青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ももいろクローバーZ『5th dimension』


このアルバムにおけるももいろクローバーZのルックがKanye Westの衣装(と言うかお面)とカブっている、という指摘から『5th dimension』と『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』

My Beautiful Dark Twisted Fantasy (Clean)

My Beautiful Dark Twisted Fantasy (Clean)

の類似性にまで発展しているツイートを見かけたのだけど、これはあながち妄想でもないでのはないか。美しくも歪に捻じれたダークファンタジー、これは正に今回のももクロのアルバムそのものでありますし、ゴージャスでプログレッシブなサウンドも似ていると言えば似ている。そして収録時間は共に68分だ。何よりKanye Westというアメリカミュージック界の頂点を極めた男の栄光と吐露にまみれたあのアルバムに、念願であった紅白出場を果たし、今後の方向性を模索するももいろクローバーZを重ねてしまうのは容易い。『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』での印象的な

「Who Will Survive in America」
「Now this would be a beautiful death」

という2つのラインが、あえてどうとは書かないが、現在のももいろクローバーZに重くのしかかってきやしないか。ももいろクローバーZがこのアルバムで示した”五次元”というコンセプト。仮に四次元における四つ目の空間を"時間"と解釈するのであれば、五次元とはその時間すらも超越したフィールドの事を指すのであろう。アイドル活動と”時間”の美しくも残酷な関係は言うまでもないが、その場においては加齢は”死”とイコールで結ばれると言っても過言ではない。それらを超えて行こう、というのがこのアルバムでの表明であり、彼女達の言う「紅白の向こう側」というものなのだろう。そうなってくるとこのアルバムに漂う異様な死臭、そしてそれを受け入れるかのような祝祭性にも理解を抱けるものです。過剰に展開されていく楽曲はまるで何かを終わらせないためのようでもあります。


五次元やら宇宙やらといった壮大な中二病コンセプトを差し置いても、このアルバムが面白いのはその楽曲だ。デジタルロック、ヒップホップ、ファンク、クラシック、合唱曲、メタル、オペラ・・・ジャンルという次元を飛び越えながらも複雑にこじらせた楽曲の異様な情報量は、現代のミクスチャーミュージックと呼ぶに相応しい。さぞかし聞きづらいのかと思いきや、サビにキャッチーな歌謡、アニソンテイストなメロディーを用意して口当たりをよくしているのも計算高い。久しぶりに聞いたメンバーの歌唱の表現力上昇も頼もしいし、「ロゴス」「ゲノム」「シュプレヒコール」「エリントン」「デリンジャー」「メメントモリ」「魂のチャーチ」・・・多分どれも意味もわからず歌っているんじゃないだろうか、という感じがバカらしくていい。シングルリリース時は全くピンと来なかった、THE GO!THEAMによる「労働賛歌」、ティカ・α(やくまるえつこ)による「Z女戦争」がこのアルバムにおいてコンテンポラリーミュージックの最新形として輝いている事実には謝罪したい気持ち。


間に挟まっているOK Goによる「ゲッダーン」も跳ねたリズムに、良質なソングライティングが冴えたバブルカムエレポップ。抜けのいいヒップホップナンバー、MUROいとうせいこうによる「5 The POWER」もいい。初期HALCALIのアップデートである。「宇飛ぶ!お座敷列車」もノっている時の奥田民生が手がけるPUFFYもしくはユニコーンのようだし、中期ビートルズに想いを馳せてしまうアレンジの「月と銀紙飛行船」もいい。語りのパートが泣かせるのだ。

なんだかちょっとわからなくったりする時もあって
自分に「お前何!?」みたいに思ったり
でもね そんな時 みんなの顔見て
あ、ここだって思う
そう、だからここからなんです
ここから始まっていくんだって気持ちが
なんかこう 近づいてくって感じで 
後戻りはできない
いつだって時間は進んでいくわけだし
うん、だから歩くなら後ろじゃなくて前だよね

前山田健一(作曲)と近藤研二(編曲)という素敵なタッグによる「灰とダイヤモンド」も紛れもない名曲だ。エレピが絶妙にアクセントをつけながら、豪華な管弦ストリングスが乱舞する。リズム隊が生演奏なのも憎い一大バラード。

霧が晴れた向こう側 綺麗ごとだけじゃなかった
でもまけないよ どんなにすごい風や砂にまかれても
過去よりも高く翔ぶために 助走つけるために
何度も うまれかわってる
閃光 夜明け 輪廻

というラインに注目したい。つまり”五次元”とは”輪廻”の事を指すのではないか。Kanye Westの放った「Now this would be a beautiful death」というライン。ももいろクローバーZはその自身のアイドル活動を”輪廻”に重ね合わせ、”死”(=加齢もしくはスタイルの変化もしくはファンの入れ替わり)を肯定する。「甘き死よ来たれ」という感じに、この一大モンスターアルバムを作り上げたのだ。いやー頭でっかち。しかし、これを作り上げたももいろクローバーZの次の一手は、とても気になる所だ。