青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

ブログ2周年記念『ザ・なつやすみバンドのこと』


ザ・なつやすみバンドがついに全国流通音源1stアルバム『TNB!』を完成させ、6/6に発売となります。初めてライブを観たのが2年前、ブログを始めたのも2年前。多分おそらくきっと、ザ・なつやすみバンドについて何かを書き記したくて、私はブログを始めたのだ。時計の針を2年ほど戻してみたい。


2009年、私は昆虫キッズというバンドに出会ってしまう。彼らのライブに通いつめる過程で、この国のアンダーグラウンドではとてつもなくかっこいい音楽が鳴っている、というのに気づかされたのだ。Youtubeでインディーバンドの演奏を漁るように観て回った。その中でひと際、心奪われたのが、ザ・なつやすみバンドでした。そのソングライティングの才能、何より中川理沙の醒めているようで芯の強い歌声と詩世界に強烈に惹きつけられてしまったのです。

物憂げな犬と 歌わない鳥たち 
からっぽな私と みんな似ているのです

HPをチェックしてみると、『なつやすみの誘惑』という自主音源を完成させたばかりという事で、いてもたってもいられなくなり、Twitterで「どうやったら買えますか!?」と@を飛ばした。「ライブ会場で先行販売しますよー」との事だったので、いそいそと秋葉原グッドマンに足を運ぶ。そこで観たライブに、これまた衝撃を受けてしまう。ザ・なつやすみバンドというネームから連想されるのは牧歌的、楽園的なイメージだけれども、それに加えて、過ぎ行くモラトリアムを鎮魂するかのようなヒリヒリしたムードをも持ち合わせたバンドだったのだ。そのサウンドの核を担っていたのがギターの大高健二。下を向きエフェクターを操りながら演奏するというまさにシューゲイズといった佇まいで、ときには何から逃れるための防御膜のような空間を、ときには感情を爆発させる轟音を、バンドにもたらしていました。今のザ・なつやすみバンドからはちょっと想像がつかないですよね。「いつまでも夏休みだといいなぁ」という無邪気な祈りは、同時に「終わってしまう事」への諦観に満ちているように思えた。

夢中になるその一方で、正直言ってこのバンドが長く続いていくとは思えなかった。いい音楽が簡単に売れる時代ではないし、ザ・なつやすみバンドの面々も学生生活を終えて、進路を確定させねばならぬ時期であった。そんな予感に沿うかのように2010年にギターの大高が脱退。しかし、その逆境の中で救世主が登場する、ご存じMC.sirafu。まさにここがターニングポイントである!とか言いながらも、当時は「エムシー素面とはなんぞや?」という感じでしたので、「何故このかわいい子どもたちの中におじさんが!」とか「ピアノとスティールパンって上物同士ケンカしちゃわないの?」とか、まぁ色々訝しがっておりました。MC.sitafuというミュージシャンの凄さをまだ知らなかったのだ。

誰だよ!?という人もまだいるかもしれません。そもそも何故「MC」なのか。何でもその出自はヒップヒップやクラブミュージックだったそうで、楽器を持って演奏を始めた最初のバンドが「片想い」なんだそう。そう、MC.sirafuとはあの片想いのほぼ全ての楽曲を手掛ける主要メンバー。アナログ7インチでありながら、即完売の大ヒットシングル「踊る理由」も彼のペンである。

しかし、MC.sirafuを知らない人は片想いも知りませんよね。では、これでどうだ、MC.sirafuとはあのceroの特殊任命サポーターである。これは凄い。更には、昨年の下北沢インディーファンクラブフェスが「シラフェス」と呼ばれるほどに多くのアーティストの演奏に参加するマルチプレイヤーなのです。ざっと挙げてみると、NRQ、Alfred Beach Sandal、oono yuuki、あだち麗三郎、mmm、videotapemusic、ホライズン山下宅配便、アナホールクラブバンド、ジオラマシーン、チークタイム温度、表現、ボンボンスパイラル、昆虫キッズ、スカート、ヤング、マリリンモンローズ・・・。中川理沙とMC.sirafuによるピアノとスティールパンのニューアンビエントポップスデュオうつくしきひかりも忘れてはなるまい。彼の渡り歩いた道筋が描くその円形こそが、今の東京のグッドミュージックシーンそのものではないか。そんな御方が何故、ザ・なつやすみバンドにパーマネントメンバーとして加入したのか。以前、聞いてみた時は「もったいなかったから」と言っていた。中川理沙の才能とギターレスバンドとしての可能性に未来を見たらしい。氏の加入によるメリットはソングライティング、パフォーマンス、企画力、人脈など挙げればきりがないが、何より「MC.sirafuがいるのだ」という安心感からなのか、演奏するンバーの表情が、グッと柔らかく、そして楽しげになった。かつての現実逃避を奏でるバンドの姿はそこにはなく、世界を祝福するメロディーとビートをそなえた光輝くポップソングを連発している。スティールパン、トランペット、多彩なコーラスワークなどにより、チェンバー、トロピカリズモといったトレンドのサウンドも兼ね備えたそれらの楽曲は、「ポップソングにはまだこんな可能性が残されていたのか」という驚きに満ちている。そんなバンドの好調は、コンピレーションアルバム『モノノケ大行進』への参加、下北沢インディーファンクラブフェスでの入場規制動員、rojiでの投げ銭ライブ、ぐるぐる回るフェス欠場、オルグを満員にしたNRQとのツーマン、コトリンゴの前座抜擢・・・と着実に結果として現れている。そんなザ・なつやすみバンドの1stアルバムがついに発売されるのです。これはもう事件なのです!