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ランジャタイ、歴史を語る『やるなら今しかねえ』

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板橋ハイライフプラザで開催されたトークライブ。漫才での無軌道なイメージが強い彼らだが、フリートークは実に安定している。流暢に喋り続け、芳醇なエピソードの数々で観客を魅了してくれました。ゲストなし、2人だけで、その半生を振り返るという硬派なライブに50人以上のお客さんが詰めかけた事実。10ヶ月前に開催された同会場でのモダンタイムスとの合同ライブの客数が10人ほどであった事を考えると、この1年間の彼らの躍進が伺える。勿論、ランジャタイの未来はまだまだこんな所に留まらないだろう。しかし、やるなら今しかない。まず一旦彼らの辿った軌跡を振り返る事で、その確かな才能の誕生を喜ぼうではありませんか。



覚えている限り、書き記しておきたいのだけども、どうしてもまとまらない。伊藤さんのパートも負けず劣らず刺激的だったのですが、とりあえず国崎さんのパートだけで構成しました。ときに、トークライブのレポートというはとても難しい。エピソードトークなどは伝聞であるからして本来であれば全ての文末に「~らしい」をつけないといけなくなるわけだけども、それは鬱陶しいし、読みにくいではないか。その為、あたかも自分が体験した事のような文体で、再構築されていますが、ご了承ください。

<幼少時代>

富山県氷見に生まれ育つ。父はタイル職人で、月に50万稼ぐ事もあるが、1円も稼がない月もある、というようなとても不安定な家庭財政だった。そんな父の実家は謎が多く、母はなかなか足を踏み入れる事が許されなかった。母が、制止する父を振り切り、実家を訪ねてみると、家族全員がサングラスをかけて生活していた。老人も子どももみんなサングラスをかけ、食事中でさえ、それを外すことはなかったという。


親から愛情をたくさん受けて育つも、周りからは「この子はダメだ」と言われ続ける。とにかく落ち着きがないというか、常に走り回っている子どもだったのだ。動いている人を見ると何だか楽しくなってしまい、知らない人であろうと走って付いて行ってしまう。同時に、世界の構造が理解できず、常に混乱していた。例えば、「扉を開ける」という概念が理解できず、扉というものは通る際に勝手に開くものだと思っていた。

とりわけ印象的なのは、「扉は走っていれば勝手に開く」という思考だろう。何という全能感。ライブ序盤で飛び出したこのエピソードで早くもランジャタイの漫才の創造の根源に辿り着いてしまったような気持ちになった。父の実家のくだりはあまりに眉唾だが、嘘偽りない実話だという。『世にも奇妙な物語』というか、往年の松本人志の世界観ではないか。


<幼稚園>

・送り迎えのバスに何故自分が乗せられているのかわからず泣く


・男同士での性器のこすりつけ合いに熱中

<小学校>

・音楽の授業でベートーヴェンの「エリーゼのために」を聞き、涙が止まらなくなる。見た事もない外国風景、そして一軒の家の情景が頭に浮かび、そこがエリーゼの家なのだと確信。以降、自身をベートーヴェンの生まれ変わりと考えるようになる。


・幼児園時代に引き続き、性器遊びに熱中。性器をメンコに見立てた競技が流行する。その遊びに常に参加してくる男子高校生が1人おり、何故か常にいきり立っている彼のイチモツはその遊びにおいて最強であり、小学生からヒーローのように扱われていた


・雪が積もった日、妹とカマクラを作って遊んでいたら、生き埋めにされ殺されそうになる。後年、その出来事について妹に尋ねてみると、「生かしておくと、国崎家に災いをもたらすと思ったから」と言われる


・父が怪我で救急車に運ばれる。運ばれる際、父は何故かサングラスをかけていた

ベートーヴェンの生まれ変わり」説の不思議さ。仲のいい友人にはこの事を打ち明けていたらしい。ちなみに私はランジャタイにベートーヴェンの音楽を感じた事はありませんが、今後は「ランジャタイの漫才はベートーヴェン」と言い続けていこうと思います。同姓間での性器を使った遊戯のエピソードは実に銀杏BOYZ的だ。性の未分化という事なのだろうけど、こういった遊びは地方ではあるあるネタなのでしょうか。またしても飛び出る父のサングラスネタ。実話らしい。


<中学~高校>

・基本的にはどこでも”マジキチ”扱いされていた


・授業中にボソっと言った一言でクラスが爆笑。以降、世界に色がついて見えるようになり、芸人を志す


テツandトモ「なんでだろう」に衝撃を受ける(ちなみに青いジャージのトモ派)


・近所で女性がプリントされた風船人形(おそらく広告物のエアーPOPの一種)を拾う。当初は押せば戻ってくる”おきあがりこぼし”的な要素に関心を抱いていたのだが、ラムちゃんと名づけたその風船をある時期から異性として「大切だな」と想うようになる。思い切って告白を試みるも、一度は断れてしまう。しかし、粘り強く告白を続け、見事2人は付き合う事に。さすがに親に見つかってはまずいと考え、学校に行く際は空気を抜いておき、帰宅すると、ふくらまして、会話を楽しむという生活を続けた。2人の間には結婚の話も何度か出たが、ラムちゃんに「私は風船だし、周りから祝福されない結婚だ」と反対される。「それでもかまわない」と国東が決意を固めかけた頃、家に帰ると母親が庭先でラムちゃんを燃やしていた。「ラムちゃんが死んでしまう!」と必死に止めに入ろうとするも、母に肩を掴まれ「しっかりせい!」と諭される。母は部屋で風船を膨らまし会話をする息子の姿に気付いていたのだ。しかし、彼にとってラムちゃんは生きた人間であるからして、「自分は殺人鬼と一つ屋根の下暮らしているのだ」という気持ちが消えず、以降ギクシャクした母子関係が続いた。

いくらなんでも強烈過ぎる風船との愛のエピソードに、会場は若干引き気味。しかし、このまるで業田良家の『ゴーダ哲学堂 空気人形』のような話は、一種の美しさを湛えている。ちなみに会話はテレパシー的なものではなく、はっきり音声として聞こえてきたらしい。学校や外にいる時は聞こえないので、確かに人形から発されている声なのだ、と国崎は熱弁していた。テツandトモ「なんでだろう」に衝撃を受けたというエピソードを、世界の構造が理解できずに常に混乱していた幼少時代と結びつけるのはこじつけか。ちなみに、とりわけトモのハモリの部分が好きだったらしい。


<上京~NSC時代>

高校を卒業後、上京してNSCに入学。軍隊のような厳しさに嫌気が差し、唯一優しかったラッキー池田のダンスの講義のみを受け続ける。NSCで相方の伊藤に出会う。彼は入学するなり「お前、面白いんかぁ?」とクラス全員の肩を叩いて回るなどの尖りを見せていた。彼の問いかけに唯一「面白いよぉ」と答えたのが国崎。2人は惹かれ合う。しかし、あまりにクラスの和を乱す伊藤はNSCからクビを宣告される。クビ免除の条件として街のゴミ拾いを命じられ、国崎はそれを手伝うことに。見事ゴミ袋3つをパンパンにするも、クビの免除は何故か認められず。大雨の中、NSCビルの入口でゴミに囲まれながら、泣き崩れる伊藤の姿を見て、国崎はコンビ結成を決意する。当時のコンビ名はオイモホッターズ。


<SMA時代>

クビになった伊藤に倣い、国崎もNSCを自主退学。最も敷居が低いお笑い事務所、としてお馴染みのSMAに所属。HEET Project(ちなみにHEET Projectは下位部門である、上位部門であるNEET Projecにはバイきんぐ、ハリウッドザコシショウ、マツモトクラブなど昨今の賞レースのファイナリスが多く所属している)として月1のライブに出演。ライブでは小学生姉妹コンビに敗北するなどスベり続け自信を失う。しかし、事務所ライブでランジャタイのネタを観たバイきんぐ小峠が彼らを称賛。『ゴッドタン』でも紹介されていたあの逸話である。

小峠「お前らまさか天下狙ってるんじゃねぇだろうなぁ?」
ランジャタイ「そのつもりです」
小峠「あながち間違ってないかもしれねぇな」

当時、小峠自身も無名であったわけだが、数年後、『キングオブコント』決勝の舞台に立つ小峠をテレビで観て、ランジャタイの2人はたいそう驚いた。結局、SMAでは芽が出ず、フリーに。ちなみに、当時、同事務所で異彩を放っていた芸人として現・湘南デストラーデの吉田尚を挙げていた。凄い人は最初から凄いのだ、と彼らは言う。現在、「ライバルと考える芸人」としてSMAのモダンタイムスやマツモトクラブの名前を挙げている。


<フリー時代~現在>

山中企画浅井企画ケイダッシュステージ、タイタンなどの様々な事務所を回ってみるもどこにも所属できず。それと並行し、自宅でお客ゼロ人のライブを開催。その様子を撮影して自分達で鑑賞、自分達でアンケートに感想を書き、自分達で読む、というサイクルを単独ライブとして繰り返す。第7回のライブで(自分達に)あまりにスベり過ぎて、自信喪失。腐りかけていた頃、かねてより親交のあった浜口浜村の浜村がその単独ライブを訪れる。一連の様子を見て、あきれ果てた浜村がランジャタイを自身の自主ライブに出演させる。初めて100人規模のライブに出演し、そこでウケた事で、ライブシーンでの認知が一気に高まる。出番を終えたランジャタイに対して浜村が「これがお笑いライブだ」という名言を残した事は一部の地域で有名であろう。マセキ芸能社のスタッフからもネタの評判が良く、所属が決まりかかるも、若手の重要な仕事であるライブでの照明や音響の手伝いで失敗を繰り返し、契約には至らず。しかし、フリーながらも、ライブシーンでの活躍は目覚ましく、月に20本以上のライブに出演する売れっ子ぶり。そして、昨年、ついにオフィス北野に所属。倉本美津留、『ゴッドタン』、POISON GIRL BANDなど錚々たる面子、媒体から目をかけられ、活躍の場を更に広げているのが現在の状況というわけであります。筆汚し、失礼いたしました。YouTubeに公開されている『ぽんぽこラジオ』も伏せて聴きますと、より各エピソードが補完される事かと思います。とにもかくにも、ランジャタイというお笑い界に久しぶりに表れた巨星のような才能に、今後も注意と愛情を注いでいく事を、再決意する一夜となりました。



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