青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

立川志の輔『独演会』in 練馬文化センター


新作落語から「みどりの窓口」、古典から「新熊五郎出世」を聞けた。「みどりの窓口」の風刺のようでいて、説教臭い所がなく、むしろ愚かさを肯定するような眼差しが心地いい。キャラクターの演じ分けもお見事。「新熊五郎出世」は古典に志の輔師匠が新解釈を加えた噺で、抱腹絶倒の喜劇調と人情への訴えかけの按配が絶妙でホロリとさせられながら大いに笑った。あの泣き笑いのバランスは本当に素晴らしい。「鶴の一声」のサゲで下がってくる文化センターの幕に見事な鶴が描かれているという演出のオマケも乙でした。落語によく見られるパターンで、「事前に会話のやり取りを練習しておく」というのがあって、それが凄く面白いな、と思う。使う場所やタイミングを間違えていく、という笑いの取り方は、「A君の作文」(全国の小学校で流行した小噺)やアンジャッシュのすれ違いコントの源流のようだ。「新熊五郎出世」で面白かったのが、殿様とのやり取りを事前に大家さんと練習していた熊五郎が、いざ実際に殿様と面会した際に「殿様、それはさっき(大家との練習の時)断ったでしょ」という風に返してしまう所。居なかったはずの殿様が、空間を越えて居たことになってしまうという笑い。いや、しかし、そういった際に、人は確かにそこに”居る”のではないだろうか。例えばその場にはいない誰かの思い出話をする時に、確かに存在するその人の質感。そういう面白さを志の輔師匠の落語から想った。