青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

坂元裕二『問題のあるレストラン』最終話

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おかしい。どこかに不穏さを湛えながらも、かわいくて楽しいではないか。流れる音楽も今までになく、明るい。きゃろらいんちゃろんぷろっぷきゃりーぱみゅぱみゅを連れ出してのCUPSパフォーマンスはいささかやり過ぎでは、と思うものの、7話でもその手腕をいかんなく見せつけた並木道子による幸福感溢れる演出。レストランを舞台にしたガールズコメディ、と聞いて想像しうる最良のシークエンスの数々。でも、おかしい。9話ラストで、歩行者の前に落下したスプーン、訪れた警察、門司(東出昌大)のオーナーへの暴行、あの悪い予感はどこへ?そういえば、今話のオープニングは眠る「ビストロフー」のメンバーが眠りの中で見る夢の連鎖で始まった。これも、誰かの見ている夢なのだろうか?なるほど、既に指摘されているように『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ [新編] 叛逆の物語』的な構造ではある。しかし、勿論そうではない。坂元裕二は『最高の離婚SPECIAL2014』を例に出すまでもなくいつだって小沢健二的であったわけだけども、今回のこの展開もまた「さよならなんて云えないよ」のトーンのトレースだ。

“オッケーよ”なんて強がりばかりをみんな言いながら
本当はわかってる 二度と戻らない美しい日にいると
そして静かに心は離れていくと

「ビストロフー閉店」というはっきりとした終わりに気づかないふりをしながら、くだらないことばっかみんな喋り合う。ガールズトークが乱れ飛ぶ、明かりに灯された素敵な一夜。限定性がハッと日常を輝かせ、そこに潜んでいた"奇跡"を可視化させるのだ。



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傷ついた人々が屋上に集い、風船が空に舞い上がる所から始まった『問題のあるレストラン』という物語は最終話にしても、やはり「上を向いて歩こう」と言わんばかりに、空にかかる虹を見上げる事となり、手紙は風に舞い屋根に上がっていく。手紙?そう、やはり坂元作品に”手紙”はつきものだ。初恋の女の子に渡す勇気のなかった洋武の手紙は”不思議な力”で、彼女に届いてしまう。こういった不思議な力が今話には溢れている。本来果たされないはずのなかったお客さんのプロポーズ。千佳(松岡莉優)がシェフの経験で得た3つの教えを義理の弟に託し、山羊の逸話が新田(二階堂ふみ)と星野(菅田将暉)の対話を修復する。もしくは、かつての恋人や友人との再会。「ビストロフー」というのは、そういった”不思議な力”で、すれ違っていくはずの人々をシュッと繋げてしまう場所なのだ。
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6話で停電事件で形成された「ビストロフー」の傷ついた人々の道しるべとしての”灯台”のイメージはそのまま、ラストの海辺のレストランに繋がる。そのレストランの対岸(!)には門司の働くホテルがあるという。

門司「海、行く?今度、海」
たま子「行かないよ」

これは6話。そして、10話。

たま子「うちのシェフにオムレツの作り方教えてよ。門司くんの事尊敬しているみたいだから」
門司「教えたら海行く?」
たま子「行かないよ」

行くつもりなんて全然なかった"海"(『海へ行くつもりじゃなかった』!!)に気がつけば辿り着いてしまう。こういう人生のおかしみを掬い上げるのが坂元裕二のドラマだ。