新房昭之『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』
賛否両論あるようだけども、個人的には大傑作ではないかと思っている。劇団イヌカレーらによる空間設計や美術は、まるで宮沢賢治のスペイシーとLSDとNHK影絵劇『シルエット』が融合したかのよう。作画、構図、アクション、その全てがTVシリーズを更新している。物語の構造も素晴らしく、今作は決して蛇足などではない、と断言したい。
序盤は細部に豊かな差異を散りばめながらTVシリーズの反復を試みる。その差異は徐々に暴走を始め、ダーティな雰囲気を纏っていたTVシリーズが嘘のように、死んだはずの者までもが”魔法少女”の役割を活き活きと真っ当する世界が続いていく。パッと見た感じ初期の『美少女戦士セーラームーン』や『プリキュアシリーズ』のようなものを期待して劇場にやってきた母娘にも満足頂けるような、恋と砂糖菓子にまみれた幸福な映像が繰り広げられていく。しかし、例えば謎のダンスを取り入れた変身シーンにしても、どこかネジがはずれ、歪つに狂っている。30分を過ぎても続くこのアッパーで幸福な世界に観客がさすがに戸惑いを隠せなくなる頃合いに、今作の主人公と言っていい暁美ほむらもまた同じように疑念を抱く。「これは仲間の誰かが望んだ虚像の世界なのではないか?」と。丁寧に重ねられていく回転の運動、随所に挿入される美しくもどこか空虚に街を捉えたロングショット、そして「ナイトメア」というキーワードからも仄かにその存在を感じとれたわけだが、画面に隣町に抜けだす事のできない街を円環するバスが登場する事で、我々ははっきりと、今作の下敷きが『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』ではなく、押井守の傑作『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』である事に気づく。
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さて、たいして知りもしないアニメ史を知ったかぶって語るのでなく、純粋なる映画ファンとしてこの作品を見つめるのであれば、TVシリーズにおいて最も感動的であったのは、印象的に何度もかきあげられる暁美ほむらの、その必ずや束ねられなくてはならぬその黒髪が、最終話にしてとうとう、まどかの赤いリボン(それも1話においてまどかが母によって選んでもらったリボン)でもって結ばれる、あの一連の運動に涙するわけなのだけども、今回の劇場版のラストにおいて、その赤いリボンはほむらから再びまどかの元に戻される、その悲しき円環の理に、再び瞳を潤わすのであります。中盤において、乱れるほむらの髪を束ねてあげるのはやはりまどかであり、その運動が映画を更に振動させていく。
最後に、TVシリーズを観て抱いた『魔法少女まどか☆マギカ』という作品が宇多田ヒカルの「誰かの願いが叶うころ」
- アーティスト: 宇多田ヒカル
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小さなことで大事なものを失った
冷たい指輪が私に光ってみせた
「今さえあればいい」と言ったけど そうじゃなかった
あなたへ続くドアが音も無く消えたあなたの幸せ願うほど わがままが増えてくよ
それでもあなたを引き止めたい いつだってそう
誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
そのまま扉の音は鳴らない
みんなに必要とされる君を癒せるたった一人に
なりたくて少し我慢し過ぎたな
自分の幸せ願うこと わがままではないでしょ
それならあなたを抱き寄せたい できるだけぎゅっと
私の涙が乾くころ あの子が泣いてるよ
このまま僕らの地面は乾かない
あなたの幸せ願うほど わがままが増えてくよ
あなたは私を引き止めない いつだってそう
誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ
みんなの願いは同時には叶わない
小さな地球が回るほど 優しさが身に付くよ
もう一度あなたを抱き締めたい できるだけそっと
「誰かの願いが叶うころ あの子が泣いてるよ」というラインは『魔法少女まどか☆マギカ 』における「魔法少女」というシステムそのものように聞こえる。「小さな地球が回るほど 優しさが身に付くよ」というラインなどは、時を繰り返す暁美ほむらを想わずにはいられないし、他のほぼ全てのラインが今作に回収されていくよう。今作を観終えた後に聞くこの歌はほむらの祈りそのものだ。