青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

シムズ・タバック『ヨセフのだいじなコート』

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古本屋で見つけて一目惚れした絵本だが、2000年にコールデコット賞(アメリカの絵本界における権威)を受賞しており、すでに多くの人々の記憶にマスターピースとして根付いている作品。「この絵本は、水彩絵の具、グワッシュ、色鉛筆、インク、そしてコラージュでできています」という冒頭の宣言どおり、優れたパッチワーク(継ぎ接ぎ)感覚で制作された1冊。発刊は2000年になっているが、もともとは同タイトルで1970年代に出版されており、その時はほとんど売れなかったのだという。シムズ・タバックのそのどこかカラフルなヒップホップ的感性は30年の時を経て、時代に追いついたのかもしれない。


ヨセフの大切な一張羅のコートはどんどん擦り切れていく。その度にヨセフは、ジャケット→ベスト→マフラー→ネクタイ→ハンカチ・・・と大胆なリメイクを施すのだ。ここに「ものは大切に使いましょう」というような道徳を読み取るのも、もちろんOK。絵本は子供たちのものだ。しかし、この絵本がここまで広く支持されたのは、現代を生きる”日々擦り減っていくような感覚”を的確に紡ぎ取っていたからのようにも思う。ヨセフは妻も子供もおらず一人ぼっちで動物に囲まれて暮らしている。陽気なダンスフィール溢れる絵には表出されないが、その背景には必ずや”孤独”が忍んでいるはず。しかし、お気に入りのコートやジャケットでめかしこむ時は、彼はどこかへ出掛けていく。擦り減っていく毎日の中でも、思い出は増えていく。そして、最後には大事だったコートのすべてをなくしてしまったヨセフ。彼はそれをただ嘆くのでなく、これまでの出来事を物語にしたためる決意をするのだ。

だって “なんにもない!” になるまでに いろいろ あったでしょう?

削られて小さくなっていくような恐怖(それは命の暗喩そのものだ)を鮮やかに反転させるエンドロール。何度だって読み直して、勇気をもらいたい一冊だ。

ヨセフのだいじなコート (ほんやくえほん)

ヨセフのだいじなコート (ほんやくえほん)