これ本当なの?作りモノなの?」という疑問に揺らぎ続けながら、ラストの卒業式において曽我先生が繰り出すカタルシスに茫然とさせられる事だろう。人間の心理を弄ぶ、このシニカルでアナーキーな痛快作をぜひとも再び灯の目を浴びて欲しいものだ。そして、やはり全てを把握した上で翻弄されるという繊細な演技をこなしていく、演じ手としての極楽とんぼもやはり素晴らしいものがあり、芸人として脂の乗り切ったこの時期からの10年が失われた事はあまりに大きな損失であったと痛感させられた。