青春ゾンビ

ポップカルチャーととんかつ

井上剛『その街のこども』

井上剛『その街のこども』を観た。

子どものころに阪神・淡路大震災を経験した男女が、追悼の集いが行われる前日に神戸で偶然知り合い、震災当日から15年後の朝を共に迎える姿を描く人間ドラマ。

その街のこども 劇場版 [DVD]

その街のこども 劇場版 [DVD]

素晴らしかった。昨年NHK阪神大震災15年特集ドラマとして放送されたものの劇場版。といっても未公開シーンを足して編集したものなので、映画として作られたものではない。しかし、これがしっかり映画なのである。ひたすら夜の街を歩く2人の運動は、呼吸のようであり生きることそのものである。時に感傷的であったり、官能的であったり、と様々な表情を見せる森山未来佐藤江梨子の運動感は素晴らしい。夜の散歩をしないかね。*1


また、巧いのが鞄の使い方。2人は居酒屋に入る前にロッカーに荷物を預ける。そして、閉まった鞄を取り出し、ジャンケンをして負けたほうが2人分の鞄を持つというゲームをしながら歩き始めるのだ。一見すると、小学生のたわいない遊びを20代の男女がしているエロティックさとおかしさが醸し出される素敵なシーンに、閉まった記憶をとり出し、他者と共有するというエモーショナルさを潜ませている。

街の光が素晴らしい。低予算のカメラで撮られているのであろうし、技術的に見るとNGなのかも知れないが、夜の街に揺らめく、街灯や信号機が家の中からの明かりがとにかく素晴らしい。夜の光は震災からの復興の象徴であり、またその揺らめきは現在と15年前の境界をあやふやにする。街の光はとても美しいが、時にとても不安な気持ちにさせる。あの窓の明かり一つ一つに、同じ数人生が一つずつあるのだと思うとその膨大な不確かさにクラクラしてしまう。そんな中、あの終盤のマンションのシークエンス。その確かさに涙しました。大友良英の音楽も素晴らしく、本年度ベスト10入りはほぼ確定な傑作。

*1:個人的にセブンイレブンで肉まんを食べる、ってのにもグッときました。