青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

『マエヘススメvol.2』ランジャタイpresents「全日本中井貴一選手権」

お笑いライブを興行してい「U&Cエンタプライズ」が主催する『マエヘススメ』という定期ユニットライブがありまして、個人的に現在最も注目するに値するライブであると考えております。その理由は単純にその面子だ。

サツマカワRPG
シャイニングスターズ
湘南デストラーデ
なんぶ桜
ぶらっくさむらい
真夜中クラシック
メイプル超合金
ヤーレンズ
ラバボーズ
ランジャタイ

この10組。ヤーレンズらの例外をのぞいて、東京お笑いシーンの最大手「K-PRO」にはまりきってない芸人という風にも括れる。故にオルタナティブな香りが非常に強いのですが、亜流が王道を書き換えてしまうような力強さを感じる。特にランジャタイ、ヤーレンズメイプル超合金湘南デストラーデ、サツマカワRPG、の5組のポテンシャルは強烈で、群雄割拠の若手の中でもトップランカーであると信じてやみません。この5組のネタを定期的にまとめて観られる、というだけでこのライブの存在意義は高い。


昨年の12月にvol.1が開催され、今回が待望のvol.2。2月以降は月ごとに主役を変えて(主役はMCと企画を担当)月例で開催予定。2月はランジャタイが担当という事で期待は高まりに高まっていたのですが、それをゆうに超えてくる幸福感に満ちたライブでございました。10組一気に披露されたネタではヤーレンズ湘南デストラーデがとりわけ素晴らしかった。ヤーレンズの自然体さ。ネタとお喋りの境界のフラットさには、新しさしか感じない。新しい漫才のパイオニアになる存在だろう。湘南デストラーデのコント「ギャンブル」はこの日1番の笑い量。明瞭かつウェルメイド。それでいて、まいぱん氏のツッコミのパワフルさで爆笑をもぎとる。バイきんぐ系譜のコントとも言えるかもしれない。今年のキングオブコントを狙えるネタではないだろうか。


さて、問題はランジャタイによる企画「全日本中井貴一選手権」である。数十人しか目撃しなかったのをいい事に、”伝説の一夜”と大袈裟に煽りたい。独創性とナンセンスが入り乱れ、観客のみならず出演者も脳味噌を掻き回される熱のこもった夜でした。活字にした所で、その面白さはとうてい伝わらない事を承知で、この大会の概要をまとめておく。この大会の発案者であり、支配人であるランジャタイ国崎のよって参加者4人(それぞれ神戸代表の貴一:ヤーレンズ出井、鹿児島代表の貴一:真夜中クラシックタケイ、広島代表の貴一:ラバボーズ横田、鳥取代表の貴一:ランジャタイ伊藤)が舞台に集められる。奇しくも全員が眼鏡(伊藤のみサングラス)をかけているが、その点については何の説明もない。4人にはライフ貴一(中井貴一をプリントアウトした紙)が与えられ、それを胸に掲げる。3つのゲームを行い、勝者は相手のライフ貴一の「欲しいな」と思う部分を引きちぎり、自分のライフ貴一にテープで貼り付ける事ができるのだ。
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ちなみに、この「ライフ貴一を引きちぎり、テープで貼る」という行為はこの大会の国崎にのみ与えられた特権だ。ゲーム終了後、それぞれのライフ貴一の状態から最強の中井貴一を決定する、という大会。ゲーム後に出来上がる「ライフ貴一」は中井貴一中井貴一を喰らった後に出来上がるフリークスである。中井貴一という名優が一瞬にして化け物へ。


実際にプレイされた3つのゲームは以下だ。


①舞台に登場した4人の中から”コブラ寺沢武一作)”を探し当てる
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赤く金髪であからさまにコブラメイプル超合金のカズレーザーを尻目に、正解はシャイニングスターズ廣田という不条理劇。他の2人は安藤なつがアラレちゃん、サツマカワRPG水木しげる先生に扮していたのだそうです。


毛利小五郎になりきり、麻酔針に刺された後、蘭ねーちゃんに気付かれないように何秒間コナン君に操られるかを競う
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蘭ねーちゃん(安藤なつ)の「ちょっと、何してるの?」が発されるとタイムアップ。ようは安藤なつの匙加減次第。ヤーレンズ楢原のコナン君も最高だ。


③「欽ちゃんの仮装大賞」の出品作である「痴漢とカラス」において、痴漢する手を振りのけられた反動でカラスが何回転したかを当てる、という1番意味不明な演目。ランジャタイの漫才でもお馴染みの欽ちゃんの仮装大賞。国崎はあの小宇宙でどんな夢を見ているのか。



ちなみに結果は全てランジャタイ伊藤が勝利。「ライフ貴一」の設定も第2ステージにして消滅。全日本選手権終了の後、世界大会としてアメリカ貴一(ブラックサムライ)が登場、と思いきや、突如乱入したおじさん(湘南デストラーデ吉田)が全ての「ライフ貴一」を破り優勝。やりたい放題である。ゲーム開始前には、中井貴一の写真が貼られたペットボトルとタッパーが登場し、中井貴一の地元である世田谷区から汲んできた貴一水と少し冷えた貴一ソーセージで口と身体を清める。行為の無意味性の中でこういった細部が振動する。
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ツッコミの隙を与えないイマジネイティブなボケの連打。国崎はゲーム内において絶対神となり、あらゆる法則を自由にねじまげていく。幼児性が持つ無敵感と悪夢の狭間。これは、ランジャタイの漫才そのものだ。この「全日本中井貴一選手権」、フォーマットとしては、往年のダウンタウンが『ごっつええ感じ』や『ガキの使いやあらへんで』といったテレビ番組で披露していたものと言える。
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EDにおいて、ランジャタイの2人と湘南デストラーデ吉田が肩を組みながら、浜田雅功「チキンライス」(作詞:松本人志)を熱唱していた事も、そのリスペクトの証左となりましょう。しかし、このダウンタウンの生み出したフォーマットは魅力的でありながらも、扱うのは難しい。これまで何度も若手芸人が挑みスベリ倒すか収束つかぬまま終わっていくのを、ライブ企画等で目撃している。ルールの破壊と再生すら許された、神のごとく傍若無人な振る舞いには、それ相応の器が求められるのだ。ダウンタウンというカリスマ性抜きには成立し得ないと思われていたこのフォーマットを、カリスマと呼ぶにはほど遠いいでたちのランジャタイが、その豊かな独創性だけで完全に自分達のものとして乗りこなし、成立させていた。その何と感動的な事だったろうか。