青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

じゅんじゅん『せしぼんEP』


音楽前夜社のポップスター集団MAHOΩの解散はこたえた。しかし、そんな落胆を慰めるかのように、MAHOΩのボーカリストじゅんじゅんのソロ名義音源が発表された。その名も『せしぼんEP』である。

これが目も眩むようにキュートなポップソング集なのである。キッチュでポップ。本来ならば、20年以上前にこういった音源をDouble K.O.Corporation(小山田圭吾小沢健二)プロデュースの元、渡辺満里奈がリリースしておかねばならなかったのだ!という暴言も思わず飛び出します。


『せしぼんEP』のプロデューサーの正体は「ひ・み・つ」との事なのですが、クレジットを確認すると1曲をハニ太郎、その他の楽曲は全て、”ムッシュレモン“となる人物が手掛けている。ハニ太郎が手掛けた「La Grande Armee」は、楽曲に強烈に漂う作家性で、即座にカメラ=万年筆の佐藤優介のペンである事に気づくだろう。そもそもハニ太郎というのは佐藤優介のソロ名義なのだ。そう考えるとムッシュレモンはもう1人のカメラ=万年筆、佐藤望と考えるのが妥当な線である。もし仮にこのアルバムがカメラ=万年筆の2人の手によるものだったら、Double佐藤Corporationによるプロデュース作品という事ではないですか。カメラ=万年筆の才能有り余るクソガキ感には、フリッパーズギターを重ねずにはいられない。


話が逸れました、そのムッシュレモンの手掛ける楽曲がまた曲者なのである。とてつもなくポップなのだが、既視感が凄まじい。「恋するパリじゅんじゅん」では真部脩一、「エトランゼ」では中田ヤスタカ、それぞれの代名詞とも言える旋律を確信犯的に抽出しているよう思えてならない。「恋するパリじゅんじゅん」はいくらなんでも相対性理論過ぎる気もするが、サウンドのエッジを下げたPerfumeのようなエレポップチューン「エトランゼ」は間違いなく本作のハイライト。「ねこにゃんじゅんじゅん」なんていうとんでもないナンバーもある。まるでオニャン子倶楽部時代の秋元康のようなあざとくもキッチュでラブリーな作詞能力を披露している。つまり『せしぼんEP』は"フランス縛り"と言っておきながら、実のところ"プロデューサー"のコスプレを楽しみながら、ムッシュレモンがシニカルに遊び耽るポップソング集なのです。渋谷系リバイバルを鼻で笑え!

しかし、何より凄いのは、見事なウィスパーボイスの使い分けでそのプロデュースワークを乗りこなす、じゅんじゅんかもしれない。ポップソングにおける歌詞と歌(=音)の美しい関係性に自覚的だ。また、パフォーマンスもさる事ながら、彼女の才能を惹き付ける、嗅ぎ分ける、その才能に舌を巻く。川島小鳥銀杏BOYZ豊田道倫、柴田聡子、山本精一岡田徹、音楽前夜社、そしてカメラ=万年筆。挙げればキリがないわけですが、間違いなく言えるのは、彼女は表現者であると共に、実に優れたポップカルチャーの批評家でもあるという事でしょう。*1


お手紙仕様もかわいい『せしぼんEP』ですが、今の所は新宿眼科画廊で行われているグループ展でのみ購入可能。100枚限定という事でしたが、3日で完売し、50枚の追加生産が決定したそうです。何とかして新宿眼科画廊に駆け付けゲットして頂きたいアイテムです。

*1:渡辺満里奈渋谷系と蜜月の時間を過ごした後に名倉満里奈に落ち着いたのも優れた嗅覚あってこそ