青春ゾンビ

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小山正太『5→9〜私に恋したお坊さん〜』3話

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うーん、苦しい。擁護し切れないミスが多い。高嶺(山下智久)が潤子(石原さとみ)についた嘘が3話を掻き乱し続けるのだが、何故嘘をついたのがよくわからない。祖母の粗相を庇おうとした、というのにしても、高嶺はその祖母を捨てて、山に籠る決断をしてしまっているので説得力がない。また、その嘘によって潤子に決定的に嫌われてしまったとわかると、潤子の周りの人間に相談という形で、真相を間接的に伝えてしまっている。そもそも2話で発された「あなたには正直でいたい」という台詞と矛盾してしまっている。はじめからつく必要のない嘘で、無駄な曲折を辿ってしまったような印象。若手作家と古沢良太を比べるのも酷な話だが、我々は『デート~恋とはどんなものかしら~』を観てしまったばかりだ。小山正太には、変にいい話にまとめてしまわずに、高嶺を”恋愛不適合者”として描き切る勇気を持って欲しかった。一緒にいたいという気持ちが強すぎるあまり好きな人の夢を権力で潰してしまう。そんなサイコなお坊さんの愚行を許してしまえるようなマジカルな筋を用意できたならば、勝利だっただろう。「月9にそんな変化球ばかり期待するな」と言われるのであれば、もっと剛速球を投げて欲しかった、と返そう。嘘による”誤解”というモチーフはラブストーリーの定石。例えば、小山正太が指標に挙げている野島信司の『101回目のプロポーズ

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にこんな筋がある。些細な嘘によって「浅野温子が誰ともわからぬ相手の子を妊娠した」と勘違いした武田鉄矢。浅野との連絡も絶ち、まるで酒に溺れたかのようにフラフラになって暮らしている。浅野への恋心を諦めてしまったかのように見えたが、その実、彼は「彼女の子どもの分まで僕が幸せにしなくちゃ」と、日中のサラリーマン生活に加えて、夜間に工事現場のバイトをして、しゃかりきに金を稼いでいたのだ。付き合ってもいない、好きな人の為に!なんたる剛速球。もはや、球が速すぎて変化球のような気もするので、例にふさわしくないかもしれないが、この武田演じる星野達郎の前では、高嶺の行動には物足りなさを覚えるのは確かだろう。なんでも、小山正太の憧れの作家は、坂元裕二と野島信司だそうだ。この若き才能にかかる期待はでかい。ときに、今回の3話には脚本クレジットが複数名記されていたが、今話の不整合さと無関係ではないような気もする。


勿論、いい所もたくさんある。放送時期に合わせ、ハロウィンという事で、桜庭家では大量のカボチャ料理が食卓に並ぶ(らしい)。清宮(田中圭)にもパンプキンスイーツをもらい、たらふくカボチャを食べる潤子。祖母への抗議として絶食している高嶺、との対比がまず面白いのだが、注目したいのは、潤子が高嶺の手を取り、パーティー会場に導くシーン。まるでゲリラ撮影のような街中での走りが躍動的で素晴らしい。前回述べたように、今作は『灰かぶり姫(シンデレラ)』のモチーフを物語のスパイスとして忍ばせており、カボチャ料理をたらふく食べた潤子のこの疾走は、”カボチャの馬車”に擬えられている。こういった面白さは健在だ。ラストに飛び出した、全Sweetie(山下智久ファンの呼称)様が感涙の必殺の全肯定フレーズ

あなたはかわいい。怒っているあなたも、涙を流しているあなたも、ご飯を食べているあなたも、雑巾がけをしているあなたも、英語を教えているあなたも、家族といるあなたも、どんな時でもあなたはかわいい。

も、ストーカー然とした高嶺のサイコ要素をポジに書き換える見事な手腕。このマジカルさを、もう1つ用意してくれていれば、フェアリー・ゴッドマザーよろしく“ビビディ・バビディ・ブー”な回となった所でした。惜しい。


蛇足。懸念していたオフィス周りの面々は、中村アン紗栄子速水もこみちなどはパブリックイメージを活かして、求められているものを出していると思うのですが、三嶋を演じる古川雄輝が残念ながら良くない。大学生にしか見えない。アッバス・キアロスタミライク・サムワン・イン・ラブ

での好演が印象に強い高梨臨は、同クールで『SICKS〜みんながみんな、何かの病気〜』(テレビ東京)で清水富美加がより高クオリティの腐女子を披露してしまっている運の無さ。BLに関する知識も脚本家に乏しく、演出も痛々しく気の毒としか言えない。何か違った見せ場を用意してあげて欲しいものです。