青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

エズラ・ジャック・キーツ『ゆきのひ』

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雪が積もった日の幼き高揚感を瑞々しく捉え切った永遠のマスターピース。足跡をつけて歩く、雪の小山を滑り降りる、木に積もった雪を落とす、寝転んで手足を動かす(Snow Angel)・・・いつもと違う白銀の街でのはしゃぎ方がここにはすべて詰まっている。とにかく溜息が漏れるほどに美しい絵本だ。構図や柔らかな色彩の魅力はもちろんだが、切り絵・貼り絵を駆使したコラージュの技法が素晴らしい。異なる素材を組み合わせて世界を作り上げる、というコラージュの手法は、作者であるエズラのアティチュードそのものに想える。この『ゆきのひ』は、発売は1962年。「アメリカの絵本で黒人が主人公になったはじめての本」と言われいてる。黒人差別がより根強い時代において、革命的な1冊だったのだろう。黒人の少年が雪と戯れるという物語には、黒/白の共存という祈りが実にさりげなくトレースされていることに気づくだろう。少年ピーターは黒と白に調和をもたらす天使だ。
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淡い色使いの中で、ヴィヴィットに主張する少年の着る「赤い」マントも印象に強い。これまでに流れてきた多くの”血”を慈しむかのようだ。



雪の中で遊び尽くしたピーターは、家に帰ってもそれがどんなに楽しい1日だったかをお母さんに語り尽くす。お風呂の中でも、1日をどんな風に過ごしたかを思い返す。毎日がこんなだったら、どんなに素晴らしいだろう。しかし、解けない雪はない。ポケットに入れておいた雪玉はすっかり溶けてなくなってしまった。ベットに はいるまえに、ピーターは ポケットに手をつっこんでみる。

ポケットはからっぽ。ゆきだんごは、きえちゃった。
ピーターは かなしく なっちゃった。

そして、ピーターはベッドの中で夢を見る。燦燦と輝く太陽が、積もった雪をすべて解かしてしまう夢だ。とてもかなしい。朝が来て、目を覚ましてみると、雪は解けているどころか、昨日以上に降り積もり、ピーターをさらなる冒険に誘うのである。まったく!なんてハッピーエンドだろうか。こうだから絵本はたまらない。哀しみへの準備なんて、とっくにできている。それはピーターみたいな小さな子だって、充分すぎるくらいに。であるならば、物語は、雪を解かすべきではないのだ。「永遠みたいに、まだまだ遊び続けよう」という、エズラの声。それは生への賛歌みたいに響く。